4.オファー


 渡された名刺を改めて見ると、『琉球ネイチャーズ球団社長 はやし 雄志ゆうし』と記載されていた。


 ——球団社長……、でも聞いたことのない名前の球団だな……。

 独立リーグなら四国や関西、関東、東北にもチームはあるのだが、球団名からして沖縄を拠点とするチームなのであろう。かといって、どこかの企業の社会人チーム、という訳でもなさそうだ。だとしたら、クラブチームとしてやっているのだろうか?


「お前、プロ野球16球団構想、って知ってるか?」

 いきなり小澤が問うてきた。

「いや、なんか聞いたことがあるような気がする程度にしか……。それと琉球ネイチャーズと何か関係があるんですか?」


「それは僕から説明させてください」

 林が話に割って入ってきた。まだ具体的な計画になってはいないのですが、と前置きした上で続ける。

「実は、現在は12球団で行われているJPB(Japan Pro Baseball league)を、将来的に16球団に拡張する計画なんですが……」

 林が語気を強める。

「我々はその際に、新規参入を目指して来年から活動を開始する、新しいプロチームなんです。そこに、選手としてあなたに加入して頂きたく、今回オファーしたということなんです。」


「実はな、高橋」

 小澤が説明を付け加える。

「林はこの学校の卒業生でな。まあ、つまりお前らの先輩にあたる訳だ。だからチーム結成とかの忙しい中でもうちの試合はチェックしてたらしくてだな。お前が指名漏れしたのを知って、連絡よこしてきたんだよ」

「え、じゃあ俺のこと、ずっとチェックしてきてたってことですか?」

「ええ、もちろん。進路をJPB一本に絞っていたというのも聞いていましたので、これまでオファーはしてきませんでしたが。」

 驚きを隠せない様子の高橋に、畳みかけるように林が続ける。

「小澤監督から、事情はいろいろと伺っています。どこかに故障がある訳ではないことも、野球を辞めようとしていることも、それから……就職先が見つかっていないことも。」

「——っ!」

 事実だが、面と向かってそれを言われると恥ずかしいような情けないような気分になってくる。あと、ちょっとカチンとも。だが、せっかくの就職チャンスがそこにあるのに、そんな一時の感情だけでフイにするのも馬鹿らしい。まだ条件とか待遇とか、そういった類のものは提示されていないけれど、話を聞いている限りではハローワークの求人なんかよりは良さそうな気もするし。


「でも、なんで野球辞めようとしている奴に、オファーなんか……?」

 と言いかけて、高橋の脳内に一つの答えが浮かんできた。

 ——まさか、選手じゃなくてバッティングピッチャーか何かか? そういや、一言も選手としてオファーするなんて言われてねえ! 


 話しかけて止めたから、林も小澤も、次の言葉を待っている。

「あ、あの……、俺、選手としてのオファーかと思っていたんですけど、もしかしてバッティングピッチャーとしてのオファーですか?」


「まさか。ご安心ください。選手として、ピッチャーとしてのオファーですよ。」

 思ってもいなかった質問だっただろうに、林は嫌な顔一つせず、穏やかな口調で即座に答えた。困惑した声のトーンではあったが。


「うちの球団は来年から活動する、駆け出し球団です。まだプロ野球16球団構想なんて具体的な計画にはなっていません。そこで、まずはうちの球団からドラフトにかかる選手を育てたいと思っています。高橋には、近い内にドラフトにかかるだけの選手になれるポテンシャルを持っていると評価しています。」


 林は真剣な表情で、高橋に問いかけた。

「うちで、一緒にJPBを目指しませんか?」








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