第22話 揺るがない想いと自信を持って


「はぁ、、、はぁ、、」


陽心から逃げて駅までずっと走ってきた。

疲れはあまりないが、ただ少し息苦しさだけはある。


駅の階段を降りていつものバス停に行くと、そこに圭介がバスを待っているのが見えた。


「よう、圭介。」


「あれ?慎どうしたんだよ。姉ちゃんは?」


「ああ、、まあ、少し話して先帰ってきた。」


「え!姉ちゃん置いてきたのか?」


「、、、ちょっと今日は一緒に帰りたくない気分だったから、、、。」


「さっき仲直りしなかったのか?」


「、、、喧嘩というか俺の一方的な気持ちをただぶちまけただけで、」


「、、、。」


「もう、俺、ダメかもしんない。今度こそ本当に陽心に愛想尽かされたような気がする。」


「姉ちゃんがお前に愛想尽かす?」


圭介はよく分からないと言いたげな顔で聞いてきた。


「俺、陽心の男友達に嫉妬してその嫌な気持ちを一方的に陽心にぶつけたんだ。ありえないよな。付き合ってもないのに、何様だよって感じ。」


「それで姉ちゃんお前になんて言ったんだよ。」


「陽心は俺が嫉妬してることに気づいてなくてどうして苦しんでるのかはっきり言って欲しいって言わなきゃ分かんないって言ってた。それで多分、話してる最中に俺が嫉妬してることに気づいて、、でも俺はそういう嫌な気持ちに気づかれたくなくて逃げてきた。」


「あー逃げてきちゃったか。」


「、、、せっかく陽心と日曜出かける約束もしてたのに、、それもダメになるかもしれない。」


「出かける予定立ててたのか!それは初耳。で、いいのかよそれで。」


「いいわけない。でも怖いんだ。嫌な部分を見られて、嫌われるのが。」


「なるほどな〜。」


「、、こんな、、こんな俺のこと、陽心は好きになるはずがない。」


「お前、」


圭介は俺の方を見てうっすら笑ってこう言った。


「ほんと、しょうもないな。」


「え、、。」


「何悲劇の主人公みたいな顔して、俺に熱く語っちゃってんの。」


「!俺はそんな、、」


俺はどうしたら良いか分からなくて言っただけで。

圭介はさっきよりもしっかり俺の方を向いてそう言ってきた。


「嫌な部分見られたくないとか、嫌われるのが嫌だとか、こんな俺のこと好きになるはずがないとかさあ、何浸ってんだよ。」


「っ!、、、。」


「勝手に落ち込んで甘ったれてんじゃねえよ。選ばれるかもしれないっていう期待があるから、そんなことが言えんだよ。」


「、、、。」


期待するだろ。陽心とまた一緒にいることができるようになったんだから。

陽心も考えるって言ってくれたんだから。


「ずっと好きでいる自分に、恋してる自分に、酔ってんじゃねえよ。」


!、、、、、何も分からないくせに


「俺の」


「なんだよ?」


「俺の気持ちなんて分からねえくせに勝手なこと言ってんなよ!!」


圭介から言い放たれた言葉を聞いて頭に血が上り圭介の胸ぐらを掴んだ。


「ずっと近くにいて少しは知ってるからって適当なこと言ってんじゃねえ!俺がどんな気持ちでずっと陽心を見てきたか、どんな思いで陽心から離れたか全部わかりもしねえくせに!」


「、、、知らねえよそんなの。」


「お前にはそういう気持ちなんて分かんねえよな。必死に告白して友達でもいいからって言ってきた子をあんなバッサリ切り捨てるんだもんなあ。」


「!、、、。」


そんなことを言いたいわけじゃないのに、圭介の表情や態度を見ているとどうしても嫌味のように言いたくなってしまい、心にもないことを言い放っていた。


するとされるがままでいた圭介が急に俺の胸ぐらを掴み返してきた。


「俺の気持ちが分からないくせにとか色々言ってるけど、じゃあ俺の気持ちは分かんのかよ。」


「は?」


「最初から諦めるっていう選択肢しかない俺の気持ちなんてお前には分かんのかよって言ってんだよ!」


「!、、、、。」


『まあ、そうだね、、。好きな人がいるんだ。』

圭介の言葉であの時言っていたことを思い出した。

諦める選択肢しかないってどういうことだよ。


「姉ちゃんは好きな奴もいなければ付き合ってる奴もいない。何より恋愛経験だってない。しかも姉ちゃんはお前の近くにいる。前は離れてたけど今はそばにいる。そういう人を好きになって振り向かせようと頑張ることができるお前には俺の気持ちなんて分かんねえだろ!」


「、、、。」


「好きなやつが追いかけられるくらい近くにいるのに逃げ腰になってるのがイライラすんだよ。」


「、、、。」


何も言い返せなかった。

確かに陽心は俺のそばにいる。俺も陽心のそばにいることができている。

物理的な意味でも近くて、関係だって近い存在だ。


この前コンビニのベンチで一緒にアイスを食べた時、陽心は言ってくれた。

もう何も言わずに遠くに行ったりしない、嫌だと思ったら面と向かってぶつかってきてと。

あの時は進路の話だったが、陽心は俺が何かで不安になったときもちゃんと言って欲しいと言いたかったのかもしれない。陽心は前に俺が泣いているところを見てしまったからその思いが強くなっていたんだ。


