十夜火姫の歌

【本編情報】


『十夜火姫の歌』

――神になるとは、おのれの願いを知ることよ。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054917479971

第一回イトリ川短編小説賞参加作品。


異世界ファンタジー

7,996文字



   *   *   *   *   *   *



 新規書き下ろし、テーマ『たったひとつの望み』、3000~8000字、完結済、というレギュレーションで2020年7月15日~2020年8月25日に開催された自主企画『第一回イトリ川短編小説賞』のために書いた作品です。

(自主企画ページ: https://kakuyomu.jp/user_events/1177354054916168353




 『たったひとつの望み』、結構むずかしいテーマかも……と最初は思いました。小説のメイン登場人物は大概何か目的や希望、動機などを持っていますので、ただ望みを持ってるだけでは何だかいつもと代わり映えしない気がしたんです。

 また、「死病の恋人を救うため」「世界を救うため」「私は死ぬことにした」とかだと私はあまりにもベッタベタな完全にどこかで見たやーつーを書き始めてしまって自分でダメになり消してしまう可能性が非常に高く、どうしたもんかと色々なネタをひねり出してはこねこねして、書き始めるまでにやや時間がかかりました。


 結果として結構いつも通りのを書いてしまっているな……。ほら、天涯孤独で不当な目に遭ってるガールだから……。

 まあそれにしても、信仰によって送り出されたけど本人は信仰に疑問があるし自分は悪いことしてるのでは……みたいなやつが書きたかったです。

 こないだスペインの巡礼の道のドキュメンタリー観てて、まあ何度かテレビで見た同じ道なんですけど、そーゆーのあるよなって思って。日本のお遍路さんと同じようなかんじですよね。今回はそれに、なかなか成就しなさそうな目的がありまともにやると多分死ぬ、という千日行てきな要素を加えました。クイはべつに野山を疾走したり岩壁登ったりはしてないのですが精神的には似たものがあると思う。


 最初はもうちょっと複雑な構造を考えていて、雪の神を探す少女が倒れて火の神に、火の神を探す少女が倒れて雪の神になり、時間ねじってお互いがお互いを拾い救われるようなやつ? がよくない? なんか雰囲気で押せば行けそうじゃない? などとヌルいことを考えて火の神を探す少女パートも書き始めてました。だから最初はタイトルが『十夜火姫エペフィヤ白冽姫アーキラ』だったんですよ。

 雪の輝きが天に昇って次の春夏の太陽の光となるのに雪のない冬だったので光が足りず、でも光を提供しないと太陽神はレゾンデートルを喪って死んでしまうのでそういう時は光り物を持ってる別の神から光を借りる、さて今年は火の神から借りました、結果どちゃくそ酷暑で干魃の夏になり人間がやばいので、火の神に願って太陽の神から貸した火を取り戻してもらえるよう子供が送り出されるということにしてたんですが、分かると思うんですけど字数が足りません。

 なので『雪の神を探す少女』のみの物語に割り、タイトルも変更しました。といっても大体全部書き終わるまでタイトル決まらなかったんですけども。


 十夜火姫エペフィヤという熾火の神を書いたのは何故なのか思い出せません。当初そんな設定じゃなくて、主人公クイはただ岩地に住んでたという設定しかありませんでした。世界観からいって、岩地のマイホームから駅前の町役場に通勤するみたいなことでもなかろうと思ったので何かそのような土地で行う第一次産業、と思って岩拾い、特別な岩、神さまの力が信じられているような世界の特別な岩ってなると何か普通ではない、そうですね黒い石といえば長く燃えるってどうですか? という極めて石炭的な発想から種火石エペというものが生まれました。えるしっているか、大きな石炭の塊は鴉の結晶のごとくに美しい。夕張の『石炭の歴史村』には行っておけ。

