第21話 ただ好きなだけ


「おい、慎、大丈夫か?」


部活中に圭介が持ってきている趣味で撮った写真をぼーっと眺めていると圭介が心配そうに声をかけてきた。


「ん?あー、大丈夫。ぼーっとしてただけだから。」


「なんかあったのかよ?」


「いや、別に何もない。」


「もしかして昨日の嫉妬引きずってる最中?」


俺と圭介が話していると下山田が話に加わってきた。


「、、、そんなんじゃねえよ。」


「昨日?なんかあったの?」


圭介は昨日補習だったから付いていったこともファミレスでのことも何も知らない。


「別に大したことじゃない。」


「なんだよ〜気になるなぁ。あ、姉ちゃん。」


「、、、。」


圭介の言葉に少し動揺して園芸部が活動する部屋を見てみると部員たちが部屋から出てきていた。

出てきた部員の中には陽心もいて陽心は俺たちがいる方へやってきた。

目があったがすぐ逸らしてしまった。


「どうしたの姉ちゃん。今日はもう部活終わり?」


「うん。今日は早く終わったんだ。」


「、、、。」


「なーーんだよ!慎、黙っちゃって〜!ほら!お前の愛しい陽心が会いにきたぞ。」


「、、、帰るのか。」


「うん。あ、あのさ慎く


「じゃあな。気をつけて帰れよ。」


「あ、、、うん。、、、じゃ、また明日ね!遥ちゃんもじゃあね!」


陽心は何かを言いたげだったが俺はその言葉を遮って会話を終わらせてしまった。

今日はこれ以上話すと今抱えている嫌な気持ちを全部吐き出してしまうかもしれない。

それが怖い。

一旦また冷静になってまた明日話せばいい。


「お姉さん何か話したそうだったけどいいの?」


「今日話したいことならラインとかでいってくるから大丈夫だろ。」


「どうしたんだよ慎〜、何?照れてんのか〜?」


圭介はニヤニヤしながら自分の肘を俺の肩に当ててくる。

いつもなら違うわとか言って返してくる俺が今日は何も言わなかったからなのか圭介は不審がって俺の顔を覗き込んできた。


「ほんとお前どうしたんだよ。姉ちゃんと喧嘩でもしたのか?」


「、、、大丈夫だって。今日は少し疲れてるだけだ。」


「、、、ふーん。」


圭介は納得いっていないようだったがこれ以上の追及はしてこなかった。



* * *



部活が終わりいつもどおり圭介と帰って校門を出ようとすると、その近くのベンチに、ある人物が座っているのが見えた。


「あれ!また姉ちゃんじゃん!待ってたの?」


「あー、うん、ちょっとね!」


「ふーん、そっか、んじゃ俺先行くわ!」


「おい、圭介。」


「なんだよ。友達思いな俺に感謝しろよ〜!じゃ、ちゃんと話せよ!」


圭介は足早に校門を出ていくと陽気に俺たちに手を振り帰っていってしまった。


「あ、えっと、日曜のことまだ行くとことか決めてなかったからそれについて話したいなと思って!」


俺が二人でと陽心を誘った16日のことについてか。もう明々後日だったか。


「わざわざ待ってなくても明日とかラインとかで大丈夫だろ。」


「それもそうなんだけどさ、今日話したくて!」


あははと笑う陽心の笑顔がどことなくぎこちない。

俺がさっきのあれを見たからそう思うだけだろうか。

それとも陽心は本当に気を使って俺の誘いを受けてくれただけなのか。


もし、気を使ってなのだとしたらそんなのは全く意味がないし、お互い楽しめない。


「あのさ、、日曜、やっぱり二人でってのやめるか?」


「え、なんで?」


「、、、陽心そこまで乗り気じゃなかっただろ。」


「そんなことないよ!なんでそんなこと思うの?」


「、、、。」


「慎くん。」


「、、、お前見てたら俺と出かけるの楽しみじゃなさそうに思えたから。それだけだ。」


「私を見てたら?」


「ああ、そうだよ。」


