239.最後の補強


「誰だ、こんな時間に?」


 7月25日、火曜日。今日はデーゲームだから少し遅めに起きてお昼過ぎに球場に着くように部屋を出ようと思っていたのに、10時前に連続で入ってきたラインの着信音に叩き起こされた。


 ——内山さんに林さん? 何でこの時間に……?


 ナイターの試合の日は、お昼くらいまで寝ていることが割と多い。練習が始まるのが14時とか15時だし、何より試合開始が18時、中継ぎなら出番が大体20時頃になるからそこに体のパフォーマンスのピークを持ってこようと思うとこれくらいから活動を開始するのがベストなのだ。眠くて空かない目を懸命に見開きながら、ラインを開くと、内山や林から続々メッセージが届いていた。


 ——何だ……?  林さん、『お前とのバッテリー、楽しみにしてるからな』って、どういうこと? 内山さんも『よろしくな!』って、何を? あれ、URLが張ってある……


 高橋は内山からのメッセージに張ってあったURLを特に何も考えずに押すと、飛ばされたのはムーンズのホームページだった。


 ——『LIVE 14:00~ 内山康太選手入団会見』……。え? どういうこと? 入団会見!?


 慌てて画面をスクロールしていくと、いかにもプレスリリースらしい硬めの文章、整った体裁の文章が綴られている。


『支配下選手契約について

 我々、東北クレシェントムーンズは内山康太選手(琉球ネイチャーズ)と選手契約を結ぶことで合意しましたのでお知らせ致します。背番号は96、捕手登録となります』


 ——え、これって内山さんがムーンズに来るってこと……!? だよね!? マジか!


 信じられなくて、何度も何度も文面を読み返す。が、どこからどう読んでも、内山がムーンズに入団したとしか読み取れない。


 ——嘘じゃないよな? ホントなんだよね?


 慌ててムーンズホームページの『選手紹介』のページに飛んで、捕手登録選手の欄までスクロールする。


 ——『#96 内山康太』……


 顔写真の所はまだ『NO IMAGE』となっているけれど、既に身長や体重、略歴といった選手プロフィールが記されている。キャッチャーに怪我人が相次いでいるチーム事情を考えれば、JPB経験のある内山の獲得は不思議でも何でもない。普通はシーズン中に補強出来る様に支配下選手登録の枠を1~2人残しておくものなのだが、その期限は7月末日までと決まっているからもうそれを気にするような時期ではない。むしろ、ここで枠を使わなくてどうする、といったところである。


 ——実感は湧かないけど、間違いじゃないみたいだ……


 高橋はもう一度『支配下選手契約について』というプレスリリースを読み返して、自分でも気付かぬうちに自室の窓辺でグッと拳を握りしめていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る