27.公式戦初登板④
「ボール、フォアボール!」
際どいところを狙ったスクリューが低めに外れ、再び出塁を許す。
——しょうがない、このカウントから長打にされるくらいならこの方がマシだ。それに、このバッターはそんなに足は速くないし、それに4番を打たせる若手に。この回に代走を出すことはしないはず。
杉田がレガースとバッティンググローブを外しながら、ゆっくりと一塁へ走る。ムーンズベンチに動きはない。
「5番、指名打者、ルイス。指名打者、ルイス。背番号124。」
右打席に、ストレッチをしながら、かなり大柄の外国人選手が入る。190cmほどはあるだろうか。背番号が3ケタということは、1軍の試合には出場できない育成選手だ。だが、見るからにパワーは並外れたモノを持ち合わせているのだろう、と思える。
——外国人選手と言えども低めに投げれれば、そうは遠くまで飛ばされないハズ。しかも、こんな曲がり方する変化球投げるピッチャー、海外ではほとんど見たことないだろ。
サイン交換を済ませて、セットポジションに入る。サインはスクリュー。チラッと一塁に目をやってから、足を振り上げる。クロスステップで踏み出して、サイドスローで思いっきり腕を振り抜く。
投げこんだボールは、右バッターの外角へと落ちながら逃げる完璧なコースへ。
「シィィィィィィッ!」
思いっきり振ってきた。大振りのスイングで出されたバットは空を切って、ボールは内山のミットに収まった。バットが空気を切り裂くブゥゥゥン、と言う音がマウンドまで聞こえてくる。
——おぉ、声を出しながらスイングするタイプのバッターなのか。っつーかさ、なんだこのスイングスピード!? やっぱ甘いコースに行ったら持ってかれるな、こりゃ。
次はストレート。内角にズバッと、クロスファイア。
セットポジションから、大きく足を振り上げる。クロスステップで踏み出して、肘が体から離れすぎない様に気をつけながら思いっきり腕を振り抜く。
——完璧!
指の掛かり方、行ったコースともに自分の中では完璧なボール。膝元を突くクロスファイア。
「シィィィィィィッ!」
バキョォォォッッ!
バットヘッドがサードに飛んでいく。グリップだけになったバットを投げ捨てて、バッターランナーが走り出す。
「よしっ!」
力なく転がってきたゴロを難なくキャッチ。
「セカンド!」
内山がセカンドを指差して、指示を出す。
素早く体を反転させて、セカンドに送球する。セカンドは悠々とアウト。ベースカバーに入ったショートからファーストへと送球。思ったよりも際どいタイミングに。
——あれ、思ったよりコイツ足速い! どうだ!?
「アウト!」
「よっしゃあ!」
審判の大きめのリアクションを見た瞬間、思わずグラブをポーンと叩き、左手でガッツポーズを作って、ベンチへ駆け込んだ。
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