28.印象



 カァァァァン!

 パシッ!


 レフトフライをムーンズの選手が無難にキャッチして、9回の表、3つ目のアウトとなった。試合終了。僅差の試合だったものの、7回に先制を許してから基本的にムーンズペースの試合だった。



 琉球ネイチャーズ 3-4 東北クレシェントムーンズファーム


 出場成績:1回 被安打1 四球1 奪三振1 失点1(自責点1)敗戦投手




「今日は、負けはしたが収穫も多い試合だったと思う。各自フィードバックしつつ、明日の試合に備える様に!」

「「ウス!」」

「じゃあ、荷物をまとめてバスに乗ってくれ。30分後に出発予定だ、遅れんなよ! 本格的なミーティングは、宿舎に戻ってからやるから。」


 さっさと荷物を片付けて、帰りのバスに早めに乗り込もうと思って、ベンチでいそいそと片付けを進めていると、グラウンドの方から声を掛けられた。


「高橋君、だったかな?」

「はい?」


 ——誰?


 そこには、ムーンズのユニフォームを着た、60代くらいの優しそうな男の人が立っていた。


「いや、面白いピッチャーがいるなぁ、と思ってね。君、歳はいくつなんだい?」

「えっと、今年で23になりますけど……。」

「ってことは大卒1年目?」

「あ、そうです。」

「ほぉ、まだ大分若いんだね。」

「いやぁ、まあもう同い年がもっと高いところで活躍してるような歳ですけどね。」

 愛想笑いを浮かべながら、答える。


 ——誰だろう、この人……? ユニフォームからして向こうのチームスタッフなんだろうけど、コーチの人かな?


「その投げ方、始めたのはいつなんだい?」

「えっと、今年の2月半ばから……、とは言ってもケガしてたりしたんで、実質この投げ方で投げてるのって3ヶ月いくかどうか位なんですけど。」

「その期間でこのボールか! 良いボール投げてるじゃないか。」

「あ、ありがとうございます。」

「なるほどね。だからクイックが苦手だったのか。あ、いや、失礼。フィールディングとかの動きは良さそうだったのにあまりにもクイックがあまりにも弱点になっているようだったから、ちょっと不思議に思ってね。」

「え、は、はぁ……。」

「まあ、頑張って投げ続けなよ。君のボール、かなり良いモノを持ってる様だから。まだなかなか結果は出ていないのかも知れないけども、プロでやっていけるかもしれない位の素質はあるんじゃないかと思うからさ。」

「え、あ、ありがとうございます。」



「あ! まだここにいたのか、高橋! ロッカーの片付け、お前以外終わって……、って、あれ、失礼、話してる最中でしたか。」


 寺田がベンチ裏から出てきた。


「いやいや、呼び止めちゃって悪かったね。まあ、頑張りなよ。あ、寺田君、明日もよろしくね!」



「あ、いえ、こちらこそ! 今日はありがとうございました、齋藤さいとうさん!」





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