第11話 一番の悩み


「ごめんねえ、今日はもうこのドーナツ1個しかないのよ〜」


「あ、ですよね、、。」


今日は弁当を持ってきていなく、仕方なくお昼時はいつも混雑している売店で買おうとしていた。


混んでいそうだからと少し時間をずらしたのはやっぱり間違いだったか。


「じゃあそのミニドーナツください。」


「はい、100円ね」


ミニドーナツが入った袋を受け取り教室の方へ戻る。


今日の昼はこのミニドーナツだけかあ。


絶対午後の授業腹減るなあ、、。


教室に戻る方には外廊下がありそこを歩いていると、外のベンチに座って弁当を食べている、、、、陽心がいた。


「よう。弁当ここで食べてんだ。」


「ん!うんうんうんん。」


口いっぱいに含んでるから全く言葉になっていない。


多分、「あ!慎くん。」て言っているんだろう。


陽心の横には陽心のとは別の弁当箱が置いてあった。


「んん。やっと飲み込めた。今日水やり当番だからお昼は早めに外に行って外で食べちゃった方が急がなくて良いと思って、ここで食べてたんだ。」


「あ〜、なるほどな。」


「慎くんは売店で買ってきたの?」


「ん、あーまあな。収穫はこれだけだけど。」


「え!それだけ!?足りないじゃん。」


買ってきたミニドーナツを見せると陽心は驚いて何やらごそごそし始めた。


「これをあげよう。」


何かを弁当の袋から出してきて俺に見せつけてきた。


これは、、、おにぎりか?


厚み1センチ横幅20センチくらいの白いものを持っている。


「この平たいのは、、」


「おにぎりだよ。」


「なんかすごく、、、平たいな。」


「握ってたらどんどんでかくなってきちゃって袋に入らなそうだからちょっと潰してきたんだ。大丈夫!味は普通の梅だから!」


陽心は特別料理がうまいわけでも下手なわけでもないが、どこかしらツッコミどころを加えてくる。


本人は料理をするのは普通に好きらしく無意識にこういうのを作るのは昔も今も変わっていなかった。


「そうなのか、、。いやでも陽心のご飯なくなるだろ。」


「大丈夫!もう一個あるから。遠慮しないで食べて食べて。」


こんなでかいのがもう一個あるのか。


「そうか。じゃあもらっとく。ありがとな。」


「うん!」


こういう何気ないやりとりができるって本当に良い。


そしてこの笑顔、、、


はあ、売店に行ってよかった。


あ、そうだ、


「陽心あのさ」「あ!そうだ慎くん。」


陽心も何か言おうとしたのか俺の言葉と重なった。


「あ、ごめん。被ったな。何言おうとしてたんだ?」


「えっと、じゃあ私から。あの、今日一緒に帰れたりするかな?」


「え!」


「無理そうだったらまた別の日でもいいんだ。ちょっと話したいなと思ってさ。」


ちょっと待って、、、、、え!


「どうしたのすごい驚いた顔してるけど。」


「あ、いや俺も、、それ言おうと思ってて。」


「そうだったんだ!そっか!よかった!じゃあ一緒に帰ろ。」


柔らかい笑顔で一緒に帰ろうと言ってくれる陽心。



、、、なんなんだよ。



可愛すぎるだろ。



「あ、ああ。一緒に帰ろう。同じ教室みたいなもんだから待ち合わせは、、特に必要ないか。」


「そうだね。部活終わったら慎くんのとこに行くね。」


「お、おう。分かった。」



慎くんのとこに行くねとか、



何なんだよほんとに。



最高なんだけど、、!!




