第20話 塞がれた行き先


「よ、よう。昨日はなんか変な態度とっちゃってごめんな!えっと、あの、あとあれだ。ついてきちゃって悪かったな。どこ行くのか少し気になって、、、本当ごめん!、、、こんな感じか?」


放課後部活に行く前に、人通りの少ない廊下で誰もいないことを確認し廊下の片隅にある鏡に向かって小声で謝っている。

自分でも不気味に思うが、謝っている姿が変じゃないか顔が引きつっていないか確認しておきたかったのだ。

家の洗面台で何回か練習した時の鏡に映った姉の汚物を見るような目は忘れられない。

まあ家よりは今は普通に謝れていただろう。

大丈夫。普通に謝ってから世間話でも始めればいいんだ。


「大和くん?」


確認し終わって鏡を凝視している横から聞き覚えのある声が聞こえた。


「ああ、望月か。」


声をかけてきたのは同じクラスの望月柑奈(もちづき かんな)という女の子だった。


「なんかさっき鏡に話しかけてなかった?」


「あ、あー、ちょっとあの、発表の練習?みたいな?」


「発表?美術部で何か披露するとか?」


「ま、まあそんな感じ。望月はどうしたんだよ?今日も部活だろ?」


望月は陽心と同じ園芸部。望月とは二年になって初めて同じクラスになって、まあまあクラスでは話す方だ。


「委員会の方にちょっと用があって、今から部活行くところだよ。」


ふと思ったことがある。

望月は園芸部だからあの水野とかいうやつのことも知っているのではないかと。陽心とはどのくらい仲良くしているのかとか聞くチャンスかもしれない。


「そうだったのか。、、、あのさ別にどうだっていいんだけどさ、、えっと」


「うん。」


「み、水野、、先輩?ってどういう感じなの?」


「、、、、水野先輩?どうして?」


「いや、別に、その、、、俺の友達が水野、、先輩?となんか仲良いみたいで、、どんな感じなのかなと思ってさ、、。」


「その友達って万里先輩のこと?」


「、、、、、。友達だからさやっぱ心配なんだよ。変なやつだったらどうしようとか思うだろ?」


望月、以外に鋭くて困る。


望月はふふっと笑った後、少し微笑んで俺の目を見てしっかりこう言った。


「水野先輩は全然変な人じゃないよ。確かに無愛想で不器用で近寄り難いところもあるけどとても優しい先輩だよ。」


「ふーん。そうなんだ。」


「でもそれは万里先輩に教えてもらったことなんだけどね笑」


「、、、。陽心は水野、、、先輩のそういうの分かるんだな。」


「まあ、ずっと同じクラスみたいだし、不器用なところも優しいところも見てきたから分かるんじゃないかな。」


「そっか、まあ、そうだよな。」


「、、、もう。落ち込まないでよ。そういうのって近いからこそ分かることだからさ。別に特別仲がいいってわけじゃないと思うよ?」


望月は俺の肩を慰めるようにポンポンと優しく叩いた。


「分かってるけど、気持ち的に受け入れられないところもあって。」


「、、、分かるよ、その気持ち。私も同じだからさ。」


望月は少し寂しそうな笑顔で俺にそう言った。


「望月、、、もしかしてお前、


「ほら!もう部活行かないと!私先に行くね。じゃ、またね大和くん。」


俺の言葉を遮ったあと望月はいつもの調子に戻り部活へと向かっていった。


受け入れられないところがあるのは自分だけじゃないというのが分かった。

でもそういう嫌な気持ちとか全部隠していかないとだめなんだ。

相手も嫌な気分になるし、それに、

自分勝手に衝動的になっていたら毎日身がもたない。


今日陽心と話すときはちゃんとそういう嫌な気持ちは隠して、普通に、普通に話そう。



俺も部活に行こうと思い望月が向かっていった方に歩こうとすると、今度は陽心の声が前の方から聞こえてきた。


まじかいきなりここではちょっと心の準備が。


俺は咄嗟に廊下の端にある物置らしきところの陰に隠れた。


