第16話 追いかけて行ったその先で
もうそろそろ駅に着く。二人は駅からどこかに向かうのだろうか。
陽心が楽しそうに話している姿はどんな時だって可愛いくて見ていたいと思う。
それは一緒にいる相手が誰であろうと、可愛いもんは可愛いのだ。
だけど今は数メートル先にいるそのキラキラした姿が、俺の醜い心を黒く染め上げる。
こんな風に思う資格なんてないのにどんどん嫌な気持ちになっていく。
* * *
「もう駅だね。」
「全く当てられなかったな〜。それに話それまくって普通に世間話しちゃってたし。」
万里さんは納得いかないという顔でそう言ってきた。
「で、結局これから何するの?」
「これから?何もしないけど?」
「え!何かするんじゃないの?」
目をパチパチさせて不思議そうな顔でじっと見つめてくる。
「ただ、万里さんと帰ってみたかったんだ。じっくり話したくて。」
「そうなの?いつも話してるじゃん。」
「それとこれとはまた別だよ。」
「ふーん」
万里さんはよく分からないと言いたげな顔をしている。
本当に何をしようとかは考えていない。
自分の気持ちを確かめたくてただ二人になれる時間が欲しかったんだ。
「まあ簡単に言うと、親睦を深めたかったってところかな。」
「なんか、、、あやしい、、、。」
「なんでよ。何にもないよ。本当にそれだけだから。」
「そうなんだ。」
「うん。ただそれだけ。」
ジト目で見てくる姿を見ると本気で怪しんでいるのが分かる。
そんなにか。
「へんなの。今更深めなくたって、もともと仲いいと思ってたけどね私は。」
「、、、」
不意打ちでそういうことを言うのはやめてほしい。
仲は良いと自分でも分かってはいたけれど、万里さんの口からどう思っているのか直接言われるのは結構嬉しいから。
「、、、ただ帰るだけなのは不満なの?」
「いや、不満ではないけど水野くんがなんか用があると思ってたからさ。」
淡々といつも通りの口調でそう言ってくる。
そこで不満だよとかもっと一緒にいたいとか言ってくれれば最高に可愛いのに。まあそう簡単にはいかないか。
「、、、じゃあそこらへんでご飯でもどう?」
「水野くんとご飯かあ。」
「なに、嫌ならいいけど。」
まさかのこの反応。自分が思っているより、万里さんからの俺の好感度は低めなのだろうか。
「いや〜なんか今日はへんな日だなあと思って。水野くんが新鮮すぎで。」
そういうことか。変に驚かせないでほしい。まあ驚かせようとは思ってないだろうけど。
「新鮮じゃだめなんですか。」
「あ!もう敬語はダメだよ!」
皮肉っぽく敬語で言っただけなのだが、前にもどったと思ったのか俺の喋り方を静止してくる。
他意はなにもないだろうけどそんなに俺にタメ口で話してほしいのかと思うと、なんとも可愛らしい。
「、、、わかったよ。」
「それそれ!」
「、、、なに食べたい?」
「ん〜〜今はパスタかな。あとはデザート!水野くんは?」
「俺はラーメンでいいかな。麺とデザートだったら無難にファミレスか。」
「水野くんとファミレスかー、、、ふっ笑、なんか面白いね。」
「、、、何にも面白くないけど。」
クスクスと隣で笑っている。いつも素っ気なかった俺とファミレスに行くことが変な感じで面白いのだろう。
今日からそういうのも慣れていってもらわないとな。
「じゃ、行こう。」
「うん!」
* * *
「お!二人どこか行くみたいだね。」
「、、、。」
「この辺だったら、なんか食べに行くのかな?時間もちょうどいいくらいだし。」
「、、、。」
「ちょっと!私一人で話してるみたいじゃん!なんか言ってよ。」
「別に、ただの同級生と食事に行くなんて普通なことだろ。」
「いや、話の流れおかしくない?私普通じゃないとは言ってないんだけど。」
「、、、、、。」
「相当だね、これは。」
やっぱりどこか行くのか。幼なじみの俺ですら高校に入って陽心と帰りに寄ったのはコンビニくらいなのに。
どこに行くんだよあの二人。
「もう少し近づいてみよう。」
「え!ちょっと!大和くん!ここら辺あんまり隠れるとこないから気をつけて動かないと気づかれるよ。」
「大丈夫だ。人通りがあるからそんな簡単に見つからない。」
「、、、もう完全に私の行きたいところについて行くっていう設定忘れてるね。」
近づいたって分かることはたかが知れてるのに、どうしても体の奥のモヤモヤやイライラがおさまらなくて頭よりも先に体が動いてしまう。
俺はあの人に苛立っているのか、それとも陽心に苛立っているのか。
* * *
駅から少し歩くと飲食店が並んでいる道沿いに着く。
ちょうどそこにはファミレスがあり、横には目立つように期間限定メニューが宣伝されていた。
「うわ!『夏限定!ごろごろ白桃パフェ』だって〜!美味しそう!」
「桃好きなの?」
「うん、好き。それにこの夏限定っていうのがいいよねぇ。惹かれる。」
「ここにするか。」
「あ、待ってあっちのファミレスも見てみよう。」
今見ていたファミレスから少し離れたところにもファミレスがあり、そこにも宣伝用の旗が立っていた。
「うわ〜『濃厚!生姜醤油ラーメン』だって!こっちも美味しそうだね。」
「確かに。美味そう。」
醤油ラーメン好きにとってはなんとも魅力的な語呂合わせだ。
「ここにしよっか。」
「え、万里さんはさっきの桃パフェのとこがいいでしょ?」
「まあ確かにあれは美味しそうだけど、水野くんだってこれ食べたいでしょ?めっちゃ熱く見つめてたし。」
「それは、そうだけど。」
「いいのいいの!ほら、行こ。」
「、、、、いや、やっぱりあっちに」
ここのラーメンは限定じゃないからいつでも食べられるし、万里さんには食べたいものを美味しそうに食べて欲しい。
そう思いさっきのファミレスに戻ろうと振り向くと、少し後ろの方にいた見覚えのある人と目が合った。
#
見つからないだろうとどんどん近くに行くといきなり陽心と一緒にいたあの人が振り向いて、バッチリ目があった。
!
