第13話 甘いバニラソーダアイス



「はー、別にいいよ。それより陽心」


「なに?」


「陽心は今3年だろ。もう受験の時期だなと思って。」


「慎くん、、、もしかして私が勉強しっかりやってるのか心配してるの?」


陽心は渋い顔で俺にそう言ってきた。


「あ、いやそういうことじゃなくて」


「ちゃんとやってますよ。もう、私が英語赤点常連者だからって慎くんにまで心配される覚えはないよ。」


英語赤点常連者なのか。中学の時から英語は苦手そうにしてたから高校は大変だろうなと思っていたら、やっぱりしっかり赤点だったか。


「その話を聞くと心配にはなるけどそういう話じゃなくて。」


「そうなの?」


「うん。陽心は行きたい大学とかやりたいこととか、もう決めてたりするのか?」


「ん〜、受験生だし一応行きたい大学は探してるけどこれっていうものがないというか。まあそんな頭良くないからあんまり選択肢はないんだけどね笑。それにまだ何やりたいとかも見つかってないというか、なんかいろいろまだ未定なんだよね。」


「そうなのか。」


少し安心してしまった。


好きな人がやりたいこととか行きたいところのために頑張っていたら、普通は応援するものだと思う。


もし陽心がしっかり自分の道を決めていてここを離れて進んで行こうとしていたら、俺は素直に応援できるだろうか。


どうしてもこの場所から離れて遠くに行ってしまうんじゃないかと思うと、不安がやはり残っていて、心から応援できるかというと俺はまだそれはできないだろう。


そう思うとまだまだ子供なんだと改めて自覚をさせられる。


「もう決めなきゃいけないのは分かってるんだけどさ、まだなんかピンとこなくて。もう少しいろいろ大学の案内とか見て決めてみようかなと思ってさ。」


「そういうのは焦って考えても答えが出てくる訳じゃないしな。」


「そうそう。それそれ!」


「まあ勉強はしとけよ。特に英語。」


「、、、分かってますよ。」


むくれている。親とか先生じゃないただの幼なじみにしかもひとつとはいえ年下にこんなことを言われるのは、嫌だよな。


勉強しなきゃいけないとか決めなきゃいけないとか、そういうのは陽心自身が良くわかってることだし。


「、、、悪い。あの本当は少し、、、あ、いや、今日はそういうこと言いたいんじゃなくて、夏休みのことで話があって。」


「そういえばもうすぐ夏休みだね!ん?あ!今週の土曜からか!はやいねぇ」


「そうなんだよ。それであの、、、」


うわ、あんだけ豪快に告白しといて今更ただ遊びの誘いをするだけなのに恥ずかしくなってるってもう、俺しっかりしろよ。


「ん?」


「あの、えっと、あれだよ。あの、、、、夏休みの予定はどんな感じですか、、、。」


「予定?んー花火とか見たりお祭り行ったり、あと海とかプールにも行きたいなぁ。」


「勉強とかは大丈夫なんですか?」


「もうまた〜?やるよ!もう。うるさいな〜」


「あ!ちがくて!えと、、、、よかったらどこか一緒に行きたいなっていう話で、、その、受験だから勉強とかで忙しいのかと思ってさ、、。」


「あ〜!だから受験のこと聞いてきたのか!」


「うん。」


「なんだそういうことか!大丈夫だよ!息抜きも必要だしね笑。も〜遠慮しなくていいのに〜私と慎くんの仲なんだからさ〜」


よく言うなおい。まあ過去のことは水に流そう。


確かに遠慮もあったけど、、、やっぱりこういう好意むき出しのことを言うのは恥ずかしい。


「どこ行く?あ!そうだ!せっかくだしゆみちゃんとかの予定も聞いて日程あわせて久々にみんなでどっか行こうよ!」


やっぱりそうきたか。


「それも確かにいいな。でもあの、お祭りとか海とかは家族で行かなくてもいいだろ?ほら、普通に遊ぶだけだし。」


「それもそうだね。じゃあそれとは別でどっか遊び行こっか!圭介はいつが良いのかな。」


はいはい、分かってましたよ。そういう風になるっていうのは。


昔はずっと三人で遊んでいたから当たり前のようにそうなってしまうのは分かる。


でも今は、そういうのはいらないんだよ。


「いや、そうじゃなくて、その」


ここからが本番だ。恥ずかしがらずに言うことをしっかりはっきり言え、自分。


「、、、、二人でどこか行かないか。夏休み。」


陽心を見ると少しフリーズしたあとやっと何を言われているかに気づき、目を泳がせている。


「あ、、、あ〜!そういうことね!な、なるほど、、、」


「そ、そういうことだよ。」


「だ、だよね。は、はははは。」


少し照れているのか俺と目を合わせないで全く別の方向を見て喋っている。


「う、うん。えっと、、、あの」


俺は焦っていたのか一緒にどこか行きたすぎたのか、回答を待たずに陽心の腕を掴んで、ばっちり目を合わせ思っていた気持ちを言ってしまっていた。


「断らないでくれ。」


「、、、、、」


目をぱちぱちさせてまたフリーズしている。

何秒か目を合わせていると陽心は少し視線をそらしてから、また目を合わせて答えを出した。


「、、、、断らないよ。二人でどこか行こっか。」


「!、、、、あ、ああ。ありがとな。」


その笑顔は言葉に表せないほど魅力的でずっと見ていたかったけど、陽心の腕を掴んでいたことや自分の気持ちが先走ってしまったことの恥ずかしさで俺はすぐ違う方を向いてしまっていた。