でも俺はそれをしなかった。


「、、、好きな人と喧嘩とか近づいてくるやつに嫉妬できるお前が羨ましいよ。」


「圭介、、、。」


俺が圭介の胸ぐらを掴んでいた手を離すと、圭介も手を離した。


「お前の姉ちゃんへの気持ちなんて分かりたくもねえけど嫌でも伝わってくんだよ。一喜一憂しながら必死になってるお前の姿を見てると。」


圭介は呆れた顔で俺を見てくる。

さっきまでの険しい表情ではなく柔らかく少し笑ってそう言ってきた。


「俺、、そんな必死だったか。」


「必死だろ笑 だから嫉妬なんていう一時的な感情に流されてんじゃねーよ。」


「、、、でも、俺は」


「慎、姉ちゃんのことどう思ってんだよ。」


「え、、好きだけど。」


なぜ圭介は当たり前のことを聞いてくるのだろうか。


「それでいいだろ。」


「?」


「その気持ちは他人と比べるものでもない。誰かが姉ちゃんをどう思ってたってお前のその気持ちは変わらねえし、お前の中にずっとあるだろ。」


「、、、ああ。あるよ。」


「嫌な気持ちよりももっと好きだっていう気持ちの方がでかいんだろ。」


「当たり前だろ。」


「じゃあ今度は好きだっていう気持ちをぶつけ続ければいい。」


「、、、。」


「言っとくけど、姉ちゃんがそういうの嫌だったらはっきり言うし、お前のこと嫌だったらお前の告白を考えるなんて言わねえし、とっくに断ってる。」


「!」


「だから少しは自信持てって。」


圭介は俺の肩に力強く手を乗せてきた。


好きになって欲しいとか好きになってくれるかもしれないとか、期待はしていたけれど、二回も告白しといてずっと自信がなかった。

陽心に自分を好きになってもらえるのかが。


、、、俺は少し自信を持っても良いのだろうか。


「はは!バス言っちまったな。笑」


「あ、そう言えば。」


圭介に言われて思い出した。ここがバス停だということに。

バス停で胸ぐら掴み合って怒ってたからなのか俺たちの周りだけ人がいない。

今になって恥ずかしくなってきた。


「あ、慎お前、俺が告白されてるとこ盗み見てたんだな。」


「あ!いやあれは陽心が覗きに行ってて、、まあ俺も気になったんだけど。」


「あいつ、、絶対俺の弱み握ってやろうとか思ってたんだろうな。」


さすが弟。よく分かってる。


「なあ、圭介。お前の好きな人って誰だよ。あんな真剣な顔のお前見たことなかったぞ。」


「お前、今それ聞くか?」


「いや気になるだろ。、、、最初から諦めるしかないってなんだよ。」


「、、、、せい、が好きなんだよ。」


「え?」


「奏先生が、、好きなんだよ。」


圭介は少し恥ずかしそうにその名前をはっきり言ってくれた。


「、、、まじか。あの補修の先生か。」


「そうだよ。、、、、なんだよ。」


「いやお前、、、ませてんなあ〜」


思わぬ人の名前が圭介から出てきたのでニヤけるのが抑えられない。


「ちっ。何ニヤついてんだよ。どうせ、叶わねえよ。立場が全然違うんだから。」


「いや、お前ならなんかやってくれそうな気がする。」


「無責任な発言するとお前と姉ちゃんのこと応援しねえぞ。」


圭介は本気で睨んできた。

でも俺は本当にお前ならって思うし、叶ってほしいと願ってる。


「お前だって叶わないって決めつけてないでもっと足掻けばいいだろ。」


「人ごとだからって簡単に言うなよ。そんなことできたらお前にあんなこと言わねえし。それに足掻いたらあの人の迷惑になる。」


圭介は優しいやつだ。

人の嫌がることや迷惑になることは絶対にしない。


「迷惑かどうかは相手が決めることだろ。」


「そうだけど。生徒と教師だぞ。立場が違うんだって。どうしたって無理なんだよ。」


「お前だって言っただろ。自信持てって。」


「、、、。」


「お前は本当に良いやつだ。それはクラスメイトだって部員だって分かってる。ならお前と少しは親交がある奏先生だってそれが分かってるはずだ。そんなお前の言葉なら迷惑だとしても嫌な気はしないんじゃないかとも思う。」


「なに綺麗事言ってんだよ。」


「綺麗事かどうかは伝えないと分からない。これはお前がよく知ってる経験者からのアドバイスだよ。」


陽心に再度好きだと言って陽心は考えてくれるようになった。

これは俺の気持ちの強さがそうしたと言っても良いくらいだと圭介が気付かせてくれた。あとは相手がそれをどう受け止めるか。


「、、、絶対振られるんだよ。」


「振られてからが勝負だろ。伝えるのが一番大事なことだ。そこからはお前の気持ちの強さが肝になると思うんだ。」


「さっきまで弱ってたやつに言われてもな。」


「っ、、うるせーな。まあでも、振られたあとはちゃんと俺が慰めてやるよ。だから自信持てよ。」


「! あはは、、お前、うっざ!笑」


「、、、、ありがとな。圭介。お前のおかげで少し自信持てた。」


「自信持てたからなんだっつーんだよ。これからが大変なんだろ。笑」


俺と圭介は次に来たバスに二人で乗った。

バスに乗ってからは圭介に奏先生を好きになったきっかけとかどこが良いのかいろいろ聞きまくってから、いつも通りたわいもなく、くだらない話をしながら帰った。


俺は帰っている最中圭介に言われた言葉を思い出していた。


『好きだって言う気持ちをぶつけ続ければ良い』、か、、、。


まだなんとなくしかしっくりこない言葉だが、もう少しで自分の中に落とし込めるような気がする。


今度は絶対にちゃんと陽心と向き合おう。

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