84.レベルの違い
「あ、えと、おはようございます。ドラフト9巡目指名で入団しました、高橋龍平です! あ、えーと、えと、あ、よろしくお願いします!」
練習前の朝の声出し。円陣のど真ん中に立ったのなんていつ振りだか分からない位久しぶりで、何を言って良いか分からなくなった。
「よーし、じゃあピッチャー陣は二人一組になってキャッチボールな!」
全選手でのストレッチと軽いアップを終えると、野手陣と投手陣分かれてのキャッチボールに入る。既に何となく誰と組む、みたいなのが決まっていて、次々と二人一組が作られていく。
——え、え、だっ、誰か……。
「高橋さん、組む相手います?」
「いや、いない……」
「じゃあ組みましょ! 俺も相手いないんで!」
「おう、じゃあ! あれ、松ちゃん、昨日まで誰と組んでたの?」
「昨日までは桑原さんと……。桑原さん、インフルエンザで離脱しちゃったんで……。」
——そういうことだったのか……。
いくら一軍で見たいからと言えど、こんなにすぐに昇格させることが出来るものなのか疑問だったけれど、桑原の離脱でどうやら枠が空いたらしい。チームメイトのアクシデントは決して喜べるものではないけれど、そのおかげでチャンスが巡ってくる。プロの世界というのはそんな厳しい競争の世界なのである。
少しずつキャッチボールしながら距離を取っていく。
——皆綺麗な球投げるなぁ。
流石プロ、いや、流石一軍というべきか。キャッチボールだけでも、皆綺麗な回転の球を投げているのだ。それに、全くといって良いほど暴投が無く、凄い選手だと胸元、グラブを構えたところにビシビシ来る。
キャッチボール相手の松本も、全部胸元に、とまではいかないものの足を動かさなくても捕れる範囲に投げてくる。それも素晴らしい球質で。
——これが1軍なのか……。やべぇ、恥ずかしい……。
フォームを変えてからフォーム固めも兼ねてキャッチボールの時にもサイドで投げる様にしているのだが、マシになったとはいえ未だにリリースポイントは周りに比べれば不安定である。そのせいで離れてのキャッチボールだと相手に2、3歩動いてもらわないといけない様なボールがいくことも珍しくない。おまけに、キャッチボールだとマウンドの様な高さの無い地面からサイドから投げているからなのか腕の振りが鈍いせいなのか、球の回転軸が地面に垂直ではなく斜めになっているらしく少しシュートしてしまうのだ。要するに、プロのくせにキャッチボールで真っ直ぐボールを投げられないし、相手が構えたところにも中々いかないのである。まぐれで思ったところに投げられることはあるけれども。
「あ、ごめん! ちょっと高いかも!」
「おっと! 高橋さん、今日は何か荒れてますね。」
——や、やめてくれ松ちゃん、これが俺のいつも通りなんだよぉ……。
まさか朝イチで、レベルの違いを体感になろうとは。いきなり不安に駆られる一軍合流となった。
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