6.第一印象
新球団・琉球ネイチャーズのチームメイトが初めて一堂に会したのは、1月半ばの記者会見の折であった。このオフに球団として積極的に選手獲得に乗り出していたこともあり、全国クラスで活躍していた選手ばかりである。その多くは独立リーグから移籍してきた選手だった。だが、6~7人は昨シーズンまでJPBでプレーしていて、戦力外通告を受けて退団し、移籍してきた選手もいた。その中で、いわゆるルーキーと呼ばれるのはわずかに3~4人しかおらず、特にピッチャーに限れば高橋のみであった。
監督、コーチ陣は全員がJPB出身者。特に投手コーチの
「君が高橋か!」
会見が終わった直後、聞きなれない声に呼び止められた。振り返った先には、興味津々、といったような表情の桐生が立っていた。あまりにも急すぎて、どうしていいのか分からずドギマギしてしまった。
「ハッハッハ、そういや話すの初めてだったな! 映像でしょっちゅう見てたから、すっかり面識があるもんだと思ってたぜ!」
——いや、監督ってもっとこう、なんかどしっと構える人だっていうイメージだったんだけど……。こんな人が監督やることもあるのか……。
「今、お前こんな奴が監督なんかで大丈夫なのかよ? とか思っただろ?」
「いやいやいや! まさかそんなことは……」
——ちょっと思ったけどさ……。
「冗談だよ! 真に受けんなって。来週からキャンプ始まるし、お前のプレー楽しみにしてるからな! 頼むぜ!」
そう言って、思いっきり背中を叩かれた。
——結構痛かったんですけど……。まあ、何か不思議な人だけど悪くはなさそうだな。っていうか、俺の映像なんか見てくれてるんだ、まだ一回も会ったこと無かったのに。
「高橋君、だよね?」
今度は聞き覚えのないハスキーボイスに呼び止められた。
「よろしく、投手コーチの寺田です。」
「あ、ええと……、高橋龍平と申します、よろしくお願いします。」
自分でもびっくりするくらい、かしこまって挨拶しようとした。下手だったけれども。
寺田といえばかつて日本代表として世界大会にも出場する程のピッチャーだった。同じピッチャーの高橋少年が憧れた、レジェンドの1人である。
「動画でしかまだ見たこと無いんだけど、良いボール持ってるじゃないか。生で君の投球見るの、楽しみにしてるぞ。キャンプでな!」
笑みを作りながら、ポンと軽く肩を叩いて記者達の中に入っていった。メディアもあれだけの成績を残したスターが新球団に参加したことに、話題性を見出しているのだろう。次々に質問を飛ばし始めた。
——寺田さんまで俺の動画見てくれてるのか……。JPBにいたことがある選手が多かったり、既に独立リーグとはいえプロの世界でプレーしていた選手がいる中で、学生野球でしか投げていない指名漏れするレベルの俺を、チェックしてくれているなんて……。路頭に迷いかけていた俺を拾ってくれたチームのためにも、絶対にJPBに入ってやる!
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