230.選手層


「スタールズだって怪我人いるんだけどなぁ……」


 ブルペンに設置されたテレビを見上げながら、青原が大きな溜め息を吐く。無理もない、7回の表のムーンズの攻撃を終えて8対1。先発の古村が4回途中5失点でノックアウトされて以降、中継ぎとして出て行ったピッチャーがことごとくピリッとせず、ジワジワと点差を広げられる苦しい展開。打線も初回に赤村がソロホームランを打って幸先良く先制したものの、そこからスタールズ先発の東江の前に凡打の山を築いてロクにチャンスを作れずに沈黙。


 ——何でこんなに強いんだ……?


 確かに、儀間が離脱してしまったからムーンズはベストメンバーで試合に臨めていない。しかし、それはスタールズとて同じ事で、スタールズはショートとレフトが離脱している。つまりはスタールズだってベストメンバーを起用出来ない中でオーダーを組んでいるはずなのだが、ここまではそれを微塵も感じさせない試合運びが出来ている。


「そして、どうやらここでスタールズは代打を出す様ですね。中田に代わって長谷部はせべですね、背番号24の代打の切り札・長谷部が打席に向かいます!」


 ——長谷部さんって、今は代打なのか……


 記憶が間違っていなければ、何年か前に首位打者を獲っていたはず。代打中心での出場になっているから打席数は少ないけれど、それでも今シーズンの打率.308の本塁打2というのはかなり優秀な数字である。別に守備に難があるわけでもないのに、外野に怪我人が出ているこの状況でスタメンで出場出来ていないらしい。


「何なんスかね、スタールズのこの分厚さって……」


 青原の隣に座っていた中居も、口を尖らせながらテレビを見つめている。


「何でだか分かんないけど、スタールズって次々に若手出てくるよなぁ。育成出身のヤツもどんどん一軍に上がってくるし」


 ——確かに……


 今日の試合、スタールズのベンチ入り選手の内5人が育成出身選手である。しかも、その内2人はスタメンに名を連ねているし、1人は勝ちパターンの中継ぎピッチャー。12球団見回してみても、これほど育成出身の選手が支えているチームは無い。さらに、怪我した選手の代わりにスタメンに入った若手が1番や6番を任されていてしっかり戦力になっている。中にはレギュラーの選手が怪我から戻ってきてもスタメンで起用され続けている選手まで居るほどだ。



「打った! ライナー性の打球が右中間を破っていくー! セカンドランナーの町田まちだが、三塁を回って悠々とホームイン! 打った長谷部は2塁を回ったところでストップ! スタールズ9点目―!」


 さすがは毎年のように優勝争いに絡み、日本シリーズ連覇を達成したチームと言うべきか。チーム内での競争が激しく新しい戦力がどんどん出てくるから選手層がとにかく厚い。だから誰かが怪我で離脱しても代わりに出てきた選手がレギュラーと遜色ない成績を残してその穴を埋めることが出来る。もちろんレギュラーの選手に比べれば成績は落ちることが多いのだろうけれど、離脱している期間を凌ぐには十分すぎると言える数字を残している。


「残念だけど、これが優勝争いするチームと俺らとの差ってやつなんだろうな……」


 青原が唇を噛みながら発したその言葉に、誰一人として反論することは出来なかった。


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