69.入団記者会見

「それでは、今年の新入団選手たちの登場です! 今年は9名の新人選手が、我が東北クレシェントムーンズに加わることとなりました!」


 司会を務めるスタジアムDJのコールと共に、一人ずつ舞台上に並べられた席へと向かう。


「まずはドラフト1巡目指名、背番号1、松本裕樹!」


 カメラマンが一斉にフラッシュを焚く。真新しい、黒地にゴールドのピンストライプのユニフォームを着たルーキー達が眩しそうに目を細めながらポーズをとる。


「そしてラストは、ドラフト9巡目指名、背番号53、高橋龍平!」

 舞台袖から一歩踏み出した瞬間、フラッシュの白い光が高橋を包んだ。


 ——本当に俺、プロになれたんだなぁ。


 今までとはまるで注目度が違う。記者の数、カメラの数、この場に関わるスタッフの数、そしてメディアを通して見てくれる人の数……、全てがケタ違いだ。



 一通りの選手紹介と全選手一言ずつのあいさつを終えると、質疑応答に入る。


「では、松本投手に質問です。6球団競合というここ10年では最も多い球団での競合でした。そんな中、この東北クレシェントムーンズに決まった時というのは、どのような気持ちだったでしょうか?」

「はい、そうですね。今年クライマックスシリーズにも進出したチームですし、今メジャーで投げている中田投手や岩倉さん、そしてチームのエースの森本さんと球界を代表するピッチャーが多く所属しているチームという印象が強かったので、嬉しく思いました。」


 ——うわぁ、よく高校生なのに随分としっかりした受け答え出来るもんだなぁ……。


 記者からの質問は基本的に上位指名の選手達に集中するから、最下位での指名だった高橋にはほとんど質問は回ってこない。他のルーキー達の答えを聞きながら、必死に顔と名前を覚えていた。


「では、時間の関係上、次の質問で最後とさせて頂きます。それでは、後列通路側の方、どうぞ。」


 ——やっと終わるのか。ネイチャーズの球団結成式の時も思ったけど、こういう席って肩凝るなぁ。


 後ろの方の記者がマイクを受け取って立ち上がる。

「では、高橋投手に質問です。」


 ——ん? えっ、俺?


「琉球ネイチャーズから初めてのドラフト指名ですが、その辺何か意識することはありますか?」


 ——俺に質問? しかも何か答えにくいし! えっ、どうしよ、何答えれば良いの?


「あ、えっと、意識することはあります。今年初めて出来たチームですし、僕が結果を出すことで琉球ネイチャーズというチームが注目されれば、あ、えぇと、注目される様に頑張ります……。……え、あ、えと、あの、以上です……。」

「あ、ありがとうございます。」


 ——これで良かったのか? え、何か反応薄くね……?


「以上で、新入団選手発表記者会見を終了とさせて頂きます。ありがとうございました。」




 お辞儀しながら、舞台袖へと下がっていく。


「お疲れ様です、高橋さん! よく最後の質問あんなにスラスラと答えられますね!」

 松本が気さくに話しかけてきた。6球団競合となるほどの実力もさることながら、物怖じせずに誰とでも話せるこのコミュニケーション能力も相当なものだ。大舞台でも自分のペースで投げたり、さっきの質疑応答で次々と飛び交う質問に全くうろたえることなく答えたりするのを見る限り、どうやらかなり肝が座っているらしい。


「そういう松本君こそ、次々と質問に答えてたじゃないか、ほとんど詰まることも無く。」

「いやー、答えやすい質問ばっかでしたから。最後の質問、今日された中で多分一番答えるの難しい質問だったと思いますよ。」

「とは言え、俺が答えたのってその1個だけだしなぁ。それに、松本君はまだ高校生でしょ?」

「まあ、こういうのはあんまり無いですけど、インタビュー受ける事自体は今までに何回もありましたしね。さすがに慣れましたよ。」


 ——慣れればあんなに堂々としていられるものなのか? いや、やっぱり高校生で人前で堂々としていられるのって、普通じゃ無いのでは?


「いや、やっぱりすげぇわ。さすがドラ1で指名される選手だな。」

「いや、こんなことでそう言われるとは……。」

 照れくさそうに松本が頭を掻く。


 ——こういう所を見ると、やっぱり高校生なんだよな……。


「でもそのセリフ、僕のボールを見るまでとっておいて下さいよ。プロ野球選手は、やっぱプレーを見て貰ってなんぼですからね!」




 彼がここまで結果を出して、ドラ1指名を受けるだけの選手である理由が分かった気がした。



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