第15話 この感情は
「お、おい、下山田。もう少し慎重に歩けよ。見つかったらどうする。」
「何言ってんの、大和くん。私の行きたいところに行くだけなんだけど。そうだよね?」
「ゔっ、、、そうだけど、、、もう少し陽心たちと距離を開けた方が、、。」
「大丈夫だって、気付かれない気付かれない。」
俺は今、陽心と水野という人の後を追っ、、、下山田の行きたいところに同行している最中でちょうど数メートル前に陽心たちがいる。
校門から出て帰りの坂道で電柱に隠れながら、陽心たちの様子を伺って適切な距離を取り歩いていく。
「なんか近い気がする。」
「だから大丈夫だって。」
「ちがう。あの人と陽心の距離だよ。」
「全然普通でしょ!」
「いや、近い、、、」
「、、、なに彼氏ができた娘を見守る父親みたいなこと言ってんの。」
「、、、うるせえ。」
「ねえあの人ってお姉さんと仲いいの?」
「、、、知らねえよ。」
「同じクラスなのかな?ね?」
「だから知らねえって。」
「、、、あ〜やだやだ。見苦しいねぇ男の嫉妬は。」
「別に、、。どういう関係なのか分からないから気になるだけだ。」
「そんな怖い顔で言われてもねえ。」
嫉妬ではないと言い切ることができないのは自分でも良く分かっている。
でもこれだけのことでこんなにモヤモヤしてしまう自分の弱さに腹がたって仕方がない。相手はただの仲の良い同級生なだけなのに。
この持っててもなんの良いこともない感情を早くはらいたい。
「あ!曲がったよ。ほら早く。」
「ああ。」
* * *
「水野くん、今日はどうしたの?なんか私に相談とか?」
俺と万里さんはさっき校門を出て帰りの坂道を一緒に歩いている。
いつもどおり普通に歩いていると万里さんが不思議そうにこちらを見て聞いてきた。
「相談?なんでですか?」
「え、だって水野くんが私と一緒に帰るなんて普通言い出さないし。」
「それでなんで俺が相談したいと思ったんですか?」
「それくらい言いにくいことなのかなと思って。」
こう思わせてしまうのは俺が今まで彼女に対して素っ気なく接してきてしまったからだと思うとなんとも微妙な気持ちになる。
「相談ですか、、、まあ、そう思うならそれで良いですよ。」
「なにそれ!違うの?」
「万里さんは俺がどんな相談を万里さんにしたいと思っているんですか?」
その問いかけに不思議そうに考え始めた。
「ん〜〜〜〜、言いにくいこと、言いにくいこと、、、恋愛のこととか?」
、、、、、
「、、、なんでですか。」
「え、だって誰にも知られたくない言いにくいことでしょ?水野くんのことだから勉強のことではなさそうだし、そこまで深刻そうじゃないのを見るとちょっとだけ相談したいことだと思って。」
「そうだとしてもなんで恋愛なんですか?」
「まあそれは、私がそれを望んでるからかな。」
え?
「だって人の恋バナ聞くのって、、、なんかいいじゃん?」
なぜか一人で楽しそうにキャー!とかいって俺の肩をたたく。なぜこんなに興奮しているのかわからない。
そのことを相談したいというわけではなかったが、内心驚いた。
望んでるってそういうことか。
「興奮してるとこ悪いんですが、俺はそういうの人に言わないんで。」
「確かに、そう言われてみると水野くん言わなそうだね。、、、で、最近どうなの?好きな子とかいるのかい?」
ニヤニヤしながらおっさんみたいなことを聞いてくる。
「、、、、いたとしても絶対万里さんには言いたくないですね。」
「え〜〜!なんでよ!」
なんでなんでと隣で暴れている。やっぱりこの人は本当にうるさい。
「万里さんの方はどうなんですか。」
「え、私?、、、いや、その、、、。」
さっきまでうるさかったのに急に静かになって言いにくそうに頭を掻いている。
「なんですか、自分のは言えないのに人のは聞くんですか。」
「や、、、それは、、。」
そう言って黙ってしまった。まあどうせ大した話もないから何も言えないのだろう。
「もう良い
「告白されたんだ。」
、、、、、、、、、、
「、、、、、それで万里さんはどうしたんですか?」
「今は保留みたいな感じになってる。」
「、、、もう答えは決まってるんですか?」
「いや、まだなんだ。もう少し考えてからってことになってて。」
「そうですか。」
「、、、私間違ってるかな?」
さっきまでの笑顔もうるさいのもそこにはなくなっていて、真剣な顔で少し不安げににそう言ってきた。
「なんでそう思うんですか?」
「その人は考えて欲しいって言ってくれて、私も考えたいと思った。でもその人にとっては保留の時間ってやっぱりどこか不安なんじゃないかってたまに思うことがあって。」
