105.凱旋⑥
——最初はストレート、高めの釣り球……。あれ、真ん中高めにって言っても4分割でどうやって伝えれば……。まあ、内角って言っても良いか、捕ってくれるでしょ、多分……
水谷がサインに頷いてから、もう一度サインを出し直す。
——果たしてこのサインだけで釣り球、って伝わってんのかなぁ?
一応サインに頷いて、セットポジションに入る。
——頼むぜ水谷君!
右足を上げて、そのまま大きくセカンドベース方向に振って、一瞬タイミングを遅らせてから右手で壁を作って体重移動し、クロスステップで踏み出す。腕が体から離れすぎない様に意識しつつ、体の回転のパワーをそのまま腕に伝えて思いっきり振り抜く。
「「おわっ!」」
ボスーン!
浅井のフルスイングが空を切る。思った通り、初球から手を出してきた。狙い通り、釣り球を振らせることができた。これでまずはワンストライク。
ちなみに水谷は初球はストライクゾーンに投げてくると思ったらしく、慌てた様子で何とかミットにボールを収めるのが精一杯。ミットの芯で捕るどころか、思いっきり土手で捕った様な音がした。
——い、痛そー……。ごめんよ水谷君、でもこれ以上は伝えようが無いしなぁ……
水谷の顔をしかめつつの返球を受け取って、次のサインを出す。
——多分、俺の決め球がスライダーなの知ってるから、ここで使ってくるとは思わんだろ? ストライクゾーンにスライダーで一気に追い込んでやる!
オウム返しで水谷が出したサインに頷いて、セットポジションに入る。足を振り上げて、クロスステップで右足を踏み出し、思いっきり腕を振り抜く。
——あ、ちょっと高い……
指先から離れたボールは、思ったところよりもボール3つ分ほど高く入った。が、グググっと内側に切れ込んで、右バッターの浅井の懐をえぐる。
バシッ。
「ストーライッ!」
浅井はスクリューだと読んでいたのだろう、思いっきり踏み込んだあと慌てて背中を向けてデッドボールを避ける体勢に。主審のストライクコールに思わず天を仰ぐ。
——よーし、狙い通り! スライダーなんて頭に無かったろ?
水谷も危なっかしい感じだったけど捕ってくれた。これでノーボールツーストライク。あっさり2球で追い込むことが出来た。
——カウントに余裕あるし、遊び球入れるか。あの感じだとアイツ、間違いなく振ってくるだろ! だったら、最初に投げた球をもう一回……
高め、内側のストレートのサインを水谷に出す。水谷からもう一度出し直されるサインを待ってから、セットポジションに入る。
——頼むよ、釣り球だからね……?
大きく足を上げて、セカンドベース方向に振る。
——頼むよ……?
クロスステップで踏み出して、思いっきり腕を振り抜く。
——振れ!
リリースされたボールは少し浮き上がる様な軌道で、唸りをあげてホームベース上を通過。
「くっ……!」
思いっきり踏み込んで出された浅井のバットは止まらない。
パスッ……、ガッシャン!
浅井のバットは空を切り、ボールは水谷のミットの先っちょを掠めて、そのままバックネットに突き刺さる。
——マジかよー!
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