 まあそのあたりでクイは種火石エペ拾いに長けた子という感じになっていきました。ただ種火石エペは石炭とイコールではないです。石炭のほうが艶があるね。種火石エペはもう少し表面がガサガサして岩っぽい。


 天裂姫スールカなんですが、当初は火打石カリヨプの説明のところに一度だけ出てきた神だったものが白冽姫アーキラに代わっていっぱい出てしまいました。やっぱ雪は未熟な熾火と一緒にはいられないなって思ってしまったもので。その点、雷ならばもう少し火と近しいはずだし、つよそうなので……。

 なお、イメージ的に、白冽姫アーキラは大きな雪狼の背に横座りした白いお嬢様ですが、天裂姫スールカは夜空を乗り回す激烈美人の走り屋おねえさんです。


 さて、その天裂姫スールカの台詞です。


「おまえの魂がるものこそ真実だわ。おまえは望んだものになれる。るより前からおまえは、火種の子、おきの魂のうつわであったのだから。

 さあ、天を駆けよう! 光ととどろきと、熱と火の粉を撒き散らそう。神になるとは、おのれの願いを知ることよ」


 ここが作者てきにめたくそ気に入ってるんですけど私は神に神っぽい喋りをさせるのが多分好きです。神話のような喋りをさせたいと思った。あるいはやや翻訳調の。

 「さあ、天を駆けよう!」あたりで、はいはい乗ってきましたよ~! 神~! ってなってたんですが、続いて「神になるとは、おのれの願いを知ることよ」と書いたあとで、は? となりました。

 は?

 良 く ね ?????

 良さみがすごいのでキャッチコピーにはこの一節を使うことにしました。


 他人の信仰とお気持ちのために死出の旅に送り出された子供の、今の望みは岩地で火種石エペを拾い熾火を見ることで、神になるとはおのれの願いを知ることで、この子は十夜火姫エペフィヤ

 あーなるほどね。そういうことね。私は大体いつも小説を書きながら終盤のところであーなるほどーとなります。自分で書いてて何じゃそれ、という話ではあるんですが、あんまり考えないで書いてて後で何となく辻褄が合ってきたり「ここで噛み合わせたろ!」って思って逆走して前の部分をどんどん直す段階にくると、アハハなるほどなるほどー楽しー! ってキャッキャしながらあっちこっち文章に手を入れてる自分は若干キモいところがあります。

 まあそれで、なるほどねと。

 これは神になる物語だったのかと。

 逢えないと思いながら神に逢おうとして削ぎ落とされて削ぎ落とされて自分が神にのぼる物語だったのかと。


 で、一人お布団のなかでブチ上がりながら(大体夜に寝ながらスマホで執筆)十夜火姫エペフィヤ天裂姫スールカの空でぎゃおぎゃおを書いてましたが、指が滑ってこれが出ました。


『火よ、熱よ、輝いて地に隠れよ。時に種火石エペとなり火打石カリヨプとなり、おおきなものは火山となって、この大地を遠い未来まで動かしてゆくがいい。』


 正直、あっいいですね~! と思った。


 そろそろお分かりかと思うんですが私は基本的に自作大好きなので書きながらヒャーこれいい! すき! さすが私が書いてるから私の好きなものしか出ない、生産構造の勝利! とか本気で思いながらやっております。馬鹿にするならするがいい。苦しみ呪いおのれを恥じながら苦行のように書くより遥かにいいわ。私は私のために書いているので!


