第4話 抑えたい気持ち


俺の中には陽心が嫌いな自分と好きな自分がいて、たまに何が何だか分からなくなるときがある。


陽心を見るとそうなるから見ないように、避けるようにしていた。どこにいても気付かないように。

そうやりながら気持ちを押し殺して何も考えないようにする癖がついた。


でもどうしても見かけてしまうことがある。


例えば学校の廊下ですれ違ったとき。登下校で前を歩いていたとき。休みの日家で洗濯物を干していて向かいの家から陽心が出かけていくのを見かけたとき。


その時は決まって思うんだ。


もうお前は俺の隣にはいてくれないのか?


もう隣では笑ってくれないのか?


なあ、陽心、俺はお前が


そう自分の気持ちが溢れそうになると必死で止めてきた。


今まで出来てきたんだ。

だからこれからもそうやっていける。



* * *



「ねえ、告って振られてもずっと忘れられなくて何年もその人のことを想ってるってどう思う?」


「なにそれ一途〜〜!最高じゃーん!そんなふうに誰かに想われたい人生だったよ。」


「そうかな?好きでもない人からずっと想われてもなんか微妙じゃない?」


「んーー、まあ自分は好きにはならないから想われてもなあって感じはするのかなあ。客観的に見たらいいなあって思うけど。え、なに?告られたの?!」


「ちがうちがう、昨日のドラマの話でさ〜」


「なんだドラマかよ〜〜」


後ろで盛り上がっているクラスの女子たちの声が聞こえてくる。


何年も一途に想い続けてるって大丈夫かよそいつ。


そんな叶わないことに時間割いてるとか無駄じゃん。その時間もっと違うことに使えよ。


ほんと救えないやつだな。ドラマの話でよかったよ。


、、、


自分の思った言葉がブーメランで返ってくる。


今現在自分に起こっていることをフィクションにしたいくらい嫌になる。


遠ざけていたのに、いや、そうしていたからなのか、昨日は少しの優しさでも抑えていた気持ちが蘇って言葉にしてしまっていた。


忘れられない人がいること、というかその人に嫌われても好きな気持ちが消えなくて思わずその子が寝てる時に頬とか手に触れちゃうってなかなかだよな。


なんかストーカーとかがモチーフのサスペンス映画になってもおかしくないような。


、、、やめよ。思い出しただけでも恥ずかしい。



「慎!何ぼーとしてんだよ!部活行くぞ〜」


「あ、そうだな。行こう、はやく。」


俺と圭介は美術部に所属していて放課後はほぼ美術室で絵を描きながら基本好きなことをしている。


展示会前以外はそこまで真剣に絵を描いていないから美術部員のみんなも自分の好きなものを書いたり作ったりしている。


圭介は写真を撮るのが好きでそれを模写して描いていることが多い。


真剣に描いている圭介を見ると本当に絵や写真が好きなんだと分かる。


俺が美術部に入ったのは、中学のとき美術部だったし、描くのは嫌いじゃないし、加えて圭介に誘われたのもあり、美術部に入るのも良いかなと思ったからだ。


昔は褒められるために描いていた。でも今は違うという証明もしたかったのかもしれない。


* * *


美術室に入るともうすでに部員たちは集まっていた。


しかしいつもの見慣れている部員たちとその横にもう何人か生徒がいた。


「え、なんで、、、」


その見慣れない何人かの生徒の中に俺が大嫌いで忘れたいあいつがいた。


「あれ?姉ちゃんじゃん!どうしたの?」


「あの、、それは先生から話があると思うからそれ聞いたほうが理解できると思う。」


陽心は気まずそうにそう言った。


「あら!万里くんと大和くん来たから全員揃ったわね!じゃあさっそく紹介しようかしら!」


美術部の顧問、大山さとみ先生が何やら楽しそうに紹介をしたがっている。


嫌な予感しかしない。


「今日から美術室と繋がってるあそこの部屋で活動することになった園芸部のみなさんです!あの部屋に行くには美術室に入らないといけないから一応の報告になります!」


うそだろ、、、どういうことだよ、、


「美術部のみなさんいきなりですみません。今まで使っていた園芸部の部屋を他の部活で使いたいということだったので、元の部室を譲ることにしてこちらの部屋を使わせていただくことになりました。すみませんがよろしくお願いします。」


園芸部の部長らしき人が挨拶をしている。


ずっとこの部屋の隣で活動するのか?しかもドアや窓、壁の仕切りがあるものの、入る時も出る時もこの部屋を通るしかないって、、、、まじかよ、、、


「いいのよ〜私が提案したことなんだから!どうせそこの部屋使ってなかったし!みんなもいいわよね〜」


「はーい!」「大丈夫でーす。」


部員のみんなは口々に了承の声を上げている。


「皆さんありがとうございます。」


「じゃあみんな、園芸部のみなさんとの部活中の交流も自由なので仲良くやってくださいね〜!」



どうしてこうなった。

部員たちはいつも通り活動を始めたり、園芸部の子たちと話したりしているのが見える。


何にも気にしていないらしい。1人を除いては。


陽心を見ると目があってしまった。


目を逸らし気まずそうな顔をしている。


そりゃそうだよな。俺も同じ気持ちだよ。



どんなに避けようとしても避けきれないこと、このままでいいと思ってもそうはさせてくれないことが現実的にあると分かってはいたけれど、いざそのときが来るとどうすればいいのか分からない。


気持ちがブレないようにしたいとき、この展開は最高なのか最悪なのか。


嬉しさと嫌さが入り混じった感情を抑え今はとにかく部活の準備をしてる風を装うので精一杯だった。


どうすればいいのか分からないならいつも通り振る舞っとけば今はなんとかなるだろう。


そうしないと、だめだ。

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