68.一夜明けて




「おう、高橋! 新聞載ってるぞ、ちゃんと顔写真付きで。」


 一夜明けていつも通りにまず室内練習場に行くと、林がスポーツ新聞を広げて見せてきた。ドラフト翌日恒例の指名選手一覧のリストが見開きで載っている。


「ほら、ここ! 東北クレシェントムーンズドラフト9巡目、高橋龍平!」


 指差しているところを見ると、ネイチャーズのホームページにある、選手紹介の写真からとってきたであろう写真が、選手紹介と共に載っていた。


 ——何て書かれてるんだろう?


『琉球ネイチャーズから初の指名となったサウスポー。去年まさかの指名漏れも、全体最下位でプロ入りを果たした。即戦力として、1年目からのローテ入りに期待』


 ——ローテ入りに期待……?


「あの、これ、書いてる内容ガバガバ……」

「気にしちゃいけない。」

「いや、でもローテって、先発じゃな……」

「気にしちゃいけない。」


 ——きっとこれを書いた人は、去年の俺のイメージで書いたんだろうなぁ……。


 思ってもみなかった選手が指名されて、情報が無いままに無理矢理この記事をまとめなければならなかったのだろう。今年唯一カメラがあるような場面で投げたのはキャンプでスピリッツ戦で先発してボコボコにされた1試合だけだし、フォーム変えてからはプロ相手にはムーンズ戦との数試合だけだから、ユーチューブみたいな動画サイトにも最近の情報は出回っていないはずだ。記者としてそれはどうなんだろう、と思わなくもないけれど、遅い時間に指名されて次の日の朝刊に間に合う様にこれを書いたのだと思えば、まあ無理もない。


「あ、忘れてた! そういやチームのホームページに載っけたいからさ、指名されてのコメントを書いてくれねぇか?」

「コメント?」

「そう、数は多くないけどこのチームを応援してくれているファンがいるからさ。こういうのって人に言われて、ってもんでもないのかもしれないけど。」

「いや、出させて下さい! 名前も分からないけどお礼を言いたい人がいるんで!」


「おぉ、高橋! おめでとう!」

 ——この声は……

「仲村さん!」

「よくやったな。あんだけケガしておいて、よくめげずに頑張ったよ。でも、プロではこんなケガはすんなよ? まして、ケガの治療期間中にはっちゃけてヘッドスライディングかましたりなんかしちゃダメだからな? ねぇ、社長?」


 林が苦笑いしながら頷く。どうやら、一緒にヘッドスライディングかました時の話は林さんをイジる時の鉄板ネタになったらしい。


「お、いたいた! おめでとう!」

「おわわっ!」

 浅井が急に後ろから抱きついてきた。


「良かった、マジで……。あのケガのせいでプロに行けなかったりしたら、俺、どうしようかと……。」


 ——そんなに罪悪感を感じていたのか……



「なーんか人だかりができてると思ったら、やっぱりお前か! おめでとう、高橋!」

「寺田さん!」

「おめでとう! お前が俺の教え子で指名された第一号だ! ありがとな!」

「いえ、こちらこそ本当にありがとうございました!」

「しっかしまあ、俺もホッとしたぜ。半ば強引にサイドスローに変えさせたのに、プロに行けなかったりしたらどうしようかと……。でも、ちゃんと俺は仕事したぜ?」

「仕事……」

「言っただろ、『俺の仕事はお前をプロに入れることだ』って。ここから先はお前の力で切り拓いていけ。お前は一軍でやれるだけの武器を持ってる、自信持って投げ込んでいけ、な?」

 ポン、と肩に置かれたその手には、力強い優しさがこもっていた。


 ——そっか、俺、ちゃんとプロになれたんだ……。


 気付けば、周りにはチームメートやチームスタッフの皆による環が出来ていた。



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