 ということでなんかいいラインが書けましたね~と思って、でもこれがラストに使えるとはこの段階では思わなかったですね。


 そもそもどうやって話畳むかとかいつもたいして考えてないんですけど、字数からいうとここで短いラストを書いて終わらないといけないということは分かっていました。5話目『十夜火姫の歌』の前半までは、えーこれどうやって終わろう? と思いながら書いてて、数年後の里のことを書き始めたときは正直ヤバイなと思いました。またこうやって場面を飛ばして無駄な字数を費やしてしまう……と思ったのですが、古老のズレ思考を書いてるあたりで、ああこのすれ違ってる感じで、クイがどうなったかも全く分かってない感じで終わればいっか、とも思って。

 で、私は同じ文句を何度も出すのが割と好きな方なもんですから、さっきの『火よ、熱よ、輝いて地に隠れよ』をもう一度持ってきまして。

 この文句はノリとしては歌だなぁと思って、ここでタイトルが決まり、それで――それで? これで終わります? これで? なんかあまりにも何でもない終わりかたでは? 普通すぎるのでは?

 どうするぅ?


 とりあえず一旦書き終えてはいるんで、あと予想通り文字数ブッチしてるんで、ラストは一旦おいといて頭から字削りしながら色々と考えるフェーズです。

 地の文も台詞も結構たくさん削って、こてこてと左官するように手直しをして、一周二周としながら、またヒュッと指が滑った。

 理由としては。


『火よ、熱よ、輝いて地に隠れよ。

 時に種火石エペとなり火打石カリヨプとなり、

 おおきなものは火山となって、

 この大地を遠い未来まで動かしてゆくがいい。』


 第4話『願いの空』でこの一節を急に書くまでは、私のなかで十夜火姫エペフィヤは小さい石ころくらいの火種の女神でした。

 でも、岩地の種火石エペ、たぶん岩石層に埋まってもいる種火石エペ、ということでついうっかり『輝いて地に隠れよ』と書いたために、もっと地の奥底にもっとたくさん眠っている大きい種火とイメージが繋がってしまったんでしょう。『火山となって、この大地を遠い未来まで』と書いた。

 火山となってこの大地を。

 大地を動かしてゆくがいい。


 YES、地殻変動。ブラタモリ。火山。断層。マグマ。カルデラ。プレート!


 ピンとくる前に、私は既にこう書いています。


おきのように赤々とした尾をゆるやかに振る真っ黒な大とかげで、宙を滑るように進み、その通ったあとは赤く光って焼けている。』


 これもう火口や溶岩の幻視じゃん。


 そこで、古老のモノローグに一行書き加えました。


『それに最近、このあたりではやけに地震が多くなってきた。』


 だよ、という付箋をひとつ貼った格好です。

 いずれ滅ぶ。

 雪が降らなくなったのもあるいはその兆しとしての。

 神がこの地を見捨てたのではなく。

 別の神がこの地にをもたらそうとしている。


 ここで白冽姫アーキラの台詞が予言の機能を帯びます。予言というか神の第一基本姿勢みたいなやつですが。


『わたしたちは基本的に、好きなようにやっているし、人間のために存在してるわけではないのよ』


 これ。

 人間の望み、人間の利益のために神がいるのではない。

 人間が神とその恵みの現象を、勝手な解釈モデルで捉えてるだけ。


 あと気にしたところといえば、造語のルビをいつもと少し違う語感に作るよう意図したかな。名前にしろ「クイ」とか「タシン」とかあまり西ヨーロッパぽくない語感にしようと思って作りました。「エペフィヤ」「アーキラ」「スールカ」「ユーミ」「カリヨプ」すべてそうですね。特にどこという地域は決めてないですが。でもエペとカリヨプはちょっと「ぽく」なってしまったかな……。多神教ちっくな信仰体系なのであまり西ヨーロッパ風だと噛み合わないかなと思ってやったことでしたが、うまくいったかどうか。


 で、今回もいつもの名前大好き話です。今回は誰かに名前を与えられるのではなく自らの名をったパターン。思い出したのではありません。それが自分の名だと初めて思うことによって自分の存在が変化したのです。

 ある意味ではあそこでクイは死んだ。過去から未来まで無数に存在する十夜火姫エペフィヤに融合してしまったので。でも殺されずに生きたとも言える。



 っていう話になりました。。こんなことになるとは思わなかったけど、書くの面白かったです。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る