67.運命の日⑤
「東北クレシェントムーンズ、ドラフト第8巡目、選択希望選手——、
「ムーンズ、8巡目は強打の高校生捕手、西原を指名しました!」
既にドラフト会議が始まってからもう4時間を超えた。注目されていた選手の大半はもう指名を受けていて、インタビューを受けている映像が次々と入ってきていた。
「東京アーバンズ、指名終了です。」
「福岡スタールズ、指名終了です。」
「アーバンズに続いて、スタールズも指名終了です! これで、ムーンズ以外は全てのチームが今年の指名を終えることとなりました。」
元々ムーンズ以外のチームから指名されることはあり得ないと分かっていたけれど、いざ他のチームの指名終了のアナウンスを聞くと、また今年も指名されないのではないかという不安に駆られる。その不安は、ムーンズ以外の全チームが指名を終えた今、ピークに達していた。
——頼む……。
その時だった。
「東北クレシェントムーンズ、ドラフト第9巡目、選択希望選手——、高橋龍平、投手、左投げ左打ち、沖縄・琉球ネイチャーズ」
——……!
「よっしゃあ!」
「呼ばれたぁ!」
「やったな、高橋! 指名されたぞ、おめでとう!」
——あ、あ……、っ、本当に指名、された……。
名前が呼ばれた瞬間に、一気に頭が真っ白になった。
「ムーンズは9巡目で高橋龍平を指名しました。えー、去年発足した新チームの琉球ネイチャーズに所属するサウスポー、そして琉球ネイチャーズとして初めてのドラフト指名選手となります!」
会場がざわついているのは、「誰だコイツ?」というのと「新チームから指名された!」というのが混ざってのことだろう。『プロ野球16球団構想を見据えた新規球団』というのはファンを含めた野球関係者の中でかなり話題になったから、チームの名前はそれなりに知られていたはずだ。
「そして、ここで東北クレシェントムーンズも指名終了です! これで今年のドラフト、支配下登録選手の指名が終了しました。今年は総勢83名のルーキーが、新たにプロの世界に飛び込む資格を与えられました!」
「ウチからもドラフト指名選手がちゃんと出たなぁ……。」
林が噛みしめる様にこぼす。
——夢じゃない、よな……?
目の前の光景が、まるで現実のものとは思えない。何だか色の無い世界にいるかの様な感覚だ。だが、テレビの中の光景が、周りの皆の表情が指名が事実だと物語っている。
「今日からお前は、プロ野球選手だと胸を張って言えるな。でも、ここがスタートラインだぜ?」
——!
林の一言で、一気に現実に引き戻された。
「お前は全体最下位での指名だからな。そしてお前より歳が下の選手もいっぱいいる訳だ、うかうかしてるヒマは無いぞ? 厳しい世界なんだけど、最高の世界だ、食らいついていけ!」
「はい!」
白飛びしていた景色は、いつの間にか鮮やかに色付いていた。
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