第2話 最悪な土曜日


顔を洗いリビングにいくと、トドのように寝転がりソファーを占領している姉がいた。


「おはよ〜」


「おはようー、え?慎。起きんの早くない?学校行くときと同じ時間に起きてんじゃん。いつも昼くらいまで寝てるのに。」


姉は俺が起きてきたことになぜか驚いている。

この姉の名前は大和ゆみ。

平日は地獄、休日は生き甲斐と毎日のように言っている23歳社会人2年目のOLだ。

いつもならもう8時には家を出ているはずなのになぜか今日はリビングで髪ボサボサパジャマ姿のままだ。


「何寝ぼけてんだよ。学校だから起きてきたんだよ。姉ちゃん会社遅れるぞ。」


「は?何言ってんのあんた。今日土曜日だけど。」


テレビを見るといつも8時にやっているはずの情報番組の占いではなく土曜にだけやっている旅番組が流れている。しかも画面の左上には(土)と映し出されてあった。


「え、今日土曜日?」


「うん。土曜日」


昨日は普通にいつも通りアラームをかけて寝ていた。休日に目覚ましの音で早起きをするなんて、休日の醍醐味をなくしてしまったようでもったいない。


「なんだ、ちょっと寝直してくる」


「別にいいけど今日あたし友達と海行ってくるから家のことお願いね〜。」


「はいはい」


嫌な夢を見たあとだし、寝直して改めてすっきり起きて1日を始めるのもいいだろう。

二階に上がりさっきまで寝ていたベッドにダイブし目を閉じる。


、、、


体勢が悪かったか。


寝返りを打ち再び眠ろうとする。


、、、


30分後


何回か繰り返したがまったく眠れる気がしない。


これは完全に目が覚めてるな。


「ん゛〜ーーー、もういいや」


再びさっきよりも重い足取りでリビングに降りていく。


「あ、もう起きたんだ。」


「寝起きが悪すぎてまったく眠れなかった。」


「まあいいじゃん。寝てばっかいないで朝から休日楽しみな〜。」


姉はさっきまでのぼさぼさ頭はふわっとした巻髪に変わっており、顔も化粧でバッチリきめこんでいる。


本当にこの人はオンとオフがはっきりしているなと思う。


冷蔵庫を開け牛乳を取り出しコップに注いで勢いよく飲み干した。


「あ〜〜うま。ちょっと気分転換にコンビニ行ってくる。」


「ちゃんと鍵持ってってね〜慎が帰ってくる前に家出てるかもだから!」


「んー」


玄関を開けると同時に勢いよく蝉の鳴き声が聞こえ、強い日差しが照りつける。


今日は8月8日。さっきのテレビの天気予報によると今日は35度越えのめちゃくちゃ暑い日らしい。

夏真っ盛りのこの陽気に少し外に出るのを躊躇ったがあの夢を忘れるにはちょうどいい暑さかもしれない。

暑すぎてそれどこじゃなくなるだろう。冷やし中華とかアイスとか夏っぽいもの買って家で夏を満喫するか。


そう思いながら行こうとするとさっき夢で見たような光景が目の前に広がる。


「まじか、」


さっきの夢で見た女の子が向かいの家から出てきてドアを閉めて後ろを振り向く。すると俺に気づいたとたん渋い顔をした。


「、、、おはよ。」


「、、、おはよ。」


気まずい。

出てきたのは、幼なじみでもあり友達の姉でもある、俺の大嫌いな万里陽心だった。

暑いからなのか今日は髪を頭の上にまとめておだんごにして、家着っぽい簡易的なワンピースを着ていた。


* * *


今俺は陽心の少し後ろを歩いている。

たまに陽心が後ろを振り向いて不審な顔をしてくる。

これは絶対ついてきてると勘違いされているような気がする。

多分あの格好でこの道のりからすると陽心もコンビニに行くのだろうか。タイミングが悪すぎる。

でもわざわざ陽心のために行き先を変えるなんてことはしない。

コンビニまでの道のりで何回か振りかえられたってコンビニでまた嫌な顔されたって、俺はコンビニに行く。もうなんか意地でも行ってやる気になってきた。あいつのために行きたいとこに行かないのはなんかしゃくだから。