「なんでそうなるの?私楽しみにしてたよ。」


「いいよ、別に。陽心が嫌なら行かない方がいいし。」


「そんな風に思ってないよ!それに私を見て楽しみじゃ無さそうに思えたってなんで?勝手に人の気持ち決めないでよ。」


「、、、。」


「ねえ、慎くん。」


「今日は帰る。」


俺は校門を出ようとして陽心に背を向けると、後ろから右手を掴まれた。


「なんで、なんでそんな怒ってるの?」


「、、、怒ってねえよ。」


「怒ってるよ。私が楽しみじゃ無さそうに見えたから?」


「そんなんで怒るかよ。」


「じゃあなんでよ。言わなきゃ分かんないよ。」


、、、結局お前には何も分からない。

俺が昨日お前とあいつの楽しそうな姿を見てどれだけ辛かったか何にも分かってない。

俺が色々悩んだって、気まずく思ったって、イライラしたって、陽心は俺がただ単に気分が乗らないだけだと思う。

俺だけが陽心を好きで、俺と陽心の気持ちの差がこんなにもはっきりしている事をありありと感じさせられる。

俺の陽心への気持ちがどれだけのものなのか分かっていないことに腹が立つ。


「、、、言ったら分かんのかよ。」


「え。」


「俺がどれだけお前のこと好きなのか分かんのかよ!」


陽心に掴まれていた右手を俺は力強く掴み返した。


「! それは、、」


「怒ってるとか、ただそれだけじゃねえんだよ。モヤモヤしてイライラしてどうしようもなくなるんだよ。」


「、、、。」


「お前には分かんねえよ。好かれてる方だから、好きになった俺の気持ちなんて一生分からない。俺が昨日どんな気持ちだったかも分からないんだから。」


言わないでずっと思っていた嫌な気持ちをぶちまけてしまった。

陽心は俺の言葉に圧倒されていたが、目は逸らさないいままでいた。


俺がぶちまけた後少しして今度は陽心が俺の目を強くしっかり見てきた。


「慎くんは昔からの友達で付き合いが長いから私は慎くんのこと分かってる方だと思ってた。でも全然違くて、分かる事もたくさんあるけど分からない事もたくさんあって、だから私は慎くんの全部は分からない。でも、言ってもわからないなら、言わなきゃもっと分かんないよ!」


「!、、、。」


「何に悩んでるのか何に苦しんでるのかはっきり言ってよ。、、、昨日のことって」


「、、、。」


「もしかして


「ごめん、今日はやっぱり、帰る。」


「慎くん!、、、待って!」


陽心を掴み返していた手を離し俺は走って校門を出た。

陽心に追いつかれないように帰りの坂道でも走っていった。だんだんと距離ができていき、陽心は俺に追いつくことはできなかった。


「はぁ、、はぁ、、、」


陽心の姿が見えなくなってからも俺は走るのをやめなかった。



言えない。言えるわけがない。

陽心の隣にいるあいつに嫉妬してたなんて。

お前の隣には俺がいるだろだなんて。

彼氏でもないのに独占欲も対抗心も剥き出しで、どうしようもなく自制が効かないガキで。


昔と何も変わってない。

誰彼構わず嫉妬して、陽心を取られたくない思いが強すぎて、自分の想いが自分の抱えられる許容範囲を超えて溢れてしまう。


自分勝手で独りよがりで、

ただ陽心のことが好きで。


俺の気持ちが陽心の負担になってほしくない。

そんなことで苛立ってたのかなんて思われたくない。

気を使われたくない。

そういう意味で自分のものにしたいわけじゃない。


自分のこと見て欲しくて分かって欲しいのに、汚い部分は気づかれたくないなんて身勝手すぎる。


自制がきかないまま好きな気持ちだけがどんどんでかくなっていく。


機会はあったのに普通にも喋れなかったし、謝りもしなかった。

なのに言い合うだけ言い合って、逃げた。


最低だ。

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