97.初の対外試合③
「4番、指名打者、ソン・ジュヒョク。指名打者、ソン・ジュヒョク。背番号10。」
大柄な、いわゆるパワーヒッターという感じのどっしりした体型のバッターが左のバッターボックスに入る。
——ツーアウトランナー無しだからな。一発狙ってくるかも……。
ツーアウトで得点圏にランナーがいないこの場面、パワーがある選手なら長打狙いで来る可能性が高い。逆に言えば、軽打で食らいついてくる可能性は低い。要するに、甘い所に行くと痛打される危険性はあるものの、それさえ気を付ければ打たれないだろう、という事である。
バッターが足下の土を平し終えたところで、儀間から出されるサインを確認する。初球は外角に逃げていくスライダーのサイン。
——なるほど、まずはボール球振らせよう、ってことだな。
サインに頷き、セットポジションに入る。大きく足を振り上げて、クロスステップで足を踏み出し、サイドハンドから思いっきり腕を振る。狙い通り、外角のやや低めに投じたボールは、さらにグググっとさらに外側に逃げていく。バッターのソンは、全く打つ気無し、と言うように一球見送った。
「ボール!」
——あれ、打つ気無し? 絶対今のは手を出してくると思ったのに……。
意外にも初球はあっさり見送られた。2ボールにしてしまうと打者有利のカウントで組み立てていくことになってしまうから、次でストライクを取って平行カウントにしておきたいところだ。
——次は? ホームランを避けるんなら外角か、少なくとも低めだろうけど……。
儀間の出したサインは外角低めにストレート。サインに頷いて、セットポジションに入る。足を上げて、一瞬タイミングを遅らせて右手で壁を作る。大きく振った右足をクロスステップで踏み出して、思いっきり腕を振り抜く。
指先から離れたボールは、クロスファイアの軌道を描く。打席のソンが思いっきり踏み込む。が、バットは出てこない。
——よっしゃ、良いとこ!
「ボール!」
——……えっ?
自分の中ではほぼ完璧なコース。儀間のキャッチャーミットもほとんど動いていなかったのだが、判定はボール。
「大丈夫、良いボール来てるよ!」
気合いを入れるかのように、儀間が力強く返球してくる。それに返答するように頷き、足元のロジンを手に取って間を取る。
——今のがボールかぁ……。まあしょうがない、次のこと考えなきゃ。2ボールか、次は何としてもストライクが欲しい所だけど……。
ロジンをマウンドの後ろにポン、と投げてから、儀間のサインを見る。出されたサインは膝元を突くコースへのスクリュー。
——これはストライクにしなきゃいけないボール、だよね……。
セットポジションから足を振り上げて、クロスステップで踏み出し、サイドスローで思いっきり腕を振る。
指先から離れたボールは、途中までど真ん中に行こうかというコースから、グググっと内側に切れ込みながら落ちていく。ソンが踏み込んで、バットを出しに来る。が、変化球だと分かった瞬間にそれを止めようと必死に手首に力を込める。
カツン。
止めたバットの先っちょにボールが当たる。力無いゴロがファーストの横へ。ファーストの杉田がファーストキャンバスを離れて捕球。
「杉田さん!」
「トス!」
杉田からのトスを貰って、ファーストのベースカバーに入る。
「アウトォ!」
よっしゃ! とガッツポーズを浮かべながら、ベンチへと駆けこんだ。
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