「いや〜すっかり忘れちゃってたよ。夏休みの水やり分担表と秋に植える種と苗の確認だっけ?表は職員室で確認は担当の先生に聞きに行くんだよね。」


「そうだね、万里さんは職員室の方で分担表もらってきて。確認する先生は違うとこにいつもいるから俺はそっちの方に行って確認とってくる。」


「了解!手伝ってもらっちゃってありがとね水野くん。」


「どうせ今から部活に行こうとしてたからついでにね。」


タイミングがいいのか悪いのかさっきまで話していた人物たちが前からやってくる。

また一緒にいるのかよという気持ちは今は引っ込めておこう。平常心だ、平常心。

今はとにかくあの二人がこの廊下を通り過ぎるまでこの物陰で待つことにしよう。


「万里さん、ちょっと聞いてもいい?」


「なに?」


水野というやつが歩くのをやめて陽心に何か言いたげに聞いてきた。

俺から会話も良く聞こえるくらい近い場所に二人は立ち止まってしまった。


そこで止まるなよ。早く行ってくれ。


「あのさ、昨日、駅で別れたあと慎くんさん?に万里さんなんか言われた?」


「慎くんさんて笑 んー、牛丼の話して、あとは慎くんバスで寝ちゃったから大したことは何も言われなかったと思うけど。」


「そっか。」


「なんで?」


「あ、いや、、、ファミレスのとき慎くんさん?最後の方元気なさそうだったから、帰りに万里さんにいろいろ言ったのかなと思って。、、、多分俺がいたから元気なさそうにしてたんだと思うし。」


ああそうだよ。お前と陽心が楽しそうにしているのを目の前で見て、俺の気持ちはぐちゃぐちゃでいろいろかき乱されて、陽心にあんな態度を取ってしまった。

本当に最悪な日だったよ。


「、、、、そんなことないよ!水野くんは全然悪くないし。それに帰りもいつもどおりの慎くんだったよ。普通に、牛丼も美味しかったって言ってたし!元気なかったのは眠かっただけだよ!」


、、、、、、いつもどおりで眠かっただけ、か、、、。


「、、、そっか、まあ万里さんがいろいろ言われてないならそれでいいか。」


「? 私の方こそ水野くんあまり関わりないのに強引に慎くんたちと一緒にしちゃってごめんね。」


「それは、、全然いいよ。少し置いてけぼりを感じたけど、まあ別にいいよ。」


「うっ、ごめん!」


「その代わりっていったらあれなんだけど、その、」


「うん、私にできることならなんでも言って!」


「、、、じゃあ夏休みの夏花イベントっていうのがあって、花のミュージアムみたいなところと花だらけのカフェみたいなところがあるんだけど、よかったら行かない?園芸部の人たちも誘って。」


「え!そんなのあるんだ!知らなかった〜!花のミュージアムと花だらけのカフェかあ、絶対かわいいよね。行こ!楽しみ。」


「そっか、それならよかった。じゃあ日にちはまたみんなに聞いてからあとで決めようか。」


「うん!」


陽心たちは話が一段落するとまた歩き始めてやっと廊下を通り過ぎていった。


「、、、なんで、こう、、、上手くいっちゃうかなぁ。」


物陰に隠れていた俺は体を起こすことができないでいる。

なんかもう疲れているのか脱力して座り込んでいた。


今話していた内容は全部聞こえていた。


昨日の俺の態度を陽心がどう思っていたのかも。


陽心が水野というやつと夏休みにでかけることも。園芸部の人も誘ってと言っていたが本当のところは分からない。


陽心は本当に楽しみそうにしていた。


俺が誘った時もあんな風に楽しそうにしていただろうか。


少しフリーズした後すごく魅力的な笑顔で行こうと言ってくれたのを覚えている。


でもそれは、俺が断らないでくれと言ったからだ。


本当は陽心はただ俺に気を使って、行こうと言ってくれただけかもしれない。


もう、なんだかよく分からなくなってきた。


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