164.開幕戦②
「打ちました! 左中間に飛んだ打球だが——、しかし、これはセンター丸中の守備範囲! 良い当たりでしたが、3番赤村はセンターフライ! これで3アウト! フライヤーズの開幕投手・西川、まずは3者凡退という見事な立ち上がり!」
——さすがはエース……
開幕戦というプレッシャーの掛かるマウンドで、低めにしっかりと制球したり、自分の間合いで投げるということを難無くやってのけられるのは、並大抵のことではない。
「さあ、1回の裏、ムーンズの開幕マウンドを任されるのはもちろんこの人! 背番号111、紀伊忠之がマウンドに上がります! このピッチャーを、フライヤーズ打線はどうやって打ち崩していくのでしょうか。解説の里巻さん、攻略の糸口はどこにあるのでしょうか?」
「そうですねー、良いピッチャーではありますけど、開幕戦というのはいつもとは違う感覚でしょうからね。もしコントロールに苦労している様なら、フォアボールなんかを足掛かりにしてチャンスを作りたいですよねぇ。1番の森野、2番の丸中と当てるのが上手いバッターが並ぶオーダーですから、この2人が粘ってくれれば初回からいきなりチャンスがあるかもしれませんよ」
マウンド上の紀伊が、すうっと振りかぶってから体を捻り、足を上げる。そこから左手で壁を作り、大きく踏み出した足に体重を乗せてから、しなるように腕が振られる。ゆったりとしたフォームから繰り出されたボールは、糸を引くように、寸分の狂い無く儀間のミットに吸い込まれる。
「アウトローに決まった! ストライク!」
「いやぁ、素晴らしいボールですねぇ。これはちょっと打ち崩すのは難しそうですね、投手戦になりそうですねぇ。」
※ ※ ※ ※ ※ ※
「アウトロー一杯! 見逃し三振! これで3アウト! 紀伊、この7回も三者凡退で抑えています!」
「高橋、木原! 今日は登板機会無さそうだから、悪いけどクールダウンしてくれ」
「「はい」」
ブルペン担当の投手コーチ、木山から投球練習を止めるように指示が出た。中継ぎピッチャーというのは、試合展開を見ながら肩を暖める。が、試合展開に関係無く、アクシデントがあった時に直ぐに投げられるように準備しているピッチャーがブルペンには確実に1人はいるし、「もしこのバッターを出したら行くぞ」という様に投げるかどうか分からないけれど準備することもある。ブルペンで準備したからと言って、試合に出られるとは限らないのだ。
「それと福原! ブルペン空いたら準備始めてくれ!」
「ウス!」
試合終盤になっていくにつれて、「勝ちパターン」の選手たちが準備をし始める。終盤は試合の行方を左右する大事な場面、俗に言うターニングポイントが多いから、そこで実力のある選手を出すのはチームとしては当然のこと。実績の無い自分がその場面を任せてもらえないのは仕方の無いことなのだが、でもやっぱり悔しい。
※ ※ ※ ※ ※ ※
「よし福原、行くぞ!」
「はい!」
ベンチとブルペンを繋ぐ電話で連絡で連絡をとっていた木山が、福原を呼ぶ。
「行ってらっしゃい、福原さん!」
「おう、ありがと。抑えてくるわ」
福原は高橋が差し出した紙コップの水を一気に飲み干すと、そのままグラウンドへ飛び出していった。
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