1―3
光の雨が降り注ぐ様を男は戦艦の艦橋から満足げに見下ろしていた。相手のドライバーはよほど腕が立つのか、輸送用の宇宙シャトルで自分たちの攻撃を紙一重で回避しているが……所詮は五〇メートル級のシャトル、持久力の面で戦艦にはるかに劣る。例え攻撃が当たらないとしても燃料はあっという間に尽きてしまうだろう。
自分たちとしては出来るだけ積荷を傷一つ無い状態で回収したいわけで、相手が回避に尽力してくれるのは願ったりかなったりだ。海賊船のキャプテンはそう思いながら真空空間で繰り広げられる曲芸を肴に略奪品のワインを満足げにラッパ飲みする。
「キャプテン、今回の狩りも上々の結果に終わりそうですね」
彼の下に部下の男が一人近づいてくる。部下も同様に略奪品のラム酒をラッパ飲みし、輸送船がレーザーを回避する様を眺め始めた。
「はっはっは。これも全部、アイツらから貰った装置のおかげだぜ」
キャプテンはボトルの中身をぐいと傾けると、自分たちの稼業を大きく変えた出来事に思いを馳せ始めた。
すべてのきっかけは二年前にさかのぼる。
宇宙開拓時代の負の側面である海賊稼業、一般的に海賊といえば地球の時代から誰に縛られるわけでなく気ままに航海と略奪を行う「暴力と自由」を象徴する存在であり、そのイメージは現代まで引き継がれている。
しかし、すべての宇宙海賊が自由気ままに暴力を振るえるわけでは無い。惑星企業国家が一つの成熟を迎えつつある現在、各惑星には宇宙軍に代表される私兵団が整備され、略奪の難易度は確実に上昇している。だからって警備の薄い辺境の宙域に出れば略奪こそたやすいものの、得られる収穫は微々たるもの。一〇〇〇メートル級の宇宙戦艦に、百人の部下を満足に養う事は容易では無い。海賊稼業はカタギの人間から見ると陽気で気楽な印象があるが、その実キャプテンは日々の収入をどうすればよいのか頭を悩ませていた。
それが今では酒をラッパ飲みしながら惰性で狩を行えるまでになっている。やはり持つべきは頼りになる協力者だぜ。キャプテンは己の戦艦の司令官の席にドサリと腰を下ろしだらしなく足をテーブルへと放り投げる。慣れた姿勢が作る動作なのか、ブーツの踵がコンソールのパネルをタッチし、とある装置の稼働状況をモニターに映し出した。
「高度ワープシステム・ダイバー」。これこそが彼らの狩りを一変させた脅威のテクノロジーだった。
ワープ航法における亜空間は本来であれば一分と経たずに通過する場所である。これは単に移動時間を短縮する工程というだけでなく、その空間を早くに脱する必要があるためだ。と言うのも、ワープ航法は空間の歪みを利用する事で移動距離を短縮する技術であり、裏を返せば不安定な空間に飛び込む事になる。碌に計算を行わずに、無理やりワープを行えば座標がずれて遭難するどころか理論上では亜空間の中を漂流し続けたり、空間の密度に耐え切れずに船体がつぶれて即死したりする可能性もある。
しかしながら、ダイバーそのワープ航法における常識を塗り替える画期的な次世代のワープ機関であった。ダイバーは従来のそれよりもはるかに高い計算精度と速度を誇る。これにより搭載した宇宙船は亜空間での安全で長時間の潜航と、亜空間を通過する他の船を感知することが可能になった。要は危険と思われる亜空間・宙域の裏側で獲物の待ち伏せが可能になったのである。
キャプテンがダイバーを入手したのはとある辺境の若い惑星企業国家を襲撃した時だった。その日の収穫は芳しいものでは無く、部下の士気も戦艦に蓄積したダメージも限界を迎えていた。
気ままに略奪を繰り返して来たものの、現実はそう甘くない。企業では無いものの、この組織を維持するのはもう難しいだろう。そう諦めかけていた時である。キャプテンはいきなり現れたとある一団から、ダイバーを提供されたのだった。
得体のしれない装置を提供される事に抵抗が無いわけではなかったが、このまましょぼい狩を続けていても自分たちが先細るのは目に見えている。それに、装置の取り付けと同時に船を新品同様に改修してもらえるとなれば断る理由は無かった。キャプテンとしては目先の金のために悪魔に魂を売った気分だったが、百人単位の社員を抱える経営者としては事業を継続するための融資が必要だったのである。
そして、その融資は爆発的な結果を生み出した。潜航、探知、襲撃。この三パターンを安定的に可能にするダイバーのおかげで海賊稼業の効率ははるかに向上したのである。
宙域をあまたに航行する輸送船はもちろん、威力偵察を行う宇宙軍の船だって亜空間から襲撃を行えば沈めるのはたやすい。今では航行量の豊かな惑星メルボの宙域にまで進出し、宙域周辺の惑星企業国家を脅しつけたことで「航行量の数割」を自由に襲撃出来る自由まで勝ち取ることができた。
はじめこそ己の利益のために惑星企業国家たちはそれぞれの宇宙軍を派遣してきたのだったが、亜空間からの襲撃に対応できる者はだれ一人いない。たかが一隻の海賊船に金のかかる軍隊を浪費させる事は無意味だと判断した彼らは暗黙の了解としてこの海賊が宙域に蔓延る事を許可したのだった。
周辺惑星のだんまりと、襲撃方法のせいでこの海賊たちの名前は世間に広まっていない。彼らははじめのうちこそ「海賊らしく宇宙に名前を轟かせたい」と思っていたが、大きく口を開けるだけでエサを手に入れられる生活を続けるうちに名誉欲は無くなった。
安全に何もかも手に入れられるのだ。むしろ名前が知れてしまえば自分たちの秘密兵器がばれてしまう。だったらダイバーの名前通りに宇宙の片隅で静かに潜んでいればいい。
今や彼らにとって狩とは自由気ままな暴力の興奮が伴うものでは無く、惰性すら感じる日常の一部であった。雑にレーザー砲を放ち、それを肴にアルコールを煽り、中には改修する積荷の損傷状況で賭けを行う者まで。戦艦の中は安定が生み出す退廃的な空気が沈殿していたのだった。
「⁉――」
そんな停滞した状況の中でキャプテンの目は一つの異変を捕えた。彼は足を机の下に、正しい姿勢に座り直すとモニターに貨物船の様子をズームで表示させる。
今、どこも掠らなかったのにひびが入らなかったか? 酔いの間違いでは、しかし一組織の棟梁としての直感が何か不吉な物を感じ取り、頭の芯から徐々に酔いが醒めてくる。
違和感は彼だけの物では無く、艦橋で同じように貨物シャトルを見ていた部下たちも感じていた。
「なんだかひび割れていないか」
「あの船……避けているんだよな?」
「俺たちの速度が速いのか? なんだか異様に距離が近づいている気が……」
部下たちのつぶやきはキャプテンが見た物を裏付け、一つの予測と結びついていく。
まさか――
「シャッターを下ろせ!」
キャプテンの突然の命令に出来上がっていた部下たちは何事かと驚いたが忠実に命令を実行する。海賊においてキャプテンの命令は絶対であり、何よりもそのキャプテンの表情からはただならぬ物が浮かんでいたのである。
艦橋のシャッターが閉まり始める。それと同時に状況は大きく変化を始めた――
「あれは!」
「⁉ 変身した!」
レーザーの雨の中を懸命に回避していた貨物シャトルに入っていたと思しきひび、それがいきなり船体全体に広がるとシャトルがいきなりはじけ飛んだのである。
いや、はじけ飛んだのはシャトルでは無く、正確には剥離しパージされたシャトルの装甲だった。
「貨物シャトルに偽装した戦闘機だと⁉」
無造作に散開した装甲はレーザーの雨に当てられ蒸発する。その煙の中から高速で移動する物体が真っ直ぐ、戦艦へと突っ込んで来た。
「弾幕を濃くしろ! あいつら特攻する気だ!」
戦艦からは艦橋を守るようにありったけのビーム砲にミサイル、機銃の雨あられが打ち出される。しかし、戦闘機と化し一回り小さくなったせいか攻撃はなかなか当たらない。海賊たちには恐ろしい事に、相手は死の嵐の中を傷一つつけずに真っ直ぐにこちらへと向かってくるのである。もはや艦橋から酔いは醒め、得体のしれない相手からシャッターが身を守ってくれる事を冷や汗をかきながら願うばかりだった。
