171.初めてのマウンド④
「8番、
「そうですよね、ここで三者凡退となると一気に試合の流れが傾きそうな試合ですからね。勝っているとはいえ今日は荒れた試合展開ですから、ここで流れを持って行かれてしまうと一気に逆転、なんてこともあり得ますよ」
右のバッターボックスに、8番・田浦が入る。キャッチャーは守備の負担が大きいポジションだということもあって打撃成績が良くないことが多いけれど、読みの鋭さはチーム内でもトップクラスであることが多い。要らないところで手痛い一打を食らわないように気を付けなければ。
——どうする? またストレートから入って良いのか?
儀間が足元を平す田浦のことを観察してから、サインを出す。
——なるほどね……
出されたサインはストレート、高めに外れる釣り球。勢いのある球を投げ込んで空振りを誘う球である。
サインに頷いて、セットポジションに入る。そこから大きく足を振り上げて、クロスステップで踏み出す。
——行け……!
思いっきり振り抜かれた左腕から繰り出されたボールは、唸りをあげて儀間のミットに吸い込まれる。
「ボール!」
田浦はピクッと反応したが、ぎゅっと脇を締めてスイングしそうになるのを我慢して見送った。
——うーん、振ってこなかったかぁ……
初球でストライクが取れなかったとは言え、これは想定内。意味の無いボールではなかったのだから、何ら問題無い。
儀間が出してきた外角へのスクリューのサインに小さく頷き、セットポジションに入る。
——多少甘くなったとしても、スクリューは今日はまだ投げてないから打たれないはず……
大きく足を振り上げて、クロスステップで踏み出す。踏み出した足にしっかり体重を乗せ、ストレートを投げるのと同じ様に腕を振る。
カァン!
「打球は一塁線! しかしこれはファールになる!」
ストレートだと思って打ちに行ったらしい田浦は、曲がっていくボールに何とかバットをぶつけ、ファールにしてきた。これで1ボール1ストライクの平行カウント。
——よしよし……
今日はどうやら調子が良いらしい。良い具合に指にボールの縫い目が引っ掛かってくれるし、何より自分の間合いで投げることが出来ている。
——このままどんどん行こう……!
儀間が出してきたインコース低め、膝元へのストレートのサインに頷いて、プレートのファーストベース側ギリギリのところに左足を掛ける。セットポジションから足を大きく振り上げて、クロスステップで着地。踏み出した右足に体重を乗せて、体重移動と体を捻った力を全て左腕に伝える。
——良い……!
思いっきり振り抜いた腕から繰り出されたボールは、シュルルルっと風を切って田浦の懐を抉る。
バキャアァァッ!
「キャッチャー!」
振り抜かれたバットの先が三塁側ファールゾーンに飛んでいき、ボールはバックネットの方へ高々と上がる。
「バットが折れて、ボールは後方へ! 今日も強い風が吹いていますが——、儀間ががっちりキャッチ! スリーアウト、6回裏の千葉フライヤーズは三者凡退でした!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます