99.次の試合
「あ! 高橋、ちょっとブルペン入るの待って!」
「え?」
光州ドライバーズ戦から2日。ブルペンに入ろうとしてドアに手を掛けたところで、投手コーチの齋藤に声を掛けられた。
「あのさ、急に練習試合決まっちゃって! 野手陣にたくさん打席を与えたいってのもあるし、どうにも週後半に雨が続きそうな予報が出てるから試合増やしたくて、元々試合したいねー、って話があった相手だったからあっさり決めちゃったんだけど、ピッチャーの登板予定イジらないといけなくて……。」
「で、俺に声かけてきたって事は?」
「うん、察しが良いな。16日、だから明日なんだけど……」
「え、明日!? いくら急って言っても、ちょっと急過ぎませんか!?」
「いや、全くその通りなんだ、すまん。調整難しいだろうし、もしアレだったら断ってくれて良い。次の登板予定明明後日って伝えてたし、それに合わせて調整しろとも言ってたからさ。もしそれでフォアボール連発とかだと、やっぱこう、印象悪くなっちゃうだろ? もちろん俺も監督も無理言って投げてもらう以上、そこで良くない内容でも俺らはそんなに気にするつもりは無いんだけど……」
とは言え、打たれた時のイメージはどうしても残ってしまうはずである。中継ぎの起用においては数字と同じくらい、いやそれ以上に大事な要素。緊急登板で抑えることが出来れば印象は爆上がり間違い無し、ではあるのだが……。
「え、ちなみに明日投げたとして、明明後日の登板ってどうなるんですか?」
「うーん、流石にこの時期にそこまで投げさせたくも無いし、その時は週末の練習試合かなぁ、土曜日の桃園戦。」
——ってことは、もし打たれたとしても、まだ次はある……? それに、中継ぎとして生きていくんだったら、緊急登板だってあるだろうし。何より、アピールチャンスがあるならそれを逃す手なんて……
「明日、投げますよ、齋藤さん。だってシーズンに入ったら、緊急登板だってありますよね?」
「ま、まあそうなんだけどさ。いや、この時期だとちょっとしんどいかと思ったんだけどね。助かるよ、頼むわ!」
——こんなに急に決まる事って、プロでもあるんだ……
学生時代は急に試合が入ることは日常茶飯事だし、社会人チームなどアマチュアでは急なスケジュールの変更は珍しくない。だが、スケジュール管理が徹底されているプロではこの様に急に変更になるのは聞いたことが無い。
「いやー、でも投げるって言ってくれて良かったよ。絶対に明日、投げさせたかったからさ。」
「え? 何でですか?」
齋藤がニヤっと口角を上げる。
「明日の相手。どこだと思う?」
こんな急にプロと試合を組めるようなチームなんて、そうはない。
「ま、まさか——!」
「そのまさかだよ。」
気付けば、両拳を強く握りしめていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます