244.初バッテリー
「東北クレシェントムーンズ、選手の交代をお知らせ致します。先ほどの回に代打致しました杉田に代わりまして、内山が入りキャッチャー。ピッチャー、中居に代わりまして高橋。9番、キャッチャー、内山、背番号96。ピッチャーは高橋、背番号53」
——ついに、この時が……!
名前を呼ばれて、高橋がベンチを飛び出していく。
「やっと組めたな」
先にマウンドで待っていた内山が、ニヤッと笑ってボールを高橋のグラブにぽん、と入れてくる。
「やっと、組めましたね」
内山のムーンズ入団が発表されてからおよそ2週間、内山が一軍登録されてからおよそ1週間半。それなりに時間が経っていたというのに、同じ試合に出場しても高橋の投げるタイミングで内山がマスクを被っていなかったり、内山がマスクを被った日には高橋の登板機会が無かったりと、ここまで2人でバッテリーを組む機会に恵まれていなかった。
ブルペンで内山相手に投げる機会はあったから、今の高橋がどんな球を投げれるのかを内山は分かっているはずだし、内山のキャッチングが相変わらずだということを高橋も分かっている。久しぶりに組むバッテリーだとは言え、そこに不安などあろうはずがない。
「多分、この2人だけなんだろ?」
「いや、どうせなら3人行ってくれ、って言われましたけど……」
「お、マジで? オッケー、じゃあそのつもりでリードするわ」
埼玉ドームに吹き込む生暖かい風が、マウンド上の2人を包む。登板前の軽い確認を終えると、内山が小走りで守備位置へと向かう。
——何か、変な感じ……
最後に試合でバッテリーを組んだのはドラフト直前、仙台でやったムーンズとの練習試合の時。その時の相手が今、バックを守っているのだと思うと何とも言えない不思議な感覚である。
——ああ、変わってないないな……
その感覚の中、イニング間の投球練習に入る。舞台は変わったけれど、キャッチングのクセや間合いは、ネイチャーズで投げていた頃と何も変わっていない。
ストレート、スライダー、スクリューを順番に投げていって今日の球の指の掛かり具合やマウンドの状態、感覚を確認した後、最後にクイックモーションでストレートを投げ込む。最後の1球を受けた内山が素早く立ち上がってセカンドに矢のような送球を送って、イニング間の投球練習は終了である。
「7回の裏、埼玉スピリッツの攻撃は——、7番、指名打者、栗原達紀! 背番号1!」
内野のボール回しが終わって、ファーストの小山内が高橋に軽いトスでそのボールを渡してくる。それを受け取った高橋はくるっと内山の方に体を向けると、口元を少し緩める。
——さあ、行こうぜ内山さん!
左手にはめたグラブをパチン、と拳で叩いた内山も、マスクの下で何かを噛みしめる様に目をぎゅっと閉じてから、しゃがんで初球のサインを出し始めた。
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