第五話 漢!!!

「漢気ある朝だぜ!なぁ!野郎共!」


 早朝、五時、桜の家紋を天高く掲げた大門前、濃ゆく燃える朝焼けを背にその「漢」達は現れた。


 「漢らしく行くぞ!」


 制帽のようなものを頭に被り、裸の上に学蘭のようなものを羽織り、思い切り裾の破けた黒いズボンを履いた大漢を筆頭に同じような学蘭を纏った何十もの「漢達」が列をなす。


 その漢共が大男に合わせ「押忍!」と勢いよく呼応した。


 「ウォォォ!!漢!漢!漢ぉぉおお!」


 前かがみになりながら先頭の漢が気合十分に叫ぶ。


 「ウォォォオォ!」


 後ろの漢達もそれに続く。


 「漢の家紋をその拳に掲げろぉぉお!」


 先頭の漢が天高く拳を突き出すと、後ろの漢達も「ウォォォオオオ!!!」という掛け声と共に拳を突き出した。


 「我・漢・唯・一・史・上・最・強!」


 息を大きく吸い込み、獣の咆哮のように猛々しい叫び声を上げる。


 「ウォォォ!」


 漢達の奮える様に熱い圧が木霊していき、地響きのように空を駆け巡る。


「さぁ!門を開けろ!桜の家紋の侍達よ!」


「朝っぱらから…」


 大漢が大門を力強く叩こうと手を伸ばした瞬間、勢い良く大門が開き桜色の浴衣を着た華が勢い良く飛び出した。


 「うっっっっるっせぇえっぇぇんだよぉぉおお!」


 そう叫ぶと、そのまま大漢の巨体に向かって思い切りの蹴りをいれた。


 「ぐぉぉ!」

 

 大きな唸り声と共に大漢が後ろに吹っ飛ぶ。


 「他所でやれ!他所で!ったっくっっ馬鹿どもが」


 華が叫ぶ。


 「待て女」


 大漢が頭をバリボリ掻きながら屋敷の方に戻ろうとする華を呼び止める。


 「貴様が桜の家紋を持つ侍か」


 後ろに吹っ飛んだままの大漢が帽子の庇の下から鋭い眼光を日の光より強く輝かせる。


 「あん?だったらなんだってんだよ」


 華がうるさそうに大漢の方を見る。


 「俺らは!「漢」の家紋を持つ漢の中の漢!すなわち!漢!!!」


 「漢!漢!漢!」


 周りの漢達も続ける。


 「あぁ、そう」


 華がとにかくめんどくさそうに応える。

 

 「俺らは!漢として貴様ら侍の名を頂きに参上したのだ!」


 大漢が拳を強く握りしめる。


 「は?」

 

 華が口をへの字に曲げる。


 「そう!家紋破りだ!」


 一瞬の間。学蘭は風で黒いマントのように強く靡き、日差しは帽章に金色で書かれた「漢」の文字をより一層輝かせている。


 「…へぇ…あたし達とやりあいたいなんて面白いこと言うじゃん…」


 華の顔に邪悪な笑みが過る。

 

 「俺の名は、次期10代目!漢過正一!(おとこすぎただかず)侍は今日から漢の家紋の元に下るのだ!」


 正一の目はまるで獲物を狙う虎のように、華を真っすぐ捉えていた。

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