65.運命の日③


「持田がマーチャンツ、浦崎がクラフトマンズに決まりました。さあ、そしてついに6球団競合となった横浜松陰高校・松本裕樹投手の交渉権を懸けた抽選です!」


 ——どうなるんだ? 関係ないかもしれないけど、出来ればムーンズ以外で……。


「各球団の代表者が壇上に並びます。それ程大きくないステージですから、6人も並ぶともうぎゅうぎゅうです。」


 各球団の球団社長やオーナー、監督、編成部長などなど様々な肩書きの代表者たちが順番に半透明の箱の中から封筒を取り出していく。


 それではご開封下さい、というアナウンスで一斉に封筒の中身を取り出す。




「さあどうだ? ——あっと、立川社長がガッツポーズ! 東北クレシェントムーンズの立川たちかわ社長が渾身のガッツポーズです! 松本裕樹は東北クレシェントムーンズが交渉権を獲得!」


 ——マジかよ!


「おお、ムーンズが当てた!」

「セーラーズまたクジ引き外しやがった、今年は地元のスターだったのになぁ。」

「ムーンズはエース候補の若手が少ないからなー、こりゃ今年は良い指名が出来たんじゃねぇか?」


 ——うん、もう皆、なんでここに集まったのか忘れてるでしょ? 俺にとってはサウスポーの指名が上手く行かない方が都合が良いんですけど……。


 テレビには安堵の表情を浮かべている松本の様子が映し出されている。


「やっぱりどのチーム行くかが決まると、ほっとするもんだよなぁ。」

「ここがスタートラインなのは頭では分かっているつもりでも、やっぱそうなりますよね。」

 自分が指名されたときのことを懐かしむ横で、高橋は口を真一文字に結んでテレビを食い入る様に見つめる。


「まだ指名されてないヤツに言う様なことじゃないかもしれないけどさ」

 唐突に林が話しかけてくる。

「今年の目標はプロ入りすることだったけど、これはまだスタートラインに立っただけだからな。絶対にここがゴールだと思うなよ。」


 横では、全員がこちらを見て頷いている。


 そういえば、ここに居る人たちは全員ドラフト指名を経験した人たちだったことを忘れていた。そして、プロの世界でもがいて、その厳しさも知っている人たちだし、戦力外通告を受けてその非情さも痛いほど知っている人たちでもあるのだ。


「肝に銘じておきます。」

 普段は気さくに話しかけてくれる人たちだけれど、こういう言葉にはしっかりとした重みがあった。そして何より、自分のことを想ってくれているのが伝わってきた。


 ——このチームに入ったの、正解だったなぁ。そして、このチームのためにも、この人たちのためにも、指名されます様に……。



 ドラフトは着々と進んでいった。


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