偽装人形の眠り
【本編情報】
『偽装人形の眠り』
――もう誰もマルグリットじゃない。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054900537453
第二回こむら川小説大賞参加作品。
SF
9,996文字
* * * * * *
新規書き下ろし、テーマ『擬態』、3000~10000字、完結済、というレギュレーションで2020年6月19日~2020年7月25日に開催された自主企画『第二回こむら川小説大賞』のために書いた作品です。
(自主企画ページ: https://kakuyomu.jp/user_events/1177354054900482535 )
毎度お馴染みノープランで書き始めたため、名前から登場人物から当初とはかなり変わって書き終える結果となりました。
ジークは最初はルッツという名前でしたし、相棒はヴィゴではなく賑やかな感じの女子でした。そして何より、ジークとマルグリットが他人でした。あとマルグリット捜索を依頼してくるのがジークではなく別の探偵でした。今の倍くらい人がいました。
短編は、あまり人数を増やさない方が分かりにくさを抑えることができます。どうもこれ、人多すぎますね? と途中で気付いたため、色々刈り込んだりくっつけたりして整理しました。何なら当初はジークが乗る車にさえ名前がありAIが会話しましたが、それも字数的に厳しいためすべて削りました。
とにかく、雑居ビルの探偵事務所に一人でいた主人公が、やって来た親しい相棒を解体する、なぜならそいつは偽物だから。あと全体のネタはドッペルゲンガーで。という骨子のみ最初からあり、他はすべて未定でした。
『本物がどこにもいなくなれば、分身が本物になる』の一文は当初からあって、うまくいくか一か八か、そういう感じで擬態に寄せていこうと思っていました。何とかなったんだろうか。なったかもしれん。
私の書く話には割と死体が出てきますが、大抵は死体になった後であり、殺すシーンというのは殆どないように思います。今回の解体シーンはそういう意味では珍しかったかもしれません。描写のために久し振りに頭蓋骨の図をガン見しました。眼窩を構成する骨は結構数が多いです。
どうせ書くならきちんと凄惨で痛い書き方がしたいと思ったんですが、なんか淡々としてしまったな。バラしてる側のジークが、めちゃくちゃキレてはいるけれども解体作業そのものに興奮も混乱もしていないせいだと思います。
当初バラされる相棒(偽)は女子でした。でも書いてるうちに、血まみれで泣きわめく女子より悲鳴を上げるガタイのいいおっさんの方が個人的にイイな……って思っちゃったので相棒は男性に変えました。その方がエロいし(個人の感想です)、あとで骨格特性のミスマッチを描写する都合もあったし。探偵と相棒の百合はおいしかったんですけど今回はおっさんということで……。
あと、この車は元軍人のヴィゴの愛車で、ライトな街乗り車ではなく、高い走行性能を要求する車好きが選ぶ車種のひとつというイメージでしたが、走行そのものの描写をつける余裕はなかったため全部なし!
ついでなのでまとめて名前の話。
ヴィゴの名はスウェーデン系のViggo。姓はチェコ系の
名の方はカナ書きの字数がなるべく少ないものということで選びました。私は毎度字数上限ギリギリになるので、作中頻出になる固有名詞が長いとそれだけで字数を食ってしまうということを考慮すべきです。『スヴャトスラフ』とか『フュルヒテゴット』とかにしてたらそれだけでレギュレーションが守れなくなる公算が高い。
一方、姓の方は出ても一度か二度ですし、何でもいいので先に決めたヴィゴという名に合っててちょっとよそ者っぽさのある語感のものを探しました。主人公ジーク、マルグリット、そして結局出しませんでしたが車のツァハリアスと、物語の舞台をドイツ語圏っぽいイメージで作っていて、ヴィゴは外にもルーツのありそうなキャラクターにしたかったんです。
外にルーツと言えば、黒幕
ドン・キホーテはキトリをドルシネア姫と間違える――というところが印象にあってこの名前に決めたのかもしれません。
屋号の
さて主人公ですが、前述の通り、ジークは最初ルッツという名前でした。
作中、明らかに説明はしていませんが、一人称が『僕』のジークはマルグリットと同じ生体情報を持ちます。マルグリットは女性名で、キトリの娘でした。なのでジークも生物学的には女性です。
そもそもドイツ語圏の設定で作られていますので、男性用の一人称は無い。仮に日本語で書くならばジークは『僕』と自称しているかんじ、ということでした。
長身でストロベリーブロンドのベリーショート、探偵で、荒事もこなす『僕』ジークリット。このキャラクターは、やや長身ながら華奢でか弱そうなオリジナルの少女マルグリットからなるべく離れようとジーク自身が作り上げたものです。マルグリットから離れるというよりも、キトリが求めたマルグリットのキャラクターから離れようとした、女の子であるためにキトリから強いられた様々の虐待から心を回避させようとしていた、というのが正確なところでしょうか。
このあたりは裏設定ですので作中にはありませんし、この部分がなくても話は成立すると思います。ただ作者の私のなかではそういう感じになっていて、ジークは
ヴィゴは多分そのあたりも分かっていながら、男の子の名前は与えませんでした。擬態に擬態を重ねることでしか自分の精神を守れない危うい女の子に、略称が男の子のようにも聞こえる女の子の名前を選んだ。ヴィゴなりに考えた結果の、一種の魔法だと思います。
あとは、人造物のオペレーションにまつわる様々の語をルビでたくさん入れました。
それと人体の部位名にまつわるルビが多めでした。ただ「頬骨」「頭蓋骨」と書くと一般的には「ほおぼね」「ずがいこつ」と読まれると思うのですが、ここを医学用語準拠で「きょうこつ」「とうがいこつ」という風にしたかったので。
お話をどういう風に終わるか全く決めてませんでしたが、後からジークを不眠症にしたので逆走して前編手直ししました。なので「ヴィゴは僕の毛布」という記述が生まれたのは執筆のかなり終盤になってからです。
寝かしつけというのは基本的に優しい行為で、眠りと死の区別が曖昧なジークを寝かしつけるには信頼がなくてはならなくて、それで「必ず起こしてやるから」とヴィゴが言い出したため、私はそこで「なるほど、寝かしつけたら起きるまで一緒にいてくれるのかこいつは……」と思いました。
海の夢で終わるのも、『
書いてみて、かなり自分の好みの話でした。漫画だったら人形の廃棄処分場や奇形発生を唸るほど背景に描き込みたい。
『擬態』というテーマ、とてもよかったです。またお気に入りをひとつ書くことができました。
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