第17話 焦燥感
どうしてこんなことになったんだろう。
いや、俺のせいなのは分かってるんだけども。
俺の隣には下山田が座り、下山田の前には陽心が座っている。
そして俺の前には、
「あ、水野くんよかったね。さっきのファミレスのじゃないけど特製濃厚醤油ラーメンはあるよ。ほら、これ。」
陽心は俺の前にいるやつに店のメニューを広げて見せている。
「、、、じゃあそれで。」
そいつは他のメニューを見ようとはせず陽心の提案したメニューでいいと言わんばかりに速攻で注文するものを決めていた。
「大和くん、顔怖いよ!」
隣の下山田が前の二人には聞こえないように小声でこそっと言ってきた。
「ここは笑顔でいないと変に思われるよ。」
無意識に眉間に力が入って怖い印象になっていたらしい。笑顔になろうと無理やり口角を上げてみせる。
「いや、やっぱり笑わなくていいや。逆に気持ち悪くて怖い。」
「どっちなんだよ。というか下山田、何考えてんだよお前。こんなとこに陽心たちと一緒に入るなんて聞いてないぞ。」
「私だって急に走って追いかけるなんて聞いてないんですけど。」
「う、、、それは、、。」
「ちゃんとごまかしてあげたんだからいいでしょこれくらい。」
「どうせ面白いからとか言うんだろ。」
「正解。」
下山田は俺の方を指差す仕草をしてウインクして見せた。
本当にこいつは何でもかんでも面白がって、このあとどうするんだよこの状況。
「慎くんと遥ちゃんは決まった?」
「私はハンバーグセットにします!」
「、、、俺も決まった。」
「おっけい!じゃ、呼ぶね。」
陽心はテーブルの端に置いてある店員さん呼び出しボタンを押す。
、、、だいたい陽心も陽心だ。
なんで下山田の誘いに普通にノリノリで乗っちゃってるんだよ。
前にいるこいつもそうだ。
俺は前にいるやつがこっちを見てないのをいいことに睨みを効かせる。
本当は陽心と二人で入る予定だったのに陽心に提案されてあっさり受け入れた。
「万里さんがいいならいいけど。」
は〜??陽心はお前と二人になりたくて来てんじゃねーんだよ、だめなんて言うわけねえだろ。だいたい何陽心の手握って走って
「何ですか。」
恨みの念を送りすぎたのか、前にいるやつとまた目が合ってしまった。
「いえ、別になんでもないです。」
なんでこいつと向かい合わせで座らなきゃいけないんだと心底思う。
陽心が向かいに座ってくれればよかったのに、、、。
「じゃあ、私水とってくるね。」
「あ!お姉さん、私も手伝います!」
「あ、じゃあ俺も、」
「大和くんたちの分もとってくるから待ってていいよ。」
そう言って下山田は陽心と楽しそうにドリンクバーの方に行ってしまった。
「、、、。」
「、、、。」
き、
気まずすぎる!!!!
なんなんだこの空間は。何か話した方がいいのか別に話さなくていいのか、、、。
「あの、」
と思っていたら前にいるやつから声をかけてきた。
こいつにはもう俺が陽心のあとをつけてきていたのは知られてるわけで、、
もしかしたらそのことを追求する気なのかもしれない。
「な、なんですか。」
「さっきからあの子、万里さんのことお姉さんて読んでるんですけどなんでお姉さんなんですか?」
「え、あーそれはあいつの友達が陽心の弟だからですかね。友達のお姉さんだからお姉さんて呼んでるんじゃないですか。」
身構えていたが以外と普通な質問がきて少し拍子抜けした。
「弟くんてこの学校なんですか?」
「俺と同じ2年ですけど。」
「そうですか。」
「え、知らなかったんですか?」
「、、、、初めて知りました。」
おいおい。そ〜んなことも知らなかったのかよ〜。そんな悔しそうな顔しちゃって笑笑
「、、、なんか文句でもあるんですか。」
「いや、別にないですけど?」
こいつ陽心と楽しそうに帰って話してた割には陽心のことな〜んも分かってないんだな。は〜可哀想に。
「そういえば、万里さんに告白した人って君ですか?」
「こっ....!!!な、ななんでそれをおま、、、、せ、先輩が知ってるんですか、、、。」
「別に、ただの勘ですよ。というかあんな風に追いかけてきたんだからそう思わないほうがおかしいでしょう。」
「っ、、、。」
「万里さんを不安にさせないでくださいね。」
「は?なんですかそれ。」
「別に分からないならいいです。」
偉そうな顔しやがって。余裕ぶってんなよ。むかつく。
「おまたせ〜。」
陽心と下山田はドリンクバーから帰ってきて俺たちに水を渡してくれる。
「何話してたの?大和くん。」
興味津々だと言わんばかりのキラキラした目を下山田に向けられる。
「別に、、なんも話してねえよ。」
「へ〜〜。」
「そうなんだ。まあ慎くんはともかく水野くんシャイだもんね。」
「、、、誰が。」
陽心がニヤニヤしながら俺の前にいるやつをからかっている。
それをうざったくあしらいながらも、嬉しそうに陽心を見つめている。
なんだよこれ。
「慎くん?」
「!な、なんだ?」
「大丈夫?ぼーっとして。」
「あ、いや別に。は、腹減ったなぁと思って。はは。」
なんというか俺には入る隙間なんてないと言われているようなその二人の空間に少しだけ戸惑ってしまっていた。
「そういえばお姉さん、そちらの方は?」
「あ〜そうだね言ってなかった。こちらは水野純くん、同じクラスで同じ部活の友達です。」
「あ!お友達だったんですね!私は下山田遥です。よろしくお願いします。水野先輩!」
「どうも。」
「あ、あと水野くん、こっちが大和慎一郎くん。昔からの友達で、あ、昨日お昼に会ったよね。」
「そうだね。」
「二人とも美術部だから放課後は何かと会う機会が多くなるかもしれないね。」
「うん。」
「ちょっとーそれだけ?どうも、とか、そうだね、とか、うん、じゃなくもっとこうさ、よろしくとかないの〜?」
「これから仲良くなるわけでもないんだからいいでしょ別に。」
「あーこれは確かにシャイですね。ははは。」
下山田が嫌味な態度に笑って返している。
「じゃあいいよもう。」
「そう。」
「今から2年半分の水野くんの恥ずかしい話を二人にするから。」
「はぁ?!何言ってんの。」
「水野くんはね一年の時に
「ちょ!わ、わかったから!、、、よ、よろしくお願いします。」
「あはは!水野先輩ってお姉さんには弱いんですね〜!大和くんみたい笑、ね、大和くん?」
この人は俺の知らない高校1、2年の陽心を知っているのか。
俺はずっと遠ざけて見ないようにしていたから、そのときの陽心は何が好きで何が嫌いだったのかも全く分からない。
この人が心底羨ましい。
そのときのことを今は覚えていなくてもこの人はそのとき陽心の姿を見たりそばにいることができたのだから。
俺はできなかった。
俺も知らなければ陽心も俺がどんなことを思って過ごしてきたかも知らないんだろうな。
「、、、、あーあ、だから無駄だって言ったのに。大和くん。」
陽心といると楽しくて嬉しくなる。
でも今この空間では、寂しさと悔しさと苛立ちでどうにかなりそうだった。
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