100.凱旋①
古めかしい球場に、色あせたベンチ。レフトスタンド後方に広がるサトウキビ畑を吹き抜ける風が、サラサラと葉の擦れる音を鳴らす。
——何か、懐かしいなぁ……
ほんの1年前のことなのに、色々なことがあったせいなのだろうか、かなり昔のことに感じられる。
——去年、ここでメッタ打ちにされて、フォーム変えることになって、肉離れして……。
「高橋! 久しぶり!」
「元気だったか高橋!」
「お前、いきなり一軍で頑張ってるじゃねぇか!」
聞き覚えのある声。
「仲村さんに内山さん! それに亀山さんも!」
ベンチ裏から、ぞろぞろと見慣れた顔が現れる。
「何物思いにふけってんだよ、まだ試合前だってのに!」
イタズラっぽい笑顔で亀山が後ろから肩を組んでくる。
「おわわっ、危ないですって! バランス崩してベンチに落ちちゃいますって亀山さん! それに、こっちのベンチじゃないでしょ!」
「良いじゃないか、そんな硬いこと言うなよ! それにここ、ウチのキャンプ地だしな!」
「おう、何か変わってねぇな、高橋!」
「林さん!」
スーツ姿の林が、いつものあの感じのまま話しかけてくる。
「どうだい、憧れのプロの世界は?」
「やっぱり、レベルが高いです。一つ一つのプレーの精度も、スピード感も全部。」
林が目を瞑って大きく頷く。
「お前の顔見て安心したよ。」
「え?」
「だって、お前良い表情してんだもん。どうだ、今は不安よりワクワクの方が勝ってるんじゃないか?」
「まぁ、間違いなくそれはありますね。まだまだ課題はあるし、今まで特に問題にならなかったような事が弱点になるかもしれなかったり、不安はあるんですけど。これから調整が進めば甘く入った球をミスショットしてくれなくなるでしょうしね。だけど、自分の持ってる武器がプロでも通用する、っていう手応えも感じてて。」
「俺の言った通りだろ? お前のボールはプロでも通用するって。」
なぜか内山が誇らしげに腕を組む。「いやいや、俺がスカウトしたんだし、見出したのは俺だから」、と林がツッコミを入れる。
——変わらないなぁ、この空気感。
「でも、今日はお前を打ってやるからな! 去年のシートバッティングの借り、返しちゃる!」
肩を組みっぱなしの亀山が、近距離で宣言。シートバッティングできりきり舞いさせたことを未だに覚えているらしい。
「返り討ちにしてやりますよ! また完璧に封じ込めますから、覚悟していて下さいね、亀山さん?」
チームが変わったこともあるし、試合前だしでそれほど長い時間やりとり出来た訳ではなかったけれど、かけがえのない空間でのかけがえのないひとときであった。
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