「日程は、、いつがいいとかあるか?」


「ん〜じゃあ16日の日曜日はどうかな?」


「16日か。うん、大丈夫だ。」


駅に着き、そこからはバスに乗って行きたい場所とか何するかとか16日のことを二人でいろいろ話した。



* * *



駅からバスに乗り最寄りのバス停で降りてお互いの家までの道のりを一緒に歩いている。


「そうだ、慎くん。」


「なんだ?」


「ちょっとコンビニ寄って良い?」


「ああ。」


家近くのコンビニに寄り俺は外のベンチに座って待っていた。


少しすると陽心がコンビニから出てくる。


「お待たせ〜!」


「なんか買ったのか?」


「うん!これをね。」


陽心は買ってきたバニラソーダ味の棒アイスを俺の目の前に突き出して見せてきた。


「アイスか。暑いから食べたくなるよな。」


「うんうん。はい。これ慎くんのね。」


「え、俺の?いいのか?」


「いいんだよ。そのために来たんだから。」


「そうなのか?ありがとう。あ、じゃあお金」


「いいのいいの。これは奢り!」


「、、、なんか怖いな。」


「何も企んでないよ!も〜。ほら、ここに座って一緒に食べよ。」


「あ、ああ。」


さっきまで俺が座っていたコンビニ前のベンチに二人で座る。


「なんだよ、いきなり奢りって。」


「うん。昨日は泣いてばっかだったから今日はまあ、改めてごめんという気持ちとこれからもよろしくお願いしますという気持ちを伝えたくて。奢らせていただきました。」


「なんだよ改まって。変な奴。」


「こういうのはちゃんとしたいと思ったから。」


「そういうもんか、、それにしてはちょっと安いんじゃないですかね。」


「いらないなら食べなくてもいいよ。」


「ありがたくいただきます。」


「そう?じゃあはい乾杯。」


陽心はアイスの袋を開けて自分のアイスを俺の方に向けてきた。


「乾杯ってなんだよ。」


「これからもよろしく記念にアイスで乾杯って意味だよ。」


俺も袋を開けてアイスを取り出し、陽心の方に向けた。


「か、乾杯。」


「あはは。かんぱ〜い。」


陽心が自分のアイスを俺のアイスに軽く当てるとシャリっと音を立てた。


「、、、これからもよろしくお願いします。」


「! うん!よろしくお願いします。、、、美味しい?」


「ああ。美味しい。」


「そっか!よかった。」


嬉しそうに笑ってこちらを見ている。

俺の好きなアイスを選んでくるあたり本当にまじでむかつくくらい、可愛い。


「あのさ」


「ん?」


「受験とか忙しい時期に、その、、告白なんかしてごめんな。全然あの、考えるのはそのあとでもいいし。」


「別に謝ることじゃないよ。なんでもタイミングとか選択とかあるじゃん。それが今だったってだけの話なんだからさ。それに、私が今ちゃんと考えたいし。」


「、、、、ありがとな。勉強は教えられるとこは教えます。」


「ちょっと。私一年上なんですけど。」


陽心の言葉は自分にとってすごく影響を与えてくる。


嫌なことを言われたら心底落ち込むし、良いことを言われたら最高に嬉しい。


さっきの言葉がどれほど嬉しかったか陽心は分かっているのだろうか。


気遣いで言ってくれた言葉かもしれないのにそれを真に受けて、甘えてしまう自分をどうか許してほしい。


「進路とかやりたいこととか決めたら、慎くんにちゃんと言うね。」


「、、、、なんだよ急に。」


「もう何も言わずに遠くに行ったりしないから、大丈夫だよ。」


「、、、、。」


「無理して応援もしなくていいからね。嫌だと思ったら私に面と向かってぶつかってきて。」


「応援は、、、、するよ。陽心が決めたことなら。」


「そっか。、、あと、それよりも前にちゃんと答え出して気持ち伝えるね。」


「、、、別に、先延ばしたっていいよ。」


「先延ばしにしたら慎くん泣きそうだもん。」


「だから今は泣かねえってば!」


「冗談冗談。あはは!」


「、、、。」


何もかも見透かされていたと思うと言わないで隠していたことが、より恥ずかしさを倍増させる。


お前はいつも俺を扱うのがうまくて俺はそれに気持ち良く踊らされて、どんどん気持ちを持っていかれて、どんどんのめり込んでしまう。


「あ、ほら早く食べないとアイス溶けちゃうよ。」


「、、、、ああ。」


今この瞬間が夏でよかったと本気で思う。


火照った顔も心臓のうるさい鼓動も、すべて夏の暑さと蝉の鳴き声でごまかしてくれるから。

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