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 停滞を迎えていた地球時代から植民と開拓、発展が爆発した宇宙時代。人類は銀河に有り余る宇宙資源を背景に新たな青春を迎えていた。

 その恩恵はあらゆる分野に亘っていて、例えば科学技術であればワープ、人工重力、テラフォーミングの三種の神器だけでなく、惑星間をリアルタイムに繋げる通信技術に、人間の労働の一切をまかなうアンドロイドの台頭などと異次元の発展をし、そのいくつかは人類の生活様式を一変させた。

 けれど、どんなに時代や文化が変わっても不変なものは存在する。

 そのうちの一つが運送業の需要だ。惑星一つが企業によって独立した国家。地球と言う惑星一つだけでも大小さまざまな国家が多様な文化や地方の特産品を持っている。それが惑星群単位ともなれば産業の種類は十人十色どころか百億人百億色、いや百億星百億色と言っても良いレベルに膨大だ。

 人類が宇宙に進出したのは主に経済の発展のため。ワープ航法技術があれば経済の取引を一国、いや一惑星内で完結させるのはもったいない。誰だって、どんな企業だって他の惑星から珍しいものや自分たちの産業に必要な物資を取引したくなる。ゆえに、運送業は大気圏の枠を超えて宇宙を股にかける一大産業として発展したのだった。トラック野郎ならぬ野郎は人類の技術の粋である宇宙船に乗って宇宙空間、亜空間を駆ける花形として様々な宙域で活躍している。私達が所属する星間運送会社「サマートランスポート」もそんな宇宙運送業時代の企業の端くれと言うわけだ。

 ただし、花形だからって楽な仕事って訳じゃない。届け先の宇宙港への連絡ミスで不法侵入扱いを受けて宇宙軍の攻撃を受けたり、宇宙船に積んだ荷物が素人には理解できない化学反応をいきなり引き起こして航行不能状態を引き起こしたりと……危険な分給料はその辺の惑星企業国家よりも高額だけど、常に安全に仕事が出来る訳じゃない。

 そして、私達が運転する宇宙船は基本的に貨物船。と言うことは、船の形状と背負っている屋号のおかげでコンテナ内に様々な物資を積んでいると宇宙に宣伝している事になる。

 星間運送業で最も遭遇するトラブルは宇宙海賊との接触――

「わっ‼ きゃっ‼」

 背後からいきなり現れた海賊の戦艦はやたらにビーム砲を乱射している。回避にリソースを回すためにシャトルの人口重力はすでに切れているはずなのに、宇宙空間で上下左右、縦横無尽に考えうるあらゆる回避運動を展開するせいでさっきから私の体はシートに押し付けられっぱなしだ。

「ジウ! 周辺の宙域にSOS! メルボの宇宙軍がアラートを受信すれば――」

〈すでにやっています。けれどこれは……周辺に他の宇宙船の反応無し。救援は望めそうにありません……〉

「何のための宇宙軍なの⁉」

 宇宙法によれば惑星企業国家は周辺宙域の平和に貢献する義務がある。これは自分たちの惑星が宇宙海賊に対応する自衛と企業の社会福祉・社会貢献を兼ねたもので、要は広大な宇宙で助け合いましょうって事。

 私達の通信は確実にメルボの宇宙港にまで届いているはず。それなのに宇宙軍の派遣はおろか返事すら来ないのは明らかにおかしい。これじゃ私達は宇宙海賊の良い獲物だ!

「うっ……‼」

 ドン、と一際大きな衝撃が船体に走る。どうやらレーザーの一撃が船体をかすったらしい。モニターの警告に連動するようにジウの耳元に埋め込まれたヘッドフォンが赤色を中心に危険を示す色を発光させている。

「推進剤がもう保たない……。こんな余分な運動していたんじゃ宇宙港にも逃げ切れないか……」

 ジウが完璧な計算で回避運動を行っているからって、私達が乗っているのはあくまで輸送船。本来であればこんなアクロバットな運動が出来る船じゃない。無理がたたって回避運動だけで船体にダメージが蓄積して、燃料もものすごい勢いで消費している。

「そうだ! これは緊急事態だし、宇宙港までワープするのはどう⁉」

〈理屈としては間違っていませんが、今の私は回避以外にリソースを割くことが出来ません。この短時間でウェンズデイ、人間にワープ航法の複雑な計算が出来るはずもなく、仮にワープに成功して現状を脱しても……これは予測ですがあの海賊は再び私達の後ろに出てくるでしょう〉

 確かに、あの海賊船は私達をたっぷり三十分泳がせた上でいきなり背後を獲って来た。と言うことはあの戦艦は多分精度の高いワープ航法が行える装置を持っているはず。ここまで執拗に攻撃を続けている所からでたらめな所にワープしても私達の軌道をトレースして追いついてくる可能性もあるし……そもそもでたらめなワープは危険でしかない。宇宙港や人がいる箇所に出られたらめっけものだけど、宇宙は未だに人類の手つかずの箇所が多い。真空の闇の中を遭難するならマシ、最悪の場合磁場に引かれてブラックホールや恒星に飛び込んで死亡することだって――

 考えているうちに彼我の距離はどんどん詰まって行く。このまま何もしなければ海賊は私達を捕えて大事な積荷を鹵獲するだろう。

「ジウ!」

〈ウェンズデイ!〉

 私達は同時にお互いの名前を叫んだ。こうなるともうやる事は一つしかない!

「サブマスター・ウェンズデイの権限によってコードAを宣言! 緊急時につき人類への攻撃を許可する!」

 私は隣に座るジウに向けて力の限り叫んだ。船と一体化しているからどんな風に口に出しても聞き取ってくれるだろうけど、こういうのは勢いが大事だ!

〈……コードA受領〉

 一瞬、ジウの目が一気に見ひらかれる。命令を受領した彼女は一種のトランス状態に陥ったかのようにサファイアの碧眼とヘッドフォンとを強烈に輝かせ、その肉体を小刻みに震わせる。

 それと同時に船体もジウと連動するかのように震え出す。よし、これで全ての準備は整った。反撃開始だ!


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