やばい!どうする、、、!。
#
あの人は、万里さんに告白した人か。
なんでこんなところに、偶然か?もしかして付いてきたとか。
そう思った途端俺は万里さんの手をとって走り出していた。
「ちょ!水野くん?どこに行くの?」
「もっとこっちにいいファミレスがあったから。」
あんな人に邪魔されるわけにはいかない。それに絶対に渡すわけにもいかない。
#
俺に気づいた途端その人は陽心の手をとって俺とは逆方向に走り出していった。
あいつ!、、、、くそ!
たまらずその後を追いかけていく。
なんなんだよ、あいつ。、、、普通の同級生って関係じゃないってことなのか?
「ちょっと!大和くん!何してんの!」
その行動に驚いた下山田もその後を追って走りだす。
#
「水野くん!そんな走らなくても!」
万里さんはあの人が追いかけていることにまだ気づいていない。
まいて見つからないようにどこかに逃げるか、あえて万里さんの目の前に現させるか。
どちらにする。
#
追いかけていくと二人は目の前の角で曲がった。
見失わないようにと全速力でその角の前まで行くと
!
「え!慎くん?!」
角を曲がったところにさっきまで追いかけていたあの人と陽心がこちらを向いて待っていた。
「はぁはぁ、ちょっと、大和くん速すぎ、、、。あ、、、。」
下山田も合流し、陽心とあの人の姿を見て少し動揺している。
「あ、遥ちゃんも。」
「あ、、、えっと、その、これは、、、、」
俺は陽心に見つかったことに動揺しすぎて言葉が詰まっていた。
「つけてきたんですよね。俺たちを。」
「っ!!」
あの人の言葉が胸に突き刺さる。あえて合流して陽心にその事実を突きつけようとしているのだろう。
「そうなの?」
陽心がどんな顔をしてこちらを見ているのか怖くて見ることができない。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
これは自分がしでかしたことなのに自分じゃどう対処したらいいのか分からない。
陽心に付いてきていたなんて知られたら、今度こそ、、、、嫌われる。
こうなることを予想して慎重に行動していたはずなのに。
あの人が陽心の手をとって逃げ出した光景が頭の中で蘇る。
俺に追いつかれないように、陽心を引き離そうとするようにどんどん遠くなっていった。
なんで俺はあんな、、、
あんなことでまた自制が効かなくなるんだ...!!
「慎くん?」
「!、、、」
怖い。
「あー、すみません驚かせちゃって!」
下山田が唐突に明るい声でそう言って、沈黙しているこの最悪な空気を破った。
「なんかさっき、偶然私たちお姉さんを見かけて、話しかけようかなとか思ってたところなんですよ〜!それでちょっと勢い余って走ってきちゃって。あはは〜。ね!大和くん!」
「、、、あ、ああ。そうなんだ。」
下山田の咄嗟の対応に合わせようと必死で相槌を打った。
「そうだったんだ!も〜急に走りだすからびっくりしたよ〜水野くん。」
「、、、、、ごめん。」
「ほんと驚かせちゃってすみません!」
「ぜんぜん!二人はどこか行こうとしてたの?」
「あ、はい!あの〜なんか小腹空いたなぁと思ってお店入ろうとしてて。」
「この時間お腹空くもんねぇ。」
「ですよねぇ〜。お姉さんたちもどこか行こうとしてたんですか?」
「うん。私たちもどこかで食べようと思ってて。」
「え!じゃあ一緒にどうですか??ね、大和くん!」
「え、いや、、でも、、、。」
下山田の言葉に驚きを隠せない。
何言ってんだ下山田。この状況でそんなことできるわけないだろ。
「いいねえ!水野くんはどうかな?」
「、、、万里さんがいいならいいけど。」
嘘だろ。あんなに逃げていたのに。
「はい!決まりですね!じゃあ、あそこのファミレス行きましょう!」
「うん!」
下山田は陽心の腕を自分の腕に絡ませて楽しそうに近くのファミレスに向かっていく。
「、、、。」
俺と水野と呼ばれているこの人はお互い何も言わず前の二人に付いて行くしかなかった。
自分の失態でこんなことになろうとは思いもしなかった。
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