98.初の対外試合④
「良いねー、高橋ィ!」
「ナイスピッチング!」
「ナーイス!」
「お疲れさん!」
「Good picth!」
ベンチ前ではチームメート達が拍手やハイタッチで迎えてくれる。それにタッチで応えながらベンチに戻ると、投手コーチの齋藤や監督の白石もグータッチで出迎えてくれた。
「お疲れ、ナイスピッチングだったな。どうだった、初めてのマウンドは?」
白石がいかにも落ち着いた、という風に聞いてくる。
「楽しかったです! あ、でも思ったより落ち着いて投げられた様な気がしますね。変にフワフワした感じとか無かったですし。」
「おー、良いねぇ。お客さんの反応とか、どう感じた?」
「お客さん……」
——あれ、そういえば……。
ここまで全く意識していなかったけど、キャンプ地の小さなスタンドにはスコアラー席として区切られているホーム後方の一部分を除いて、隙間が無いほどにお客さんが座っている。座れなくて、内野の芝生席にもシートを広げている人がいる位だ。
——こんなにお客さん、入ってたんだ……
今までお客さんに気付かない事なんて無かったのに。しかも7回まで、周りを見れたタイミングなんて何回もあっただろうに。
「すいません、もしかしたら思ったより緊張してたのかもしれないです。こんなにお客さん入ってること、気付いてませんでした。」
「マウンドで緊張に気付かない、って奴はなかなかいないんじゃない? そっか、でも普段は周りが見えるタイプなんだ?」
「まぁ、普段は客席とか見えてる……はずだったんですけど」
「最初だし、そんなもんじゃないか? 別に、集中してたら声援とか聞こえなくなるタイプの選手もいるし、まあ緊張でそうなってたんだとしても、マウンドで浮き足立ってなかったんだから良いんじゃない?」
「は、はぁ……」
白石の反応からすれば、今日のピッチングはひとまず及第点はもらえたらしい。
「うん、良いピッチングだったと思うよ。」
横でごそごそと防具を外していた儀間が口を挟む。
「大分落ち着いてた様に感じたけど? 結構相手の反応見ながら投げてたっしょ?」
その言葉に白石も頷く。
「まあ、それが出来なかったら僕がこの世界で生き残るの、無理だと思ってるんで。」
高橋はサバサバした感じで答える。凡人なんだから自分のことを見失っている様ではこの世界で勝負して行ける訳が無い。そして自分のどこで勝負できるかを知る為には相手のことを知る必要があるが、相手を観察することが出来ずにどうしてそれが出来るだろうか。
「落ち着いてんなぁ……」
白石が呟き、それに同調するように儀間も頷く。
「その心がけ、大事にしてくれよ? お前のその地に足付いた感じ、それって武器になることなんだぜ?」
「えっ?」
——これが、武器……?
「おう。まぁ人それぞれタイプもあるから一概には言えんけど、状況がしっかり把握できる奴は自分が何をすれば良いのか分かる。しかも初めての対外試合で落ち着いて投げられたんだ、ちょっとは自信持って良い。自分では落ち着いてなかった、って思ってるんだろうがな。少なくともバッターのことは見えてたんだ、十分落ち着いていたって言えるよ。」
「は、はぁ……」
——これも武器、なのか……
意外なところで、新たな武器を意識する事になった試合であった。
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