63.運命の日①
「今日、この後どうするつもりだ?」
通常の練習メニューを終え、クールダウンのキャッチボールをしていると、後ろから林に声を掛けられた。
「ど、どうするって……。」
「ドラフトだよ。どこで見るつもりなんだ?」
「どこって……、まあ自分の部屋で、スマホか何かで見ようかな、って思ってたんですけど。」
「じゃあさ、球団事務所に来ねぇか? 球団事務所のテレビ、せっかくだからって思って野球専門の有料チャンネルを契約したからな。一緒に見ようぜ。っていうか、ドラフト指名の可能性があるヤツがスマホでしかドラフト見れないとか、あんまりだろ。」
確かに、ドラフト当事者が一般人と同程度にしかドラフト情報にアクセス出来ないのは悲しすぎる気もする。
「じゃあ、お言葉に甘えて。」
「おう、そう来なくっちゃな! じゃあ、ダウンまで終わったら来なよ、事務所で待ってるから。」
練習を終え、球団事務所に向かうと、林の他に寺田、内山、仲村、亀山とコーチ陣&ベテラン勢が既に揃っていた。
「えーと……、なぜ皆さんお揃いで?」
「嫌か?」
林がニヤニヤしながら問うてくる。
「いや、別に嫌じゃないですけど……」
「じゃあ良いじゃねぇか、このチームから初めてのドラフト指名選手が出る瞬間を皆見てぇんだよ。」
仲村の言葉に亀山、内山が頷いて同調する。
「それに、記者会見の時に知った顔が多い方が良いだろ? まともにそう言う場でしゃべったことなんか無いだろうしさ。」
林が部屋の一角、大きく『RYUKYU NATURES』の文字が書かれたポスター大の紙が貼られたスペースを指差す。正直、ぶっつけ仕事感が否めない紙のシワシワ具合なのだが。
「っていうか、そもそも誰かマスコミの人なんて来てくれるんですかね? あと1時間ちょっとでドラフト中継始まるのに、誰も来てないみたいですけど。」
「ま、まあ指名されれば誰か来てくれるでしょ。地元の新聞社とか、ネットニュースのスポーツ担当とかさ。」
「そんなもんなんですかね。」
「そんなもんでしょ。大丈夫だ、指名されりゃこのチーム初のドラフト指名選手になるんだから多少なりとも注目はされるって。」
——っていうか、本当に俺、指名して貰えるんだよな? 今年は大丈夫だよな? 指名漏れ……しないよね?
今ごろになって不安がこみ上げてくる。正直、ドラフトは何があるか分からない。『上位指名候補』として取り上げられていた選手が指名漏れすることもあれば、全国区では全く活躍出来なかった選手でも潜在能力を評価されて指名されることもある。上位指名で予定通りの指名が出来なかったチームが、下位指名でバランスを調整することも珍しくなく、その場合に指名されるされないはもはや運でしかない。
——頼みますよ、中嶋さん……!
「さあ、今年もこの時期がやって参りました。新たなスター候補達の、運命の一日。ドラフト会議が、今、始まります!」
運命のドラフト会議が、始まった——。
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