22.実感


「ナイスピッチング! ちょっとボール球は多かったけど、ほとんど打たれてなかったな!」


 シートバッティングでの投球を終えてベンチ裏でアイシングをしてもらっていると、寺田が声を掛けにきた。

「あれ、寺田さん見てましたっけ?」

「見てたよ。あれ、気付かなかったか?」

「あれ、どこに居たんですか?」

「スタンドにずっと居たよ? バックネット最前列でガンとかでお前のボールのデータ取ってたんだけど……。ま、いいや。今日のピッチングのフィードバックしようぜ。」


 ——データ取られてたの、全然気付いてなかった……。そういや、久しぶりのマウンドであんまり周りを気にしてる余裕なんて無かったからなぁ。


 置いてあった折りたたみ式の長テーブルにパソコンを置いて、データを表示する。


「まず、感覚的な部分について聞いておこうかな。どうだったよ、久しぶりのマウンドは? バッターとの間合いとか、バッターの反応とか、お前はどう感じた?」

「うーん、亀山さんも内山さんも、思ってたよりも打ち辛そうにスイングしてた感じはしますね。正直、そんなにスピードも無いはずなのに詰まらせたり空振りとれてたのにはびっくりしましたけど……、まだまだコントロールが効かないのは痛感しましたかね……。」


「ハハハ、コントロールなんて分かってたことじゃねぇか! それよりストレートとかスライダーとか、かなりバッターは良い反応してくれてたんじゃねぇの? あと、ほれ!」


 パソコンに表示されたデータを指差す。


「回転量もスピードも、そんなにフォーム変更前と変わってねぇぞ! ほれ、こっちがスピリッツ戦の時のデータで、こっちが今日のヤツ。スライダーとかスクリューの変化量は上がってるかな。」


「数字的には変わってないのに、あそこまでバッターの反応が変わるもんなんですね……。」

「驚いたろ?」


 ま、まだ実戦で使えるレベルじゃないけど、と断ってから

「もうちょっとしたらさ、対外試合でも投げてみるか。」

 なんて提案が。


 ——対外試合! マジで? 投げたい!


 やはり選手である以上、試合に出てナンボである。今まで試合どころか練習でさえバッターと対峙させてもらえなかったから、『試合で投げる』という単語だけでもそわそわしてしまう。


「細かいコントロールまでは求めねぇけど、せめてストライクを狙ったボールの7割くらいはストライクにできる位のコントロールはつけてくれ。じゃねぇと、1、2球ファールにされただけでフォアボール出しちまって、一人相撲確定になるからな。」


 ——もうちょっとマウンドに立つまでには時間が掛かりそうだな~。でも、ついに実戦登板が見えてきた! 投げ込むしかない。やってやる……!







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