「、、、そんなの万里さんが悩むことじゃないですよ。その人はそういう返事を覚悟して言ったんじゃないんですか?もしそれで不安になっているんだとしたらその人が言うタイミングを間違えてるだけです。」
「タイミング?」
「言うときは確実に落とせるときに言う。断られるなんていう負け試合をしたいなんて思わないですから、俺は。それに、答え出すって言ってるんですよね?」
「うん。」
「じゃあ、いいじゃないですか。不安に思って待てないやつならそういうやつだったてことですよ。何にも迷う必要はないと思いますけど。」
「、、、水野くんて面白いよね。」
「は?人が真剣に言ってるのになんですかそれは。」
「あ!いやいや違くて。水野くんてやっぱり強いなあと思って。自分の信念みたいなものをしっかり持っててそれを貫いてる。私は自分の言ったこととかやったことをあとからこれで良かったのかなってうじうじ考えて後悔したり路線変更したりしちゃう。」
「、、、」
「水野くんのそういうはっきりしてるところ私は憧れてるよ。」
すっと見つめられるその瞳にのまれそうになる。
「、、、、、ほんと、うるさい人ですよね。万里さんは。」
「ええ!ただ良いところ言っただけなのに!」
また、なんでよ〜とか俺の肩を叩いてうるさく横で騒いでいる。
俺だって迷うときや間違えることだってある。
後悔なんてしている暇がないだけだ。
後悔させてくれないくらい毎日君の顔が見れて近くにいられて、毎日挽回する機会を得ることができるから。
「なんか、ごめんね、私の話になっちゃったね。改めて水野くんの相談聞かせてよ。」
「相談なんてないですよ。」
「え!そこから?違うなら最初に言ってよ〜。じゃあ何?」
「駅着くまで考えてみてください。」
「え〜なにそれ〜。んーどこか寄りたいお店がある!」
「違います。」
「ん〜〜日々の愚痴を聞いてほしいとか?」
「本人の愚痴を本人の目の前で言うのはなかなか気が引けますね。」
「いや、それ言っちゃってるし!」
なんてことない会話をしていつも通りの道をいつもは一緒に帰らないこの子と歩いている。
それだけのことがこんなにもドキドキして楽しいなんて。
ずっと、
ずっと認めたくないと思っていた。
こんな気持ちはただの気まぐれで、一時的なものなんだとそう言い聞かせて。
でも日に日に万里さんに話しかけられたり見られたりすると嬉しくなる自分がいることを自覚した。
それでも認めたくなくて、いつも敬語で話して素っ気なくあしらって。
こんな迷ったり色々考えたり面倒くさいこの感情にも早くケリをつけたくて確かめたくて、二人になれる時間を作ろうと万里さんを誘った。
万里さんの返事は、今日は予定がある、だった。
自分はタイミングに恵まれなかったと思い、まだいいかと確かめるのを後回しにしようとしたが、昨日の放課後の光景を見て少しの動揺と焦りを感じた。
あの光景を見たとき思った。早くこの感情を知らなければと。
それで確かめたらこのありさまだ。
多分告白してきたという人は昨日一緒に帰っていた人のことを言っているのだろう。
私間違ってるかなと問われたとき、有無を言わさず間違っている、断ったほうが良いと言えばよかったと今思う。
無意識に自分の欲より励ます方を優先してしまったのは万里さんにいつもの笑顔でいて欲しかったから。
そういう思いを全部万里さんにこの場で言えばもしかしたら俺に惚れるかもしれない。
でもそんなもしかしたらで早まって終わらせたくない。
落としたいときは確実になってから、何が何でも落とす。そう決めているから。
「なんかめっちゃ熱視線を感じる。なんか言いたいことあるなら言ってよ〜!」
見ていることに気づかれて、少し恥ずかしくなり横に目をそらす。
「万里さんも、面白いなあと思って。」
「それ絶対良い意味じゃない気がする、、。」
「良い意味だよ。」
「ほんとに〜?、、、、ってあれ?!今敬語じゃなくなったよね。」
「、、、そんな大したことじゃないことに驚かないでよ。」
「うっわ!やっぱり!え!なんでなんで??」
「ただ敬語がめんどくさくなっただけだから。」
「すごくいい!新鮮だなー!」
「、、、やっぱりうるさい。」
もう認めざるを得ない。
俺は、万里さんのことが好きなんだと。
* * *
「全く会話聞こえないけど、楽しそうに話してるのは分かるね。」
「どうだっていいだろ、そんなの。」
「、、、嫉妬に狂って八つ当たりしないでよ。」
「、、、だから違っ、、、悪い。」
「ま、別に面白いからいいけど。よし!もう少し近くに行ってみよう。」
「お、おい!」
二人の会話の内容なんてどうだっていい。
今はこのよく分からないイライラが早くおさまって欲しい。
ただ、それだけだ。
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