「万里さん。」


「あ、水野くん!」


幸せを噛み締めていると後ろから声がした。


振り向いてみるとイチゴミルクとコーヒー牛乳のパックジュースを持った男子生徒がいた。


「はい、ありましたよ。イチゴミルク。」


「うわ〜!ありがとうございます!水野さん!あとで100円返します。」


「手数料もつきますよ。」


「え、」


「冗談ですよ。」



水野くんと呼ばれている男子生徒はイチゴミルクを陽心に渡し、コーヒー牛乳を陽心の隣にある弁当箱の近くに置いた。


この弁当、この人のだったのか。


「、、、話中でしたか?」


「あ、いや。」


「慎くん、この人は水野くん。同じ園芸部で


「どうぞ話していてください。俺は食べ終わってるし先に水やりしてきますね。」


「え!ちょっと水野くん!」


「えっと、悪いな話し込んじゃって、、俺も行くな。」


「あ、うん。じゃあまた放課後にね!、、、ちょっと待ってよ!水野くん!」


陽心は残りのおかずを口に放り込み弁当をしまい、水野くんという男子生徒を追いかけていった。



一緒に帰りたいということは伝えられたし、陽心も同じ気持ちだったと分かったし、陽心の手作りおにぎりももらって今日はラッキーだ。



、、、、。




別に、


男子生徒と仲良さげにしてたって昔みたいに愕然としたりはしない。



別に


嫉妬とかそういうんじゃないけど、


お昼に一緒に食べられる距離感にいる彼を羨ましいと思ってしまう。



不安になんかなったりしない。陽心の気持ちを知ることができたから。



でもそれでも彼の立場は今の俺よりも陽心に近い気がして、少しの、ほんの少しの焦りを感じてしまったんだ。




* * *




放課後になり部活も終わり、あっという間に陽心と帰る時間が来た。


陽心はまだ園芸部の部屋から出てきていない。


「圭介、今日俺陽心と帰るんだ。」


「部活終わった途端表情筋が緩みまくってるね。おっけー!俺もこの後用あるし2人で仲良く帰りな〜」


「お前、、ほんといいやつだよな。俺と陽心を2人っきりで帰らせようとして気を使うなんて。」


「気使ってないわ。この後ほんとに俺も用事あるの!」


ほんとにこいつは、、友達想いな奴め。


「じゃあお言葉に甘えて。」


「なになに?お姉さんと一緒に帰るの?」


「下山田、もう俺をからかうなって。」


「いや、そんなニヤニヤしながら言われると逆にからかいたくなくなるね。」


そんなことを話していると園芸部の部屋のドアが開き、部員の生徒たちが出てくる。


その中には陽心もいて俺に気づき手を振って近づいてきた。


「お待たせ!えっともう帰れる?」


「もう帰れる。帰ろう!」


「んじゃ、俺ももう行くわ!じゃあな!」


圭介はそういうと急いで美術室から出て行った。


「圭介、今日は一緒じゃないんだ?」


「あ、ああ。そうみたいだな。」


俺たちに気を使ってあんな小芝居を、、、ほんといいやつだ。


「ほんとに帰るんだ!万里くんのお姉さんと。あ、はじめまして!下山田遥と言います。」


「あ!えっと万里陽心です。圭介の姉で」


「知ってますよー!いろいろ聞いてます!万里くんからも大和くんからも。」


「そうなんだ!部室そこになって顔合わせること多くなると思うからよかったらよろしくね。」


「ぜひ仲良くしてください!」


「じゃ、帰るか。」


「うん。行こっか。」


「大和くん頑張ってね〜!」


「下山田、、、、まあ気にするな。陽心。もう帰ろう。」


「う、うん。じゃあまたね!遥ちゃん。」


ほんともう、あんなでかい声で、、、。


デリカシーがないというかなんというか。


まあでも許そう。


なんたって今俺は最高に気分が良いから。



「2人で帰るなんて何年ぶりだろうね。久しぶりすぎて笑っちゃう。」


「俺は一緒に帰りたいってずっと思ってたけど誰かさんが避けるからな、すごい久しぶりだ。」


「ちょ!それ言う?!」


「ごめんごめん。」


「もう、、、」


陽心はむくれたあと少ししてまた笑っている。



美術室を出て廊下を並んで一緒に歩いている。


こんな日がまた来るなんて、望んでそれで終わりかと思っていたから、こうやって隣で笑っている陽心を見れるのは本当に嬉しくて。


ただ一緒に歩いてるだけなのにこんなに幸せを感じるなんて、この先俺は大丈夫なんだろうか。


今まで出来なかったことをいろいろしていくということはこれからは幸せの連続だということだ。


心臓が持つかどうかが今一番の悩みだな。




* * *




「大和くん頑張ってね〜!」


うわ、すごく幸せそうな顔しちゃってるよ大和くん。


めちゃくちゃ嬉しいんだろうなあ。


本当に応援したくなるよ。


その無駄な努力。

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