第10話 少しの不安よりも


「うわあ、なんか嬉しそうな顔してるね。」


教室に入り自分の机の近くまで行くと斜め前の席の下山田がこちらを向いてそう言ってきた。


「いや、そんな顔にでてないだろ。」


「今日の大和くんは誰が見ても私じゃなくても分かるくらい感情が顔に出てるよ。」


「さっき姉ちゃんに会ってからずっとこれでさ笑笑 もう気持ち悪くて〜」


「お、おい、圭介」


何ちゃっかり俺が陽心を好きみたいなこと普通に言ってんだよ。


「あー、お姉さん関連ね。」


なんかこっちも普通に俺の恋愛事情共有されてるし。


まあなんとなくバレてるとは思ってたけども。


「もういいよ、俺のことは、、、」


「おーい、圭介ー!隣のクラスのやつがなんか呼んでるぞ〜。」


「おっけー!なんだろ。じゃ、俺行ってくるわ!下山田、慎の話聞いてやってくれ〜」


圭介は隣のクラスの人に呼ばれたらしく教室を出て行った。



、、、なんかすごく下山田に見られてる気がする、、。


「、、、今日の一限てなんだっけ、俺課題やってたかなー」


「なんか良いことあったんだ。お姉さんと。」


何気なく話を逸らそうとしたけど下山田には通じるわけもなく普通に核心に触れてくる。


「ないけど。別に。」


「いや、そのにやけるのを我慢した顔で言われても。ほんと、分かりやすいねえ。」


「もういいだろ。」


「なんでよ、聞かせてよ。面白いし!」


人の恋心を面白がって、、、


「はいはい、俺の恋バナなんて面白くないから。」


「もしかして付き合うことになったとか!」


「いやまだそれは、、、分かんねえだろ〜?」


付き合うなんてそんな、急展開すぎて、いやもう


「何そんなもじもじしてんの。まだってことはなんか大和くんが仕掛けたんだ!」


「それは、、。」


「告白したとか?それで返事が保留とか!」


こいつ、、、鋭すぎないか、、。もうほんと俺めちゃくちゃ分かりやすいのかなあ、、。


「あーもう!そうだよ。そんなかんじだよ。」


「おー!当たっちゃった!そうなんだ〜!告白したのか〜。」


恋バナってどうして隠したいのに話したくなってしまうんだろう。


俺相当浮かれてんのかな。


「で、どうするの?」


「どうするって、、、そりゃあ頑張るしかないというか、、。」


「違うよ〜頑張ったあとのことだよ。」


「頑張ったあとのこと?」


「そうそう。頑張ってから振られたあとのこと。」


「、、、え、なんで振られるって決まってんだよ。」


下山田はキョトンとした顔で見つめてくる。


「いやだってさ、幼なじみなんだよね?昔から知ってて関わりがあったけど今まで好きにならなかったってことだよね。友達としてしか見てないってことでしょ?」


「まあそうだけど、だからなんだよ。」


「それってさ、今からどうにかしたって変わらないじゃん。昔から見てきたんだから。」


「それは分からないだろ。」


「そんな分かんない返事を期待して待っててさ振られたとき絶対ショックだと思うよ〜」


「、、、」


「昨日大和くんと話しててなんか訳ありな感じがめっちゃしたからさ、相当お姉さんのことで悩んだんだと思って。それで振られたら今度こそ立ち直れなくなるんじゃない?そういう不安とかないの?」


それは、


無いわけじゃない。


振られたら嫌だし、怖いし、悲しい。


また悩んで気持ちがどん底まで落ちるかもしれない。


でも


「そのお姉さんがさ考えるって言ってくれたから、俺はそれを待ちたいんだ。もしかしたらダメかもしれないって考える前に、まだ本人の気持ちが決まってないなら今はその気持ちを俺に向くようにしたいって思ってる。だからあとのことはそのとき考えるよ笑」


「、、、」


俺の答えに驚いたのか下山田が目を丸くして見ている。


うわ、また俺気持ち悪いこと言っちゃったか?


「、、、そっか。本当に好きなんだね。」


「いや、別に、そんなでもないけど」


「もう誤魔化しても意味ないでしょ笑 ま、頑張って!応援してるからさ!」


「あ、それは、どうも、、。」


応援されるのはまあ悪くない。


「それはそうと来週から夏休みだよね!」


「お、そうだな〜もう夏休みか。」


「それでさ、これなんだけど!」


そう言って俺の机に何かのチケットを出してきた。


「ん?何これ。」


「お、デザフェスのチケットじゃん!」


「あ、圭介。」


用が終わり戻ってきた圭介がチケットを手に取って嬉しそうにしている。


「はい、これ、万里くんの分もあるよ。」


「うわ!まじで!ありがて〜〜!どうしたんだよこれ。」


「友達がアクセサリーを出展するみたいでさチケットもらったんだ。絵とか写真集とか雑貨とかもいろいろあるみたい。」


「へ〜デザインフェスタか〜、行ったことないけど気になってたんだよ。」


デザインフェスタは自分で作ったオリジナルのものなら誰でも出展できるイベントで、たしか作ってない人も見たり買ったりという形で参加できたような気がする。


圭介はこういうのが好きなのでよくその話をしてくれていた。


「チケット何枚かあるからさ夏休みに美術部の何人かで行かない??」


「いいね!行こう行こう!夏に行くのは初めてだな〜。楽しみ!」


「じゃあ8月の22か23どっちか空けといてね。」


「りょうかいー」


「おっけー!」



「みんなー、席着いて〜」


先生がちょうど教室に入ってきて圭介、下山田、他の生徒も自分の席に着く。


いつものように朝のホームルームが始まる。




来週から夏休みか〜


もうそんな時期か。早いなあ。


まあ去年と変わらずダラダラ過ごして遊んで、、、



いや、去年と今年は全然違うじゃないか。


今年は陽心がいる。


去年も一昨年もその前の夏休みも陽心と遊ぶなんてことは全くなかった。


でも今年は違う。


うわ、これはもうやば、


夏休み嬉し!!


え、どうしようかな。なんかどっか誘おうかな、お祭りとか海とか花火とか。


「もうすぐ夏休みだからって浮かれてると思うけど勉強もしっかりやっとけよー。2年だからって油断するなよ〜。」


先生が浮き足立った生徒たちに釘を刺すように言ってきた。


そういえば陽心は3年だから受験で夏休みは勉強漬けなんだろうか。


そうなると、あんまり出かけられないか。


、、、、進路とかももう決まっているのかもしれないな。


ここ3年間くらい陽心とはあまり関わらないようにしてたからそういう話を全くしてこなかった。


うわ、忙しい時期に思いっきり告白しちゃったってことだよな俺、、。




進路か。どうするんだろう。


、、、、、。




今日は陽心と一緒に帰れたらいいな。


夏休みの話とか進路の話とかいろいろ、まず話をしたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る