第12話 帰り道


俺は昇降口を出で、ひとつ陽心に提案をした。


「あのさ、陽心。今日はこっちから帰ってもいいか?」


「ん?いいよ。」


今俺が行こうとしている道は校門までの距離が長く、より一緒に帰る時間を長くできる。


こんなことを考える自分がとんでもなく恥ずかしいが、そんなことは今やもうどうでもいい。


「こっちの道からあんまり帰らないからなんか新鮮だな〜。」


「だろ?新鮮な気分て日常には欠かせないんだよ。」


「? そうなんだ。」


「あ、そうだ。今日一緒に帰りたかったのはいろいろ陽心に聞きたいことがあって。」


「聞きたいこと?」


「えっと、、陽心は3年だからもう



「好きです!」


!!!


体育館の脇を歩いているといきなり前の曲がり角の方から声が聞こえてきた。


しかも


「あの、もしよかったら私と、、付き合ってください!!」


完全に告白の現場だ。


「!慎くん!これって、、、」


「ああ、そうだな。」


陽心は小声でうは〜っとかひょ〜っとか言いながら俺の肩をバンバン叩いてきた。


生の告白現場に遭遇してとても興奮しているみたいだ。


「今日はこっちから帰るのはやめるか、、」


「、、、そうだね。なんか堂々と通るのも悪いし。」




「、、、、ごめん。」


この声、、


陽心も気づいたらしく目を丸くして俺に確認を取ろうとしている。


俺も陽心に頷いて見せた。


「君とは付き合えない。」


その声は圭介のものだった。


それを確信した途端、陽心は俺の腕を引っ張りその告白現場を覗ける位置まで行こうとした。


「お、おい!陽心!」


「し!」


陽心は真剣な顔で人差し指を口に当てて見せる。


いや、あの、ちょっと、、、密着しすぎなんだよ、、、。


「堂々と通るのは悪いけど堂々と見るの良いんですか。陽心さん。」


「身内のは別だよ。特に弟はね!面白いじゃん!」


悪い顔して楽しそうに覗きこんでいる。


本当に、姉という生き物は恐ろしい。


まあ別にこれで一緒にいられる時間も増えるし、やっぱり何より俺も圭介の告白現場が気になる。


気を使って早く帰ったんじゃなくて本当に用事があったとはな。


しかも告白の呼び出しだったのか。


俺と陽心は2人に気づかれずにこっそり影からその様子を覗いた。


「あの、、じゃあ、友達から仲良くしてもらうことはできますか、、、?」


「、、、友達になるのは全然良いんだけど、仲良くしたとしてもその先は君が望んでいるような関係にはなれないと思う。」


「、、、、誰か、好きな人がいるんですか?」


「まあ、そうだね、、。好きな人がいるんだ。」


「!、、、そうですか、、。」


「本当にごめんなさい。」


「いや!あの!謝らないでください!私はただ自分の好意を伝えただけですから、、。聞いてくれてありがとうございます、、。」


「こちらこそ、、ありがとね。」


圭介は柔らかく笑って告白してくれた子にお礼を言っていた。



* * *



「まさか圭介に好きな人がいたとはね〜。告白されてるのにも驚いたけど。」


学校の校門からでてようやく小声じゃなく普通に喋れるようになると陽心が良いものを見たみたいな顔で話しはじめた。


「まあそりゃ圭介だって好きな人くらいいるんじゃないか?」


「慎くん知ってるの?」


「いや、俺も知らないけど。」


「私も気づかなかったし、慎くんにも知られてない相手かあ。」


「おい、陽心、あんまり圭介をからかうなよ?知られたくないこともあるかもしれないんだから。」


「別にからかわないし言わないよ!弟の恋愛なんて興味ないし、、ただ喧嘩したときなんかほらね、勝てる何かがあればいいと思ってさ。」


本当に姉という生き物はどうして弟の弱みを握りたくなるのだろうか、、、。


「まあでもいつになく真剣な顔してたし、これについていじるのはやめとくよ。」


「それがいい。でもたしかに、真剣な顔してたな。それくらいその相手のことが好きなんだろうな。」


「慎くんが言うとなんか説得力あるね。」


「、、、おい、他人事だな。」


「?、、、あ!いや!ちがう!今のは無意識で言ってて、、、、ごめん。」


陽心は慌てた後に、しょぼんと効果音が出るくらいに俯いてしまった。


「はー、別にいいよ。それより陽心」


「なに?」


しっかり意識しろって言いたいとこだけど、そんなことを言ったらただの押し付けになってしまう。


今は無意識に意識してくれることを願って行動するだけにしておこう。



 

* * *




好きです


付き合ってください か。


自分に向けてくれた言葉を思い返してみる。


本当は俺だってそんな風に直球に、素直に、言いたい。


でも


「おーい、万里くん。何帰ろうとしてるのかな。」


渡り廊下を歩いているとよく補修でお世話になっている、奏 ひとみ先生が前から歩いてきた。


「奏先生」


「今日は万里くんが教えて欲しいところがあるって言ってたから待ってたのに、忘れて帰ろうとしてたでしょ。」


先生は疑いの眼差しで俺を見つめてくる。


「今から行こうとしてましたよ〜!もーわざわざ探してたんですか?先生笑」


「今日はもう帰るの遅くなっちゃうから明日にしましょう。」


「えー、いいよ別に今日で」


「えーじゃない、私だっていろいろ予定があるんだから!」


「デートですか?」


「それはプライベートなので言えません。」


「先生彼氏いないから違うか笑」


「、、、これからできるんです!」


俺の方を振り返りむすっとした顔で睨んでくる。


「はいはい。頑張ってくださいね〜〜。」


「もう、気をつけて帰りなさいよー。」


「は〜い。」



何が頑張ってくださいだ。


本当は頑張って欲しくなんかないくせに。



俺はいつになったらこの気持ちを先生に伝えられる?


いつになったら、


この気持ちは報われる?

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