そして、シャトルの両翼に搭載されている砲門が輝くと彼らは一斉に身をすくめた。
もはやこれまでか――
次の瞬間、艦橋にまばゆい光が広がり彼らの視界が塞がれる。
「⁉ 閃光弾?」
何故この距離まで肉薄してそんな武器を⁉ 男たちは一様に疑問を浮かべたが、まばゆい光がシャッターで覆われると徐々に落ち着きを取り戻していった。モニターを見ると他の箇所も同様に閃光弾による攻撃を受けているのだが、船体には傷一つつけられていない。どだい一隻の輸送船が巨大な戦艦相手に何かできるわけでは無い。それこそ、艦橋を落とす事こそ逆転の一手では……。
「一体何が目的であんな無茶を……」
目くらましをかけてワープで逃げるつもりだったのか? だとすると相手もダイバー並みの精度を持つシステムを持っているぞ……。キャプテンは慣習からモニターへダイバーの亜空間計を表示した。しかしそこにワープによる空間の変化は表示されていない。
「一体何を相手にしていたんだ……」
強烈な酔い覚ましの感覚と共に体のこわばりが解けると海賊たちはとりあえず元の遊びの配置に戻り始めた。
なに、逃げられたのであれば仕方がない。たかが一隻逃しても、自分たちにはダイバーがある。今日はまだ他の船もこの宙域にやってくるはずで、なにもあんな異常な動きをする相手に固執する必要は無い。これからも続く安全な狩りに注力した方が効率的だ。
彼らは自分たちの優位を思い出すと再び思い思いの退廃的な行動を始める。中には先ほどの交戦を「アルコールが見せた幻覚なのでは」と思い込もうとする者までいた。
「ふう……」
キャプテンはシートの足元に転がるワインの瓶を取るとコルクを抜き、ラッパ飲みを再開する。酔った頭でも、経営者としての収支計算は染みついており先ほどの襲撃で浪費してしまったレーザーのエネルギー、各種弾幕の回収方法の勘定を弾く。
この分なら宇宙軍の戦艦を一隻襲うのが一番いいだろう。最近ではめっきり軍を相手にしなかったから、メルボの連中は俺たちの恐ろしさを忘れているに違いない。酒をマズくしたアイツらの憂さ晴らしを兼ねて今日は大物を狙うか――
「おい野郎ども――」
キャプテンが新たな狩りの予定を告げようとしたその時だった。
「誰か開けてくれよぉ~」
「……あ?」
彼の声にかぶさるように海賊の一人が声をあげ、ドンドンと艦橋のドアを叩いていた。小用が近いのか、彼は足を内股に必死にドアを叩いている。顔を耳まで真っ赤にしている様子から酔いが相当に回っているようだ。傍から見ると滑稽なことこの上なく、仲間たちは彼を肴に盛大に笑い始める。キャプテンも発言を邪魔されたのは嫌に思ったが、酔っ払いが騒ぐ様子に思わず笑いが堪えられなかった。
しかし――
「……何でドアが開かないんだ?」
すっかり宴会場のように出来上がっているものの、彼らがいるのは艦橋であり、このスペースにトイレは無い。用を足そうと思えば艦橋を出る必要がある。彼らの戦艦はそのような造りであった。
そして、船のドアは非常事態出ない限り共有スペースは人間を感知すれば自動で開閉する宇宙船の標準仕様である。それなのに――彼らの司令部は使用者の意思に反して沈黙を守っている。
「……なんかおかしいぞ」
「こんな時に故障か?」
「はっ、早く出してくれよぉ!」
男たちはかわるがわる自動ドアに挑みかかる。しかし、壁と一体化したそれは人力ではビクともしない。気が短い者はホルスターからヒートガンを取り出してドアをぶち開けようとしたが、酔っ払いが銃を乱射したらトイレどころか艦橋のデリケートな計器類にどんな被害が出るか。ダイバーに何か影響があれば、その補てんは酔っ払いの首の一つや二つでは贖いきれない。キャプテンは扉に群がる男たちを制すと、機械に詳しい部下にドアの点検を指示した。
