233.オールスター②
——うーわ、あんな飛ばす?
快音が球場に響き渡り、歓声を受けながらスタンドへ消えていく。
オールスター恒例、試合前に行われるホームランダービー。オールスターに選ばれた選手の中からファン投票で参加選手が両リーグから何人か選ばれて、時間内に何本ホームランを打てるかをトーナメント方式で競うというものである。
パカァァァン!
「おぉー!」
「行ったー!」
「わぁーお!」
ホームランダービーにはファンがホームランを見たいと思う選手が選ばれたのだから、チームの4番を務める選手や豪快なバッティングが持ち味の選手達が勢揃いすることになる。日本トップクラスの大砲達が何も考えずにフルスイングで柵越えを狙うのだから、面白いように打球が飛んでいく。
パカァァァァン!
「うおー!」
「よく飛ばすやっちゃなぁ!」
快音を残して、白球が日が傾き掛けてオレンジ色に染まった空へ高々と舞い上がる。
「やっぱホームラン競争は盛り上がるねぇ」
日本のオールスターは真剣勝負というよりもエンターテインメントの要素が強い。公式戦ならば試合前にこんなにベンチ前に選手が集まることなんてまず無いのだが、今日は皆ホームラン見たさに集まっている。
「そしてここでタイムアップ! 埼玉スピリッツの山城選手は7ホーマーで優勝です! 予選を勝ち抜いた埼玉スピリッツの山城選手と、大江戸クラフトマンズの浦崎選手の2名による、今年度初のホームランダービーのチャンピオンは、埼玉スピリッツの山城選手です!」
三振とホームランは野球の華、とはよく言ったもので、特にホームランが出た時の盛り上がり方は尋常じゃない。どうしてなのだろう、大空へ舞い上がっていく白球を見ているとなんだかワクワクしてしまうものだ。
「試合でもホームラン打てる様に頑張りまーす!」
ホームランダービーを制した山城がスタンドに向かって拳を突き上げながら宣言すると、スタジアムがさらに盛り上がって、地響きのような歓声に包まれた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「何か、不思議な感じだね、聞き慣れない応援歌を聞きながら試合観るのって」
「でもこれもなかなか良いもんだろ? オールスターならでは、って感じがしてさ」
ベンチからグラウンドに身を乗り出す高橋の横に立つ名嘉山が、いかにも楽しそうに笑いかけてくる。名嘉山は福岡スタールズの左のワンポイントとして活躍している選手で、背がそんなに高くなかったり、背番号が53番だったり、同い年だったりと何かと共通点が多い。名嘉山は高校から直に社会人に進んでプロ入りしている分高橋より1年早くプロ入りしていて、高橋よりもずっと知名度はあるのだろうけれど。
「こんなにゆるい雰囲気なんだね、オールスターって」
「あれ、高橋って初選出だっけ?」
「だって俺、今年1年目だもん。名嘉山だって初選出じゃないの?」
「いや、俺は2年連続だよ?」
「マジか……」
そう言えばやけに浮き足立っていないな、とは思った。ルーキーイヤーからオールスターに出場できる選手なんてそう多くはないし、オールスターは人気投票の様なものだから中継ぎのように普段注目されない立場の選手ならなおさらである。
「お前、『嘘だろ?』って思っただろ? 何かそんな表情してる」
「それ、結構色んな人から言われるんだよなぁ……」
「それ、ピッチャーとして大丈夫なのか? マウンドでも表情から色々バレそうな気がするけど?」
「うーん、どうなんだろ? そんなことは無い、と思いたいけど」
「ま、それが致命傷になってるんだったらここには居ないわな」
オールスターに選ばれる様な人たちに混じっていきなり喋れる訳ないとばかり思っていたけれど、どうやらそんな心配をする必要なんて無かったらしい。気が付けば、いつの間にか周りと同じく笑顔でゲームを楽しんでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます