111.凱旋⑪
「アウト! ゲームセット!」
最後は、内山の平凡な内野ゴロで試合終了。5対2で東北クレシェントムーンズの勝ち、高橋は1イニングを被安打0、四死球0、1失点、勝敗付かずという内容だった。
「よーし、じゃあフィードバックは帰ってからホテルでやるから、まずは荷物まとめて、着替える奴は着替えてバスに乗ってくれ!」
「「はい!」」
「おーい高橋、ちょっと良いか?」
荷物をまとめてベンチ裏に戻ろうと荷物を右肩に担ごうとしたその瞬間、グラウンドから林に声を掛けられた。振り返ると、右手に持っていた紙を突き出してきた。
「即行で今日の投球データをまとめて貰って印刷してきたから、持ってってくれ。まあ、そっちのチームもネット裏でデータ取りしてたから似た様なの持ってるとは思うけど。にしても、相変わらずお前のボール良いキレしてんな!」
——え、俺の今日のデータ、まとめてくれたの……?
「何だよ、キョトンとした顔して?」
「え、あ、いや、ちょっと驚いて……」
いくら去年まで所属していたと言っても、相手チームからデータを貰えるなんて思っていなかった。しかもまだ試合が終わって15分も経ってない位で、仕事が早いにも程があると言って良いレベルである。
「んな驚くこともないだろうに。寺田さんとこういうの使ってフィードバックしたこと、何回もあっただろ?」
「いや、だって……」
「もしかして、『違うチームなのに』って思ったか? まあ、まだウチがJPBじゃないから出来ることだけどな。どこまでそれが役に立つのかは分からんけど、ちょっとでもお前の力になれるなら嬉しいなぁ、と思ってさ。」
呆気にとられた様子の高橋に、ふっと笑いかけて続ける。
「そう思ってるのは俺だけじゃないぞ? これまとめたの、誰だと思う?」
「え……?」
今受け取ったばかりの紙に目を落とす。
——何かメモが書いてある……、『さらに球の出所見辛くなってて◎』、『クイックの時にはグラブ位置今まで通り』、『ピンチになると自分たちのことでいっぱいいっぱいになってる節がある』? これって……
「まさか寺田さんが……?」
「うん。」
林があっさりと頷いて肯定。
「お前はこのチームの希望なんだよ、高橋。お前の活躍を楽しみで仕方ない人間ばっかなんだよ、このチーム。」
ポンッと林が高橋の右肩に手を置く。
「きっと、この先大変なことが沢山あると思う。でもさ、ウチに居る皆がついてる。お前なら間違いなくやれるって、このチーム全員が確信を持ってる。だから、胸張ってマウンドに上がって、思いっきり腕振っていけよ。何かあったら遠慮せずに連絡してこい。」
——そうか、俺にはこんなに期待してくれてる人たちがいるんだ……。最下位指名とか関係無い。絶対に活躍して、この期待に応えよう……!
「お前なら大丈夫だ。頑張れよ!」
「うす!」
ガッチリ林と握手して、球場を後にした。
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