「だりィ仕事だなキャプテン」
「安全のためだ、頼むぜ」
「な……なんでもいいから、早く開けてくれ。下が爆発しそうなんだ……!」
男の情けない声に酔っ払いたちは再び豪快に笑い出す。しかし、中にはすーっと酔いが醒める者たちも。安定に慣れてきたからこそ、人間は今のような変化に敏感になる。ここ最近は怠けて来たとは言え、海賊として修羅場をくぐって来た経験が首をもたげるとそれぞれの持ち場に戻り、状況を調べ始める。キャプテンも正気になった部下たちと同様に自席にどっと構える。彼の足はコンソールでは無く床をしっかりと踏みしめていた。
「⁉ 熱源反応が張り付いているぞ!」
「!――」
部下の叫び声を聞くとキャプテンは彼が使用しているモニターの内容を艦橋の中央にある巨大モニターに映し、全員に共有した。
「な、なんだこれは⁉」
サーモモニターには先ほど交戦した戦闘輸送機がコバンザメのように張り付いている容姿が表示されていた。あれだけの回避運動で燃料を消費したのであれば、この宙域から逃げ切る方法はワープ以外に無い。それをしなかったのであれば、なるほど目くらましから戦艦の影に張り付き、逃げたフリをする事は理には適っている。キャプテンは船体の該当箇所に設置されたカメラを起動させ、相手の様子をモニターに表示した。そこにはやはりエンジンを落とし、ケーブルで戦艦と接続を果たしたシャトルの姿があった。
「なんで誰もこの異常事態に気付かんのだ‼」
かつての自分たちであれば、それこそ海賊でなくても、自分たちの船にこのような異物が大胆に取りついている事態に気付かない事は無い。しかし、年単位の安定が生み出した惰性は彼らからダイバーの起動時以外に正確にモニターを読み取る習慣をとっくに失わせていたのである。個人のモニターには動画投稿サイトやら映画やら、船の運用に関わらない猥雑な物まで表示する始末。
そしていざ正気を取りもどせばこのざまである。数人の正気がやっとこさ全員に広がると、ようやく酒瓶を捨て去り非常事態の配置につく。小用に急かされていた男もさすがの状況に尿意が引っ込みホルスターの武器の手入れを始めた。全体の動きはのそのそとだらしない。キャプテンはこれを期に綱紀粛正の必要を切に感じた。
「総員! 第一種戦闘態勢。目標は船体に張り付いている五〇メートル級の戦闘輸送機だ! 攻撃部隊は速やかに狩りを始めろ!」
キャプテンは船内にある攻撃部隊の詰め所へと通信を飛ばした。果たして自分の命令は彼らに届いているだろうか。なにせ艦橋の司令部がこのざまで、加えて最近は碌に戦闘など行ってきていない。戦闘部隊とは名ばかりで近頃の彼らは反撃の無い、落とした船の回収ばかりを安全に行ってきたのである。アルコールを入れた状態で仕事をするのはざらである。
だからだろうか、司令部へ彼らからの返答は無く。また外部カメラにも戦闘輸送機に接近する宇宙服姿の海賊たちの姿も映らない。
「……」
仕事を指示して五分が経過した。カメラは依然として自分たちに接続する宇宙船の姿のみを映している。戦艦のスピードが若干速いのか、ケーブルがたわむと灰色の装甲に描かれた「サマートランスポート」の文字がチラチラと視界に入って来る。
「おい! 戦闘部隊! いつになったら仕事を始めるんだ! 仕事をしないんだったら何のためにお前たちを養っていると思う! 酒瓶と一緒に宇宙に放り出してやろうか!」
艦橋に業を煮やしたキャプテンの怒号が響く。静まり返った艦橋に彼の声は大きく響いたが、返事は無い。しばらくすると、部屋中にじんわりと静寂がのしかかってくる。
「……ちっ」
戦闘部隊が出ないのならばと、キャプテンは他のブロックに通信を入れて檄を飛ばした。機関整備部など特殊な人員を除けば、彼らは多くの業務を兼任している。自分たちは海賊なれば略奪と暴力が本分である。酒浸りで血の巡りが良くなっているのであれば誰でもいい、一刻も早く艦橋から出られない自分たちに代わって邪魔なシャトルを排除して欲しかった。
だが――
「……どういうことだ⁉」
あらゆる箇所に音声や文字、警報を用いて連絡を試みたものの、部下たちからの返答は一つとして返ってこなかった。これだけ船の中をやかましくしておいて異常を悟らないバカはいないはず。キャプテンはそこまで部下を見損なってはいなかった。
「⁉――」
返事の代わりに「ドン!」と大きな音と共に、いきなり船体が大きく揺れ出した。宇宙空間において音が発生する事は無い。暗黒の真空空間の中で音がする環境があるとすれば――問題は外から出は無く内側から発生している。
「今度は……一体何が起きているんだ……!」
得体のしれない恐怖が足元からせり出してくる感覚、それを振り切ろうとキャプテンは声を張り上げるも、司令部の部下たちも同様に事の次第に目を丸くしているばかりだ。
「……キャプテン……モニターが動きません……」
「船体の状況がチェックできない……」
「それどころか舵取りも――」
部下が言い切る前に異常が起きた。人口重力がいきなり消えると船体がいきなり時計回りに回転を始めたのだ。座席にはシートベルトが付いており、キャプテンはしっかりと椅子にしがみついたが、備えていない部下たちは放り出されると環境のあちこちにぶつかり始める。
船体の揺れは爆発を連想させるレベルで艦橋に近づいてゆき、また船の自由は利かない。慣れ親しんだ無敵の宇宙戦艦は今や彼ら自身に牙をむく異邦の敵地へと変貌を遂げたのだ。
「これは……一体、何がどうなっているんだ……」
回転が収まるとキャプテンは弱弱しく呟いた。
「なあ、キャプテン……あの船『サマートランスポート』って書いてあるよな」
「……何か知っているのか」
キャプテンは膝を抱えながら宙に浮き、青ざめ、歯を打ち鳴らしながら震える部下に目を向けた。
「ゴシップ程度の……噂だと思っていたんだ……。ネットニュースのあることない事だと……。でも……その噂が本当だとしたら!」
「っ!」
キャプテンはシートベルトを外すと座席を蹴り、真っ直ぐに怯えた男の下へと跳躍する。
「言え! なんでもいいからこの現象を説明できる何かを言え!」
男は確信が持てない事を報告するべきか迷った。眉唾だと、自分たちに関係ない噂話で仲間を混乱させる事に、船員の一員として躊躇ったのである。
しかし、キャプテンは怒りで両目を充血させ、襟元をグイグイ締め上げてくる。この状況で答えないという選択肢は無いに等しい。
「と、都市伝説だよ。最近やり手の星間運送業者・サマートランスポートに所属する札付きの悪ガキ二人組『レッキングシスターズ』ってのが仕事の度に宇宙港を壊したり、海賊を壊滅させたりっていうよくある誇張したネットニュースの話を思い出しただけで……」
積載量を限界まで拡張している五〇メートル級の輸送船にはコックピットのシートが多くても四人分。それも二人分のシートは予備用で通常二人組で運用することが多い。数多くの輸送船を回収してきたキャプテンには相手の様子がたやすく連想出来た。
だとしたら――自分たちはガキ、しかも女にいいようにやられているのか⁉
「ふざける――」
キャプテンの言葉が爆発にかき消される。見るとあれだけ解錠に手間取っていた艦橋のドアが吹き飛び、その周囲の機械類が大きくめくれ上がっては炎上しているのだ。肉の焼ける臭いに顔を顰めると、解錠作業に従事していた部下が炭化して燃え続けていた。
そして、煙の中からは徐々に戦闘用宇宙服が作り出す独特のシルエットが浮かび上がってくる。
「お前は……一体――」
今度こそ、キャプテンの疑問に返答が帰って来た。シルエットから一条の光線が迸ると彼にめがけて襲い掛かる。
「‼――」
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