160.珍道中
「じゃあな、高橋。もう俺に会わなくて良いように頑張れよ? あ、お前二軍本拠地脇の寮に住んでるから会う機会はあるのか。まぁ、プロってのは一軍で結果残してナンボなんだからな!」
「ありがとうございます。えっと……、行ってきます!」
今日も試合があるというのに、わざわざJR鎌ケ谷駅まで見送りに来てくれた池田に礼を言って、改札をくぐった。
——よし、頑張ろう!
理由はよく分からないけれど、遠征も含めて試合する為に移動するのは、何かわくわくというか、気合いが入る。気が引き締まる、と言う方が適当かもしれない。車でも電車でも飛行機でも、窓の外の景色を見ながらただ何も考えずに過ごすその時間が意外と好きだったりする。
「2番線に、電車が参ります。危ないですから、黄色い線の内側までお下がり下さい」
——これに乗れば良いんだな……。大丈夫、あんだけ言われたんだから間違えねぇよな、うん。
改札をくぐる前に、「良いか、2番線だからな? んで、その先は昨日渡した紙に全部メモしておいたから、その都度確認しろよ?」と、まるで旅に出る息子を送り出す親の如く、もはやお節介とも思えるぐらいに念を押されたし、乗り換え駅とか乗る路線とかを事細かに記したメモも貰った。ああ見えて意外と心配性で世話焼きの池田のことだ、どこから聞いたのか分からないが1人でチケットを渡されているのにも関わらず違う空港に行きそうになった話を耳にして、居ても経っても居られなくなったのだろう。
タタンタタン、タタンタタン、とリズムを刻んで、住宅街が後ろに流れていく。
「次は、終点、船橋―、船橋―。降り口は、進行方向向かって左側です。本日も、東武アーバンパークラインをご利用頂きまして、誠にありがとうございました。」
——なるほど、ここで降り損ねることは無い訳だ。で、えっとここで乗り換え……、京葉線でも総武本線でも良いのか、このメモ見る感じだと……。とりあえず東京行きに乗らなければ良いんだな。
メモに書いてある通り、階段を上って12番線に向かう。
——へぇ、結構大きい駅なんだなぁ。
大学4年間東京に住んでいたけれど、船橋の方に来たのはこれが初めて。さすが東京大都市圏、別に県の中心という訳ではないはずなのにそこそこ高い建物がたくさん建っている。駅の規模もそれなりに大きいけれど、一応東京駅やら新宿駅やらを使っていたからホームさえ分かれば流石に乗り換えをミスすることはない。
——あ、この電車か。
12番ホームに停まっていた電車には、『京葉線 蘇我行き 各駅停車』の表示がある。これに乗ってしまえば後はもう15分ちょっとで海浜幕張駅に着く。
——メモ、ありがたかったなぁ……
席に座って、ポケットに入れていた紙をゴソゴソと取り出す。知らない土地での乗り換えで一番不安なのは、どこ方面の電車に乗れば良いか分からないことだと思う。ぶっちゃけ、それさえ分かれば電車の乗り換えなんて何とかなる。
プシュー、という音と共にドアが閉まって、電車が動き出す。
——よし、後はもう乗ってれば良いな。
タタンタタン、タタンタタンという心地良い音が高橋を揺らす。その音と共に感じる心地良い振動が、高橋のまぶたを重くしていった。
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