暑い日差しの中よく分からない距離を取りながら2人は歩いている。

ただ歩いているだけなのに垂れてくる汗。

さすが35度ごえの日差しだ。

前にいる陽心を見ても首元にうっすら汗をかいているのが分かる。それを時折ハンカチで拭っていた。



* * *



無事なにごともなくコンビニには着いたが帰りも一緒なんてごめんだ。

さっさと選んで早く帰ろう。


麺類のコーナーに行き冷やし中華をとり、アイスコーナーで箱入り棒アイスをカゴに入れた。

追加でお菓子を何個か入れてレジに並ぼうとするともうすでに陽心が並んでいた。


やっぱりもう少しいろいろ見てからにしよう。

レジに並ぶのをやめ、お菓子コーナーに引き返す。

陽心がレジを終えコンビニから出たのを見計らい俺はレジに並んだ。


いやなんでこんな意味分かんないことしてんだよ。

別に一緒に出たって行きと変わらず家に帰ればいいんだ。

分かってるんだけど、なんか、なんか嫌なんだよな。


「ありがとうございましたー」


コンビニを出るとまたさっきまでの強い日差しが照りつける。


「あちーー」


これで何の気兼ねもなく家に帰れる。あとはこの暑さに耐えれば。


少し歩くと道路脇にしゃがんでうずくまっている人が見えた。


「、、、まじかよ。」 


そこにいたのはさっきコンビニを出た陽心だった。


「おい、陽心!大丈夫か?」


俺はうずくまっている陽心の側に駆け寄り声をかけた。

顔は真っ青で汗が尋常じゃない。


「、、。ちょっと、、軽い貧血かもしれない、、」


「ったく何してんだよ、ほらこれ飲んで。」


俺が時間稼ぎでコンビニに居座ったとき、帰りの暑さにやられないように念のため買っておいたスポーツドリンクを飲ませた。


「ん、ありがとう、、」


「ふらついて立てないのか?」


「ちょっとね、、多分少し座ってれば治るから大丈夫。」


どうする。

こんな暑い中このままにしておくわけにはいかないし、、、。

あ〜〜〜悩んでる場合じゃないか。


「、、、、ほら、乗れよ。」


明らかに弱っている陽心の前にしゃがみ背中を向ける。


「! いいよ、おんぶなんて恥ずかしいし、ここで少し休んでれば、


「俺だってこんな暑い日におぶりたくないけどここでのたれ死なれた方が後々気にしないといけなくなりそうだから、早く乗れ。」


「でも、、、」


「いいから、ほら。」


「、、、重くても文句言わないでよ。」


「それは、、疲れたら言うかもしれない。」


弱々しく俺を叩き、素直に背中に乗ってくる。


「よいしょっ、、、、」


やっぱり昔よりは重いな。

陽心の体温が今すごく高くなっていることが背中に伝わってくる。


「重い?」


「、、、めちゃくちゃ重い。」


後ろから陽心が俺の頭を自分の頭でグリグリして攻撃してきた。


「痛えよ、、、ちょっとしか歩いてないのにバテてるってことは、朝食べないで出てきただろ。」


陽心は朝食べてないと午前中やってけない体になっている。今もそうなのか。


「、、、冷蔵庫調味料とかしかなかったから仕方なく出てきたんだよ。どうしてもそうめんとアイス食べたかったし。」


肩に回した腕をギュッと締めてきたが今は弱っていて全然力が入っていない。


「米くらいはあるだろ、少し食べて出てこいよ。」


「、、、分かったよ。今度から気をつける。」


「前もそんなこと言ってたような気がするけど。」


「、、、忘れたよ。」


「あっそ。」


「、、、、ごめんね。こんなことになっちゃって。重いし、、せっかくの休みなのに。」


「、、、本当にな。」


できる限り日陰の道を選び陽心の体が負担にならない程度に急いで歩いた。


* * *


暑い中おんぶしながら歩くのは暑さ的にも体力的にも中々に辛くて俺も結構汗をかいていた。


「、、大丈夫?」


それに気づいたのか陽心が心配してきた。


「大丈夫だ。もうすぐ家だから黙って休んでろ。」


「、、、うん。」


それから少し歩くとやっと無事家に着くことができた。


「はあはあ、着いた、!!」


短い距離のはずなのに1人担いで歩くだけでこんな長く感じるなんて、、この暑さなめてたわ、、。


ようやく家に着いたところで陽心を下ろすともう陽心は歩けるようになっていた。


「はあはあ、、よかったな。ふらつかないか?」


「うん、家に着く少し前にもうだいぶ回復しててさ。」


「おい、はあはあ、それはやく言えよ、はあはあ。」


「だって、黙って休んでろって言われたから。」


「くそ、、はあはあ、、じゃあお大事に。」


「あ、、、うん、ありがとね慎くん。」


「、、、」


帰りも無事家に着くことができ、お互い自分の家の玄関に向かう。


もう最悪だ。なんで俺がこんな汗だくになって疲れて帰ってこなくちゃならないんだ。

まじでエアコンガンガンにきかせてアイス食って寝るか。


ガチャン


あれ?


玄関のドアノブを引いてもドアが開かない。

あ、姉ちゃん出かけたのか。

えっと鍵は、、、、ない、、、。

学校のカバンに入れたままだ、、、。

普通に持ってるつもりでいた。、、おいおいおい何やってんだ俺、寝ぼけてんなよ〜!


「何してんの?」


俺が家の中に入らず玄関の前でうろうろしていると陽心が声をかけてきた。


「、、、姉ちゃん出かけて鍵しまってて、俺の鍵は家の中という状態です、、。」


「え!、、ゆみちゃんすぐ帰ってこないの?」


「んーー友達と海行ってくるみたいなこと言ってたから帰るのは遅いと思う。まあ、ファミレスかカラオケでも行って時間潰すわ。」


もうそれしかない。今財布にあるかぎるのお金を使ってできるのはそれくらいだ、、。

何時まで潰せるか、、あいつ遊ぶ時は絶対飲んで帰ってくるから夜遅いんだよな〜、、。


「うちで待ってれば。」


「、、え、、、」


今では考えられないその言葉に驚きを隠せない。


「何その顔。驚きすぎだよ。別に昔は家に来てたじゃん。、、それに今日はおぶってもくれたし。」


「、、、ああ、まあそうだけど。」


「圭介だっているし、時間潰せるでしょ。」


「、、たしかに。」


「嫌ならいいけど。」


「いや、嫌じゃないけど、いいのか?」


「いいよ。」


「、、そっか。じゃあ、、お邪魔する。」


「、、、どうぞ。」


こんなことになるなんて思ってもいなかった。

まあ夜遅くまで姉の帰りを玄関で待たなくてすむのはありがたいけど。


今日はなんとも言えない1日になりそうだ。

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