18.投球練習再開
「うーん、もうレントゲン見る限りでは全然問題ない感じだね。これなら練習再開の許可出しても大丈夫かな。」
肉離れからほぼ丸一ヶ月。痛みがひくまでの時間はそんなに掛らなかったけれど、違和感が残り続けて思ったより練習再開の許可が出るまでに時間が掛ってしまった。
「完治しているとは思うけど、一応無理しちゃだめだからね?」
ずっと診てくれていた外間先生から、ようやく練習再開の許可が出た。この間、ひたすら体幹トレやら柔軟性を高める為のチューブトレやら、とにかくボールを使わない地道なトレーニングばっかり。フォーム固めをしたいのに、投げ込めないこの期間は、主に精神的にも辛い時間だった。
練習再開初日から、早速のブルペン入り。あまりにも嬉しくて、ガラにも無く鼻歌なんか歌いながら、ブルペンの扉を開ける。
「おー、高橋じゃねぇか! お前がここに居るってことは……?」
内山がからかう様な口調で話しかけてくる。
「そういうことですよ!」
そのテンションに乗っかって、答える。
「おめでとう! じゃあさ、その復帰ブルペン、俺に捕らせてくれよ!」
そう言って、外しかけていた防具を着け直す。
「え、良いんですか? 明らかに今、移動しようとしてた所だったんじゃないですか?」
「馬鹿もん、俺はまだお前の新フォーム、見てないんだぜ? 捕ったこと無いピッチャーがチーム内にいれば、キャッチャーとしては捕らない訳にはいかねぇだろうが!」
なんかウキウキした様子で、左手にはめたミットをパンッと鳴らす。
「今日はまだ軽くしか投げないっすよ?」
そう断った上で、まずは立ち投げで久しぶりにマウンドからキャッチャーに向かって投げ込む。18.44メートルの距離感とか、マウンドの傾斜がかなり懐かしい感覚だ。
セットポジションから左足を上げ、そのままセカンドベース方向に大きく足を振る。クロスステップで足を踏み出して、肘が体から離れない様に気をつけながら、ビュッと腕を振り抜く。
リリースされたボールシュルルルル、と風切り音を立て、パチーンという音と共にミットに吸い込まれる。
「おお、良いねぇ! 良い軌道じゃん!」
——さすが内山さん。初球から芯で捕ってくれた!
「なあ、せっかくだからお前、プレートの真ん中じゃなくて端っこギリギリから投げたら?」
「端っこ? ファーストベース側ですか?」
「うん。せっかくサイドスローやるんだし、クロスファイアが武器になっていくんだろ? じゃあさ、そっち側ギリギリから投げた方がより角度が付いて打ちにくい軌道になるんじゃねぇか?」
——確かに。しかも、しばらく投げてない上にそもそもフォームが固まってない今なら、立ち位置変えるぐらいの挑戦はパッとできるし。
「じゃあ、こっち側から、ストレートいきます!」
「はいよ!」
マウンド上のプレートの端っこギリギリに左足を当て、セットポジションに入る。クロスステップで踏み出して、さっきと同じように腕を振り抜く。パーン!と言う音を立てて、ミットに収まる。
「おぉ、良いじゃん!」
まだそんなに力を入れて投げている訳じゃないから、スピードも球の勢いもそれほどじゃないはずなのだが、久しぶりにマウンドに上がって投げている上に、どのボールも芯で気持ち良い音を響かせながら捕ってくれるから、投げていて高揚感が半端じゃない。
「もう一丁! 今度は強めに!」
「おう、でもそろそろ今日はこの辺にしておけ、もう40球以上になっからよ。お前まだ今日は復帰初日なんだろ? ケガしない、ってのもまたプロ選手としての務めだぜ」
——え、もうそんなに投げてたんだ。まだ20球ぐらいしか投げてないつもりだった。やっぱ、投げれんのって楽しいや!
「うっす! じゃあクールダウンのキャッチボールお願いします!」
——こりゃ、実戦マウンドで投げれるのもそう遠くないのかもしれねぇな。
ケガしている間ずっと投げられなかったというのに、なぜか前よりも感覚が良くなっている気がした。
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