240.合流

「この度、東北クレシェントムーンズに入団させていただくことになりました、内山康太です。もう一度このJPBの舞台に戻って来れたこと、そして東北クレシェントムーンズのユニフォームを着てプレー出来ることを嬉しく思いますし、とても楽しみです。どうぞよろしくお願いします!」


 ——嘘じゃない……! マジで内山さんがムーンズに……!


 高橋は球場内にある会見場でこっそり入団会見をドアを開けてその隙間からのぞき見ていた。せっかくなんだから見に行って来い、と白石に背中を押されて練習を抜け出してきたのだ。

 会見場、と言っても会議室みたいな部屋に無理矢理折りたたみ式の机とパイプ椅子を並べただけの簡易的な作りではあるのだが、そこにはぎっしりとカメラやペンを持った記者達が詰めかけている。


「琉球ネイチャーズから初めてのJPB復帰ですが、そこに関しては何か特別な感情とかはおありでしょうか?」

「そうですね、琉球ネイチャーズというチームの一つの目標として『球界に復帰する選手を出す』というのがあったので、それに少しは貢献出来たのかなと思います。ただ、先に高橋がドラフト指名されてこのムーンズに入っているんで、『追いついたぞ』という感じですかね」


 記者からの質問に答える内山は、遠目からでも分かるほどの笑みを顔に浮かべ、興奮している様子である。


 ——本当に、内山さんが……!


 心の中でガッツポーズした高橋は、内山に気付かれるまいと、そっと顔を引っ込めてドアを閉めた。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「今日からこのチームでプレーすることになりました、内山康太です! ムーンズの勝ちに貢献出来るように頑張りますので、これからよろしくお願いします!」

「よろしくー」

「お願いします!」


 試合前のミーティングで白石に促されて内山がチーム全員の前で挨拶すると、拍手や「よろしく」の言葉で歓迎された。お互いにまだどういう人間なのかとか、どんな雰囲気のチームなのかとかは分からないだろうけれど、それでもこれから共に戦う仲間だということは理解している。


「まあそういう訳で、内山のは今日から一軍の練習に混じって貰うことになる。連携とかサインとかコミュニケーションとか、やらなきゃいけないことが多いからまだ試合には出せないけど、何日か練習して行けそうなら一軍登録しようと思ってるから、皆もそのつもりで居てくれよ」

「「ウス!」」


 周りがどんな反応を見せるのか心配になっていた高橋は、思ったより来る者拒まずな反応にほっと胸をなで下ろした。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る