30.緊急登板①
「アンパイア! ピッチャー交代!」
桐生がベンチから出て、審判に交代を告げる。ボールを審判から受け取った寺田が、マウンドへと向かう。
「琉球ネイチャーズ、選手の交代をお知らせ致します。ピッチャー、三好に代わりまして、
7回途中ながら、投手陣が炎上して既に本日7人目となるピッチャーがコールされる。
「
「はい!」
次々とピッチャーがブルペンに呼ばれる。ベンチ入りしているピッチャーの内、昨日投げていないピッチャーはこれで全員がブルペンに入った。昨日投げた4人のピッチャーの内、1人は既にブルペン投球を指示されている。
流石に前日に先発した仲村が登板するなんてことは無いだろう。そして、前日にあれだけの課題を露呈した高橋に至っては、よほどのことが無い限りこの遠征中には登板機会はもらえないはずだ。もっとも、そう思っていたのは高橋自身だったりするのだが。
——こんなに打ち込まれたのって、今まで無かったんじゃないか? 出てくるピッチャーがことごとく炎上している。
試合で投げろと言われる気配も無いし、何より1試合投げたからだろうか、どこか冷静に試合を観ることが出来ている自分がいた。
「ボール! フォアボール!」
——またフォアボールか……。ストライクが全く取れてない訳じゃないんだけど、決めきれなくて粘られた末に投げるところが無くなった結果フォアボール出してる、って感じなんだよなぁ。そして次のバッターに初球のストライクを狙われて長打で大量失点、という感じ。
マウンド上で、ネイチャーズこの試合7番手となる仲吉が悔しそうな表情でキャッチャーからの返球を受け取る。
これでランナー1、2塁。フォアボールは絶対に避けたい場面。
「4番、サード、杉田。サード、杉田。背番号36」
ベンチから見る限り、内山がそんなに厳しいコースに構えている様子が無い。フォアボールを出した直後だから、ストライク先行でいくためにも初球でストライクをとっておきたいのだろうけれど……。
——初球、甘くなったら危ない気がする……。最悪ボール球でも良いから、初球は厳しいところを突いた方が……
パカァァァァァァァアァン!
場内に快音が響く。おお! という歓声、というよりもどよめきと言った方が正しいだろうか、2、300人ほどの観客の声が球場を包んだ。
打った瞬間それと分かる、完璧な当たり。もはや、センターも打球を追うことを諦めて、呆然と打球を見上げた。
——やられた……。やっぱり狙ってたか、フォアボール直後の初球。今の甘かったもんなぁ。
「タ、タイム!」
慌てて寺田が再びベンチを飛び出す。今日はベンチが慌ただしい。
「仲吉、この回までで限界だと思います。」
「そうか……、あと2イニングかぁ……。」
「一応、右のアンディと木村、それに左の東江を用意させてますが。」
マウンドから戻ってきた寺田と桐生の会話が聞こえる。
——その3人が計算通りにいけば良いけど……。
「高橋、一応ブルペン言って貰って良いか? 何があるか分からんから、ブルペンに一応1人はいて欲しい。」
9回表が始まる直前、ベンチに座っていた高橋は寺田と桐生がに声を掛けられた。
「了解です!」
慌てて横に置いていたグラブを手に取り、ブルペンに向かう。途中、マウンドに上がる
「お、今日のアクシデント対策は高橋かい?」
ブルペンキャッチャーを兼任する職員さんが訪ねる。まあそういうことですね、と返してからキャッチボールを始める。
「今日は最初、軽めに行きます。昨日投げてるし、特に登板予定がある訳じゃないので。」
「オッケーイ!」
ブルペンがファールグラウンド内にあるから、音や周りの声で大体どういう状況なのかは分かる。
——今日の東江さんは調子よさそうだな。全部詰まらせてるみたいだし、何より簡単に2アウトを取ってるし……。
カァァァァァン! ドゴッッ。
ざわざわ、ザワザワ……。
——何の音? 何があった?
何か、球場の雰囲気がおかしい。
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