第5話 虚しさを受け入れて


園芸部の生徒たちは奥の部屋に入り部活を始め、美術部の生徒たちももいつも通り作業を始めていた。


奥の部屋の扉の窓にたまに陽心が映っても変わらず平常心でいられている。

案外近くにいたって平気なのかもしれない。


「ねえ、大和くん」


「ん?」


「なんでそんなにソワソワしてんの?」


「、、、してねえよ。」


「え?ソワソワしてんじゃん!落ち着きがないっていうか」


「、、、普通に落ちついてるけど。」


「うそだ〜〜、今もほら!誤魔化そうとする顔してる!」


「、、、」


話しかけてきたのは下山田 遥という同じクラスで同じ美術部の女子だ。


この子には何かといろいろ気づかれることがよくある。


普通にしてるつもりだったのにそんなに態度に出てたのか。


「、、、仕切りはあるけど違う部活と部屋を共有してるんだから少しはソワソワするだろ。ほらもの珍しさというか。」


「へ〜大和くんてそういうの気にならなさそうだけど案外気になるんだね〜」


「まあ、少しはな。、、、なあ、俺そんなにソワソワしてたか?」


周りから見てそう見えるってことは陽心にはもう相当バレててもおかしくない。

あんまり陽心にはそういう態度を見せたくない。なんとかしなければ。


「んーそんなでもないかな。態度にはあんまり出てないよ。」


「え?でもソワソワしてるって、、」


「あたしは観察眼にたけてるから!普通の人が気づかないことでも、なんか人の変化に気づいちゃうんだよね〜ちょっとのことでも!」


そう言って親指と人差し指で少し、みたいなポーズをとっている。


「そうなのか」


「うん。だからそんなみんな分からない程度にはソワってたよって感じかな!」


「そっか、、それならよかった。」


少なくともそこまで態度に出ていなかったのは安心だ。


「そういえば万里くんのお姉さんて園芸部だったよね!」


今一番出てほしくない話題だよそれは。


下山田は俺の隣にいる圭介に、俺にとっては最悪な話題を投げかけた。


「ああそうだよ〜!どれかわかった?」


「ん〜顔は誰も似てなかったけど雰囲気的にあの髪がショートの元気な先輩かな?」


「ブッブー。正解はその隣の小さい方でした〜」


「ああ!あの人か〜女の子らしくて可愛い人だね。」


「ぜんっぜん!笑 なあ慎!」


「あ、ああそうだな。」


「へ〜大和くんも知ってるんだ!万里くんのお姉さん。」


「まあ。圭介とは昔からの仲だから必然的に姉の方も少しは関わったことはある。」


「何言ってんだよ〜笑 少しじゃないだろ〜笑」


「、、、」


「、、そうなんだ!仲良いんだね。」


「ほんと姉ちゃんは見た目に反して横暴だし、頑固だし、、可愛らしいなんてないない!笑」


横暴で頑固で意地悪で良く分からないけど、、優しくて可愛くてあたたかいやつだよ。


「、、、なんか言いたげだね、大和くん。」


「! いや別に何もねえよ。、、あいつはほんと可愛くないやつだよ。」


「ふーん、そうなんだ。」


なんか疑いの眼差しをされてる気がする。

ずっとこれだといろいろ見透かされそうだ。


「あ、圭介、俺も今日風景描きたいからどれか写真借りていい?」


「いいよ!この中からどれでも選んで。」


「ありがとな。助かる。」


話が終わると、というか俺が強制的に終了させると、2人とも自分の作業に戻って行った。



* * *



部活が終わる時間になり、部員の生徒たちは帰る支度を始める。


「お疲れ様です」


「お疲れ様でーす」


すると園芸部も今日の活動は終了したらしく、生徒たちが次々と奥の部屋から出てきていた。


その出てきた何人かの中に陽心はいたが、俺とは目を合わせることもなく帰っていった。


まあいつも通りか。


「ねえねえ、大和くん」


下山田がまた話しかけてきた。

さっきの話の続きだろう。どう誤魔化そうか。


「なんだ?」


「虚しくないの?」


「え?」


真っ直ぐに見てくるその瞳に何もかも見透かされているような気がして一瞬どきりとした。

意外な言葉すぎて頭が追いつかない。


「大和くんて万里くんのお姉さんのこと好きなんでしょ。」


!!


「は?何言ってんだよ。好きか嫌いかで言ったら俺はあいつのことは嫌いだよ。」


嘘はついていない、嫌いなのは本当のことだ。


「今、万里くんのお姉さんが出てきたとき、大和くんすごく複雑そうな顔してた。それにソワソワしてたときは少し嬉しそうで、でも

あの会話の時はどこか寂しそうな感じがした。もしかして恋しちゃってんのかな〜みたいなね?」


「なんだそれ、恋?俺が?わらうわ。」


「でもお姉さんにはそんな素振り見えなかったし大和くんの片思いなのかなーって。」


「、、、それだけで恋とか言われてもな。」


「なんかいろいろ事情がありそうなのはわかるんだけど、もしずっと一方的な感情しかないなくて頑張っても叶わなくて報われないなら虚しそうだなと思ってさ。周りを見たらもっと良い人いるかもよ?」


「勝手に話進めるなよ。別に大した関係でもないし、陽心のことはどうも思ってない。、、、それに虚しいか虚しくないかで終わらせられるようなことじゃない。」


「、、、」


「あ、これはあれだ、一般的に好きになったらそうなるんじゃないかっていう想像の話だからな。俺がとかじゃなく。」


「そっか。そういうことじゃないよね。いろいろ突っ込んだこと聞いちゃってごめんね!」


「いや、別に。突っ込まれても何もないし。」


「、、そっか!ちょっと深読みしすぎたかな。じゃあまた明日ね!」


「あ、ああ。またな。」


下山田はこれ以上の追及はせず普通に帰っていった。


これは誤魔化せたのだろうか。


まあ勘づかれても別にいいか。どうにもならないし。





虚しいかあ、、、


そんなこと何度思ったか分からない。


好きになって告白をして断られてもそれでもよかった。そばにいれたから。


でもだんだんそばにいればいるほど欲が増していった。


そこで初めて虚しいという感情が生まれた。



そして嫌われてからは何度も。


どうやったって消えない感情に虚しさが溢れるばかりだった。


虚しくて、虚しくて、


それでも、何度思っても消えなかった。


その時覚悟した。


どんなに嫌いになっても陽心に対する気持ちは消えない、もうこれはどうすることもできないものなんだと受け入れることにした。


接し方は誤魔化せるけどこの気持ちだけは誤魔化しが効かない。



受け入れてからは虚しいなんて、もう思わなくなっていた。


我ながらこじらせすぎていると思う。


虚しいと思えるときはまだ救いがあったのかもしれないな。

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