101.凱旋②
「本日は、東北クレシェントムーンズ対琉球ネイチャーズの練習試合にご来場頂き、誠にありがとうございます。試合に先立ちまして、両チームのスターティングメンバーを発表致します。先攻、東北クレシェントムーンズ……、1番、センター、横江。センター横江、背番号9。2番、ライト、高田。ライト、高田、背番号25。3番……」
ネイチャーズの本拠地だというのに、選手の名前がコールされる度に拍手が起こる。だが去年、ここで投げた時よりも観客が少ない感じがするのは、ムーンズが埼玉スピリッツの様に前年度の優勝チームじゃないからだろうか、それともネイチャーズの注目度が下がっていることを示しているのか……。プロが1人出たとは言え、どこのリーグにも属しておらずまたプロ野球16球団構想がまだまだ進む気配が無い状況下では話題性に乏しいのは否めない。
「続きまして、後攻、琉球ネイチャーズ……、1番、ライト、岸川。ライト、岸川、背番号9。2番、セカンド、亀山。セカンド、亀山、背番号2。3番……」
——結構メンバー入れ替わってるな……。
スタメンの中に、聞いたことの無い名前の選手が何人か入っている。そしてベンチにも、見慣れない顔が結構いる。ネイチャーズというチームはプロに行けるかどうかギリギリの選手がラストチャンスとしてプレーする場、そしてプロ球団から戦力外通告を受けたもののもう一度プロに戻ることを目指す選手の受け皿としての場、というのが現状である。年齢的にももう何年もやれる様な立場の選手はほとんどおらず、1年やってダメなら……、という選手も少なくはないのだろう。それに、毎年プロでは100人以上も戦力外で退団を余儀なくされ、その中に現役続行を希望する選手は何十人といるのだから、入団を望む選手はいくらでもいるはずだ。
ネイチャーズの選手が各ポジションに散って、先発の仲村が投球練習を始める。
——あれ、仲村さんってクロスステップじゃなかったよね? それに、ヒジの位置も前より下がってるような……
「ん、ずいぶん食い入るように見てんな。どうかしたか?」
後ろから齋藤が話しかけてきた。
「何か、仲村さんのフォーム変わったな、って思って。足の踏み出し方と……、ヒジも少し下がった様な気も……」
「よく見てんなぁ。さっき寺田に聞いたんだけど、あれ、高橋のフォームを参考にしたらしいぞ」
「えっ、な、何で……? 何か問題あるフォームとは思えなかったですけど?」
コントロールも良いし、そこそこ身長もあるからオーバースローから投げるボールは人並みに角度もついていた。サイドハンドの方が変化量が大きくなりやすいスライダーやシュートを武器にしている訳でもなかったし、フォームを変える理由が見当たらない。
「んー、別に前のフォームに何か問題があった訳ではないみたいだよ? ただ、去年1年間それなりに投げれたのにどこからも声が掛からなくて、何か変えないと、って思ったらしくて。」
「でも何で俺の……」
「何でって、そりゃサウスポーであることの利点を活かそうと思ったんだろ。どうにかしてJPBに戻ろうと思った時に、チャンスがあるとすれば投げ方変えるのが一番だと考えたんじゃないか、多分。それに、今年ダメなら引退するつもりらしいから、考えられる全てのことをやりたいんじゃないか?」
——な、仲村さんもそんなこと考えてるのか。知らなかった……。
規定の投球練習を終えた仲村が、ムーンズの1番打者・横江と対峙する。その立ち姿は前と変わらないものだったけれど、その背中からは並々ならぬ決意の様なものが感じられた様な気がした。
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