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「いやー、驚いたぞ高橋。なかなかロッカー片付けねぇから探してたら、齋藤さんと話してんだから。」
「あの人、齋藤さんって言うんですね。」
寺田と共に、ベンチ裏の通路を通って、ロッカールームへと急ぐ。
「え、まさかお前、齋藤さんのこと知らねぇのか? あ、でも、そうか、お前ぐらいの年代だともう齋藤さんが現役だったころのこととか知らねぇのか?」
「ああ、すごいピッチャーだったんだぞ。何年も横浜セーラーズのエースとして活躍して、優勝した時にもローテーションに一角として投げてた、『負けないエース』なんて異名までついてたりしてたっけな。」
「横浜が優勝っていうと……。」
「あれ、もしかしてお前、あん時はまだ生まれてないのか?」
「た、多分……。」
「こ、こんな所でジェネレーションギャップを感じることになるとはな……。あ、いや、それだけじゃねぇんだ。齋藤さんはコーチとしても引っ張りだこだしな。流石に俺がオリンピック出た時ぐらいはもう知ってる年代だろ?」
「ええ。あれで俺、ピッチャー格好いいな、と思ってピッチャー始めたんですよ。」
「あん時、日本代表の投手コーチやってたのも、齋藤さんだったんだぞ。」
「ええっ、そうなんですか!?」
——ってことは、何十人、もしかしたら何百人とプロの選手を見てきた様な人も、俺が良いモノを持っているんだって感じたってことなのか……。
とはいえ、今の力ではまだまだ同じ舞台で戦えないこともまた感じさせられていた。ランナー出したらフリーパス状態で走られる、おまけに下半身に負担が掛かるフォームだからそこまで長いイニングを投げるのもなかなか難しい。
——多分、この遠征で俺が投げる機会はもう無い。投げてみて改めて突きつけられたわ、まだ彼らと同じフィールドで戦える力は俺には無いんだって。でも、期待してくれる人がこんなにもいる。やることやって、来年は俺もあそこで……、いや、1軍で勝負できるピッチャーになってやる!
「じゃあ投手陣、今日投げた奴はフィードバックするぞー。」
宿舎で全体ミーティングが終わると、ポジションごとに分かれてのミーティングに移る。
「まず、全体的に言えることだけど、中途半端に外さないことだ。今日打たれたボールは、外すのかどうかはっきりしないボールばっかりだった。この点で言えば、しっかりやれてたのは高橋だけだったな。仲村はそのあと上手く打ち取れた訳だが、もし長打1本出ていたら、あっという間に2、3点取られていたはずだし、実際後ろ2人はそうなってしまったな。」
寺田が今日の投手陣の内容を総括する。
「あと、リリーフした3人! まあ、高橋はまだ仕方ない部分があるけど、ランナー出してからバタバタし過ぎだ。ランナー出さないことも大事だけど、ランナー出してからどうするか、ってのも安心して後ろを任せるには欠かせない要素になるぞ。明日以降、使う側が信頼して起用できるピッチングしてくれよ?」
「「ウス!」」
「じゃあ、最後に、相互に感じた事をディスカッションするか。」
「あ、じゃあ俺良いッスか?」
仲村が手を挙げる。
「つっても、別に何かアドバイスって感じのことじゃないんスけど。いきなり練習もしてない様なことなんか、試合でいきなり出来る訳ないじゃないですか。だから、マウンドでどうしようか考える時、変に背伸びしないで出来ることから考えるのが良いと思うんですけど。」
「そうだな。今日、高橋が出来もしない様なクイックをしようとしてたけど、あ、別にクイック出来ないことを責めたいんじゃないけどさ、大体はあんな感じでぐだぐだになって終わるから。」
寺田が付け足す。
「ってことは、練習の時にそのプレーを想定してやらなきゃ、ってことですね。」
考え込むような口調で高橋がボソっと言葉を発する。
「そう言うこったね。まあ、遠征中に出来ることは限られてっけど、帰ったらその練習できる様に、メモかなんかして忘れない様にしておけよ。」
「ラジャー!」「了解です!」「はい!」
バラバラな返事でお開きとなった。
「明日も試合あるからな。リリーフ陣は連投もあり得るから用意しておけよ!」
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