162.一軍再合流


「もしかしたらやるんじゃないかと思ったけど、やっぱりやりやがったか!」

「やっぱりって……」

「いやー、いつかやるだろうな、とは思っていたんだよ。林さんから飛行機のチケット渡してんのに違う空港に行きそうになったっていう話を聞いてたからな」


 海浜幕張駅から球場へ向かうタクシーの車内。指名されてからなかなか会うことが出来ず話せていなかった中嶋との会話が弾む。


「でもまぁ、頑張ってるみたいで良かったよ。」

「?」

「いや、やっぱり自分がスカウトした選手が活躍するのは嬉しいし、それを見るのが楽しみなんだよ。スカウトの仕事ってのは良い選手を見つけて入団させることだけど、醍醐味ってのは自分が追いかけた選手がプロの世界で輝いてるのを見ることなんだよ」


 そう言う中嶋の表情が、生き生きしている。それを見れば、これが何も取り繕っていない本音だということに疑う余地もないことが分かる。


「あそこで声を掛けてくれて、ありがとうござ……」

「おっと待った。それを聞くのは今じゃない。プロってのは一軍で出てナンボだ、いくら二軍で活躍しても何の意味も無い。今言いかけたそのセリフ、そうだな、何かタイトルでも獲った時に言ってくれよ」


 タクシーに乗っていたのは多く見積もっても15分足らず。だが、その短い時間で、高橋は中嶋の想いをしっかり受け取った。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※



 急いで着替えてグラウンドに出ると、既に選手・首脳陣とも支度し終えて、全体練習の開始を待っていた。


「おう、お帰り。しっかり調整出来てたか?」

「はい、しっかりと。どんな場面でも投げますよ!」


 投手コーチの齋藤は高橋がグラウンドに出てきたのを見つけると、すぐさま声を掛けてきた。


「ファームのコーチ陣と監督が『上げるなら高橋しかいない』って推してきてたから、順調なんだろうとは思ってたけど、やっぱり本人の口からそれが聞けると安心するね。でも、冗談じゃなくいつでも行ける様な準備をしといてくれよ?」

「はい! 任せて下さいよ!」


 いつでも行ける様に、という齋藤の言葉は本気でお世辞でも何でもないだろう。勝ち試合の終盤7回、8回、9回を投げる『勝利の方程式』は確立しているから、基本的に勝ち試合で投げることはないだろう。敗戦処理や何かアクシデントがあった時の緊急登板、サイドスローのサウスポーということを考えれば対左打者へのワンポイントというのがしばらくの役割になるのだろう。与えられた登板機会で結果を残して、首脳陣の信頼を勝ち取っていくしかない。ドラ1とかで入った選手ならともかく、下位指名で入団した選手は地道にアピールしない限りはそうそう良い場面での登板機会は貰えない。


 ——よっしゃ、やってやる……!



 高橋龍平のルーキーイヤーが、幕を開けた。


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