第三話 可愛いとこあるじゃん
「え~、まぁなんだ、コホンッ!改めて、私が桜の家紋を引き継いだ現八代目当
主、雅一(まさかず)だ。よろしくな。それで、こちらが、次期九代目で私の娘
の華、そして十代目の鈴だ。」
再び広い和室に呼び戻された三人は太郎、雅一を含め、改めて各々の紹介を始めた。
「ほら、二人もちゃんと挨拶しなさい。」
「親父が言ったとーりです。以上」
プイッと後ろを向きながら華がツンとした態度で話す。
「次期十代目、鈴。」
そういうと鈴は小さくお辞儀をした。
「私が時計の家紋を引き継いだ現七代目当主太郎だ。そしてこちらが息子の…」
「次期八代目、翔です。」
翔は軽く頭を下げた。
「あーなんだ、その、まぁ、あれだ。」
「私は!ぜ~ったい嫌!」
雅一が何か言おうとしたのを遮るように華が大きな声で喚く。
「鈴だって嫌よね!こんな奴!」
華が鈴に乱暴に問いかける。
「恥ずかしいわ。華姉さん。」
「パパ、俺もこんな奴と上手くいく気がしないんだけど。」
翔が華の方を睨みながら言う。
「まぁまぁ、二人ともちょっとは落ち着きなさいよ。」
雅一がその場をなだめよるように言う。
「私は嫌って言ったからね!」
そう言うと、華はその場から出て行ってしまった。
「ハァ…すまんな二人とも…どうも華はああいうところがあるというか…」
雅一が深いため息をつく。
「ごめんなさい。華姉さん、ああいうところあるから」
鈴が淡々とした調子で話す。
「お互い気苦労が多いようで…親というものは実に大変ですなぁ…」
太郎が云々と頷く。
お、俺、そんな何か迷惑かけたっけ…と、翔は心の中でヒッソリと思った。
「私は迷惑かけているつもりは無いわ。」
鈴がキッパリと言い放った。
「す、鈴はそうだな。それよりも今日はもう遅い。今日は家に泊まって行きなさい。屋敷の二階に客人が泊まるようの部屋がある。そこを使うといい。」
雅一が慌てたように言った。
「む、ならば、お言葉に甘えて今日は泊まっていこう。」
「それと、翔君、泊まっていくのにタキシードじゃあ…そうだ、私が昔使っていた
袴を貸そう。後で部屋に置いておくから。じゃあ、私も晩御飯の支度があるか
ら」
「お父様、私も手伝うわ」
そう言うと雅一と鈴は立ち上がって部屋から去っていった。
「さて、私は一旦、今日のことを一応予知大ばあ様に伝えておこうと思う。翔は先
に部屋に行ってなさい。」
そのまま太郎も部屋から出て行った。
「はぁ…すげー疲れた…」
一人取り残された翔は後ろに手をついて姿勢を下し、そのまま数分間天井をぼぅっと見つめていた。
「時間軸に存在しない速さってなんだよ…おそらく、あれは速さとかじゃなくて、
何か別次元の何かのような…それにあの刀も…まぁいいや、ぼぅっとしてると眠
くなるな。さっさと行くか。」
そう呟き、翔は二階に上がった。
「ん、そういえばどれが客用の部屋だよ。」
オレンジ色の淡い光でライトアップされた広い廊下にはいくつもの部屋が連なっている。
「適当に、ここだ!」
翔が適当な場所の部屋を開けた。まず、翔の目に入ったのはいくつもある大量の猫のぬいぐるみである。そして次に映ったのは
「何!?」
赤い髪を垂らした裸の華だった。
「あ、ごめん、間違えたわ。」
そういうと翔は部屋の襖を閉じた。次の瞬間、華が部屋から飛び出してきた。
「勝手に入っておいてなんなのよ、あんたは」
華が翔のことを睨みつけながら相当苛立った声で言い放つ。
「良いだろ別に、裸見られたってパンツ見られたって動じもしないやつがなんだっ
てんだよ。」
「勝手に部屋に入るのはマナー違反よ!」
「なんか、変なところだけはちゃんとしてるっていうか。」
「で、なんなの!」
「あぁ、えーと客間がどこにあるか教えて欲しいんだけど。」
「そこ、右!二番目!」
それだけ言い放つと華は襖をピシャリと閉めた。
「…あ、あのさぁ…」
翔が襖越しに華に語り掛ける。
「何!」
「いや、猫好きなんだなって」
「だから!」
「…なんでもねぇよ!」
「あっそ!」
「なんだよ…ちょっとは可愛いとこあるじゃんって思ったのに…」
翔が小さく呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます