第18話 思い通りにならない心
* * *
私はずっとお姉さんに聞きたくて言いたいと思っていたことがある。
いつか二人になる時間があったらそうしたいと考えていた。
そのチャンスが今この時だと思い、私はドリンクバーに水を取りに行こうとしたお姉さんに付いていった。
でも話したいのは私だけじゃなかったらしい。
私がお姉さんに話かけようとする前にお姉さんから話しかけてきた。
「遥ちゃん、さっきはありがとね。」
さっき、、、水を一緒に取りに来たことではないとするともしかして
「お姉さん、私たちが付いてきてるの気づいてたんですか?」
「いやいや!全然それは気づかなかったよ!でも水野くんが慎くんにああ言った時、慎くんすごく動揺してたから。そうなのかなと思って。」
「そこで気づいたんですね。」
「うん。私も何か言おうと思ってたんだけど、なんて言ったらいいのか分からなくて。そしたら遥ちゃんが場を和ませてくれたから。本当によかった。」
「、、、お姉さんも大変ですね。大和くんのああいうのってやっぱり重いっていうか必死すぎますよ。ずっと好きだったのはわかりますけど。」
「、、、うん。そうだね。」
「え?」
やっぱり鬱陶しいとか思ってたのか?
「慎くんは本当に、、、すごいよね。」
「すごいって何がですか?」
「ずっと誰かを一途に思うって誰にでもできることじゃない。誰かのために必死になれるのはすごいことだと思うよ。」
「、、、。」
何それ、自分のことをずっと追い続けて一途に思ってる大和くんを可愛いとか言っちゃうわけ?
どれだけ大和くんがあなたを思ってるのか本当に分かってるの?
「じゃあお姉さんはその気持ちを受け取って、答えてあげようとは思わないんですか。」
「それはまだ、、、考えてる途中なんだ。」
「考えなくたってそんなの、はい、か、いいえ、かなんだから今の気持ちをパッと言えばいいじゃないですか。」
「それはできないよ。」
「なんでですか。言うのなんて簡単なことじゃないですか。」
「、、、慎くんからの好意をもう、中途半端な気持ちで答えたくないんだ。」
お姉さんは私に柔らかく笑ってそう言った。
「、、、そんなこと言っていたら嘘でもいいからokしなかったことを後悔する時が来るかもしれないですよ。誰かに取られたり、心変わりだってするかもしれない。そういうの不安にはならないんですか。」
「んーーそうなったら、まあしょうがないよ。慎くんが決めることだから。」
「なんですか、それ。そんなことないとか思ってんですか?」
「時間が経って気持ちが変わるのなんて当たり前なことだよ。」
「、、、。」
「慎くんの気持ちが離れていって手遅れになっても、この保留の時間少し不安にさせちゃうかもしれないとも思うけど、やっぱり私は慎くんの真剣な気持ちに対してしっかり考えて私も真剣に返したいって思ってるんだ。」
この人は馬鹿だ。
手遅れになったら真剣に答えたって意味がないことを分かっているはずなのに。
それでもこの人は自分なりに大和くんの気持ちに向き合っている。
はっきり言って私にはわからない。
好意なんてその時の感情で答えればいい。
その時の感情が本当の自分の気持ちだとそう思っているから。
でもお姉さんが手遅れになってもいいというのなら、私も本気で向き合ってみようとそう思えた。
自分が言いたかったことも聞きたかったこともお姉さんから全部話してくれたから、スッキリして私も考えられる。
「お姉さんて、、ちょっと頑固ですね。それと大和くんを手玉にとるくらいのいい女です。」
「え!言い方ちょっとおかしいよ!いい女って言われるのは嬉しいけど。」
「いや〜手のひらで転がすのめちゃくちゃうまいですね!」
「ええ!やめてよ!ちがうよ〜!」
「ほら、そろそろ水持って行きましょう!」
「う、うん!そうだね。」
* * *
「今日はご飯一緒できてよかったですお姉さん!また一緒に食べに行きましょうね。」
「うん!私も楽しかった。また行こうね!」
ファミレスを出た俺たちは今は駅にいる。
俺と陽心はバスで下山田とあの人は電車なので、下山田とあの人とはここでさよならになる。
「大和くんもまた一緒に行こう!」
「あ、ああ。」
「水野くん、今日はありがとね。気をつけて帰ってね。」
「うん。」
電車組の二人は改札を通りホームの方に向かって行った。
「じゃあ、帰ろっか。」
「、、、ああ。」
陽心と二人ちょうどいい時間のバスを駅のバス停で待っている。
「さっきのファミレスで慎くんが食べてた牛丼美味しそうだったね。」
「あ、ああ。まあ、美味しかったよ。」
「今度行った時にでも頼んでみようかな〜。」
「、、、うん。いいと思う。」
二人の会話がどこのなく少しぎこちない。
というか俺が気まずく思っているだけで、別に陽心は何も思っていないだろう。
陽心をつけてきてしまったことと、さっきのファミレスでのことで、俺の陽心への気まずい気持ちがこういう空気を作ってしまっていた。
「あ、バス来たね。」
時間通り来たバスに二人で乗る。
「ごめん、俺ちょっと眠いから少し寝るわ。」
「うん、分かった。着いたら起こすね。」
いつもだったら一緒に帰れて嬉しいし、話したいことだってあるはずなのに、今は気分が乗らない。
『今から2年半分の水野くんの恥ずかしい話を二人にするから。』
『水野くんはね、一年の時に』
ちっ うるせえ。
『万里さんを不安にさせないでくださいね。』
不安になってるのはこっちだっつーの。
何もかもイライラする。
二人の世界みたいにしているところが。お互いがお互いのことわかってますよみたいな雰囲気が。
俺の方がずっと前から陽心のことを知ってるのに。陽心だって俺のこと昔から知ってるのに。
陽心はどう思ってんだよ、あいつのこと。
『こちらは水野純くん、同じクラスで同じ部活の友達です。』
『水野くん、今日はありがとね。気をつけて帰ってね。』
『水野くん』
くそっ、、、、。
「、、、ん?慎くん起きたんだ。あと二つ先だよ。」
「今日は一つ前で降りる。」
「え?なんで?」
「別に、、、ちょっと用があるから。」
「、、、そっか。」
「、、、じゃあな。」
「、、、うん、じゃあね。」
俺は一つ前のバス停で降りて、いつもはバスで通る道を今は歩いている。
最寄りのバス停から家までは10分くらいしか掛からないが、その10分でさえ今は陽心と話したくないと思ってしまった。
ここから家まで歩くとまあまあ時間がかかる。
その時間で少し